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【小説】青い瞳と飛行機雲【中編】

それから3年ほどして高校生になったリズは、あれ以来ボーイフレンドを作ることなく単調な日々を送っていた。
適度に勉強し、友達とたわいのない話で笑い合う。
成績も悪くはなく、家族に問題もない。
そんなおだやかな毎日は、何かが不足しているわけでもなく、かといって、満ち足りたというには平凡すぎた。
唯一心の中に暗い影を落としているのはロバートのことだったが、それも心のずっと奥にしまい込んで思い出さないようにしていた。

その日は暑くもなく、寒くもないおだやかな日だった。
いつもなら友達とおしゃべりをしながら帰るところだが、たまたま友達はみんなアルバイトやデートに行ってしまって、リズは一人だった。
帰るにはまだ早い。
かといって、何かすることがあるわけでもない。
リズはグラウンド脇のベンチに座って、心地よい風と小鳥の鳴き声につつまれながら、何とはなしに男の子たちが野球に興じる様子を眺めていた。

誰かがヒットを打ったのだろう。
「そっち行ったぞ!」
「どうせまぐれだ!」
グラウンドがにわかに活気づいた。
「しくじるなよ、ロバート!」

その瞬間、リズの脳裏に、あのはかなく輝いていた日々がよみがえった。

幸か不幸か、球はリズの目の前に転がり落ちた。
駆けてくる少年はまぎれもなくあのロバートだった。
背は15センチは伸びただろうか。
顔立ちはずいぶん大人びて、そばかすはほとんど目立たなくなっていた。
彼はもう、少年というより立派な青年になっていた。

ロバートは球を追うのに夢中な様子で走ってきた。
最初はリズの存在に気付いていないようだったが、球を拾って顔を上げた瞬間、彼の体は硬直し、大きく瞳を見開いた。
その表情から、今目の前にいるのが淡い初恋の日々をともにしたリズだと気づいたのは明白だった。

ロバートの目に、リズはどう映っただろう。
少しはきれいになったと思ってもらえただろうか?
それとも忘れたい嫌な女としか映らなかったのだろうか?

リズにはずっと伝えたいと思っていたことがあった。
ロバートが大好きだったこと。
初めてのデートがとても楽しかったこと。
本当はおやすみのキスをしたかったこと。

けれども……それを伝える隙もなく、ロバートはすぐに踵を返して走って行ってしまった。

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