#22 愛の不時着する部屋
「愛の不時着」を見た。
韓国ドラマを見るのは実に「冬のソナタ」以来だ。母親が韓流にハマりだしてから、実家では常に韓国ドラマとK-POPが流れていてうんざりしていたのだが、昨年末に韓国に旅行に行ったこともあるし、ネットフリックスで第一位になっていたり、強いすすめがあったことから見ることにした。
見るまえは「愛の不時着」だあ?とまた甘ったるいそれらしいタイトルつけやがって、などと思ってはいたものの、ネットフリックスだし、映像や俳優陣、ストーリーは固いだろうと思って第一話を見ると、案の定、見事にハマった。
ストーリーはソウルで人気の財閥令嬢ユン・セリが、自身の会社の商品をテストするためにパラグライダーに乗るところからはじまる。しかし、パラグライダーは竜巻に巻き込まれて、気づいたときには38度線を越えた北朝鮮の軍事境界付近の森のなかだった。
そして、パラグライダーが木にひっかかって降りられずに困っているときに、ちょうど北朝鮮の中隊長リ・ジョンヒョクが通りかかる。当初は、捕えて保衛部に連れていこうとするも、リ・ジョンヒョクはじめ中隊のメンバーたちでユン・セリをかくまい、無事に南(韓国)に送りかえそうとする。
中隊長リ・ジョンヒョクは、実は総政治局長の息子ということになっており、いわゆる最エリート層の一人だった。だから、言ってみれば「ロミオとジュリエット」の関係と同じだ。劇中では「織姫と彦星」のたとえで語られるが、南北朝鮮版「ロミオとジュリエット」と考えるのが一番わかりやすい。
北朝鮮で人ひとりかくまうことの困難は計り知れず、それがまた南に帰そうなどということがどれだけの苦難を待ち受けることになるのかは、だいたい想像できるはずだ。想像するだけでおそろしい自体。だから、かなりシリアスな舞台で話が進んでいくのかと思ったが、意外にもそれがコミカルに進んでいくことに驚いた。
北朝鮮での生活は、農村ではまだ近代化しておらず、毎日何度も停電するのがあたりまえ。水道があるわけでもなく、ガスもない。そういうなかだが、質素ながら、人情味あふれる生活を送る人々が描かれる。ぼくたちがニュースなどで思い描く「北朝鮮」はそこにはない。
トップクラスのセレブであるユン・セリは、はじめはそんな生活に耐えられるわけもなく、リ・ジョンヒョクや中隊のメンバーにわがままばかり言うが、みなでわいわい食べたり、飲んだりすることの楽しさにだんだんと気付いていく。
そういう姿を見ながら、ぼくたちの「北朝鮮」もまた変化していく。なんだかよく「北朝鮮」なんかぶっ潰せみたいなことを、ミサイルを飛ばしたなんてニュースを見るたびに職場で言っている人たちもいるのだが、こういう人々の姿を見ると、何も変わらない人間なんだよね、とあらためて思ったりする。当然のことなんだけれども。
当然、おそろしい「北朝鮮」も描かれるし、愉快な「北朝鮮」はあくまで「韓国」側が作り出したフィクションでもあるし、「韓国」のイメージ戦略の手のひらのうえでぼくたちは踊っているにすぎないが、それでも「平和」ってこうして「知る」ってことからだよなあと思った。
このドラマは一話がだいたい「一時間半」くらいある。話によってまちまちなのだが、かなり濃密に描かれていて、それが16話分もある。ぼくはGWに入ってから見だしたが、実に25時間分くらいかけて見たことになる。
北朝鮮での生活、幾度も訪れる死地、中隊メンバーの癒されるやりとり、ゴシップで盛り上がる村の女たち、韓国から逃れてきた詐欺師と北朝鮮セレブに芽生える愛、それぞれの父母の思い、兄の思い出、兄弟の計略、繰り返される別れの挨拶、泣いてばかりの人々……
そういう、人びととの出会いが、その25時間たっぷりと詰まっている。なんだか、一緒に旅をしてきたような感触がある。中隊のメンバーがソウルの「SUBWAY」で「ウエィーーイ!!」と盛り上がっているときにぼくは一緒に声をあげている。
部屋でひとり。
でも、ぼくは彼らとたしかに一緒にいたのだ。
ユン・セリとリ・ジョンヒョクの愛の芽生えとその結末を、ぼくたちは一緒に見守っていたのだ。
ぼくたちは「同志」だ。
なんだろう、この気持ちは。
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