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CAさんが居てくれるからそれは旅なのであり、CAさんが居なければそれは旅では無い


旅好きの『僕たち』は、何か大切な事を忘れていないか?


絶景、美食、旅先での出会い、新しい自分の出会い。

『旅』というのは、いつも『自由』という『夢』を見せてくれる。

これから旅先で起こる全ての現象が、生活で溜まったストレスや、わずらわしい人間関係、我慢、立場、あらゆる物から解放し、僕たちを『自由』にしてくれる。

旅は良い。

そして、『自由』と同時に、『不安』も描きだす。

起こりうる現象全てに、不安はまとわりついている。

でも、だからこそ人間は、本当の『自由』になれるのだ。
確か、キルケゴールもそんな感じの事を言っていた。

だから、旅は良い。



しかし、旅先で迎える輝かしい『夢』にばかり、フォーカスしてしまっているんじゃないか?

本当に大切な事は『目の前』にあったりするのではないか?

『旅が好き』と言うなら、もう一度考え直して欲しい。



旅には、いつだって『CAさん』が居てくれる、と言う事を。


CAさんは、僕たちの旅に、いつでも、どんな時でも居てくれるのだ。

言わば『CAさんが居てくれるからそれは旅なのであり、CAさんが居なければそれは旅では無い』のだ。

この事を、今一度見つめ直して欲しい。

CAさん、いつも本当に本当にありがとうございます。





僕は『乗り物酔い』が激しい。小さい頃から三半規管が極端に弱く、8分間、助手席に座っただけで、死ぬほど酔う。揚げ物を食べた日は、発進する前の車で酔う。

そんな僕の飛行機デビューは、小学生の頃だった。

ある年の夏休み、僕が住む岩手県から、従兄弟が住む京都へ行く為、『花巻空港』から『関西国際空港』までの飛行機に乗る事になった。

国内旅行、出発の空港にも、到着の空港にも、保護者がいる、とは言いつつも、幼い僕と、2つ上の姉との2人旅だ。周りの大人は心配に決まっている。でも、保護者たちが何より心配していたのは、僕の『飛行機酔い』だった。

姉貴も本当は、心配されたかっただろう。僕が大人たちの心配を、占領してしまった事は、今でも申し訳ないと思っている。

飛行機の中、案の定、僕は酔った。離陸後数秒で限界が来た。

隣の席で、もよおし、項垂うなだれる僕を、姉貴はどうする事もできないでいた。念の為、背中をさするも、荒れる僕の三半規管を沈めることはできない。機内で叫ぶ僕を見て、泣きたいのは姉貴の方だっただろう。

僕の異変にいち早く気づき、シートベルトが外せるようになった途端、CAさんがこちらに駆けつけてくれた。そこから到着するまでの間、僕の吐瀉物としゃぶつを物ともせず、彼女は介抱し続けてくれた。

関西国際空港についてすぐ、叔母がCAさんに、何度も何度も頭を下げている姿を、今でも覚えている。

僕にとっての初フライトは、甘酸っぱい思い出になった。
(もちろん、ここで言う『酸っぱさ』とは、喉越のどごしの事である)

僕は、そこから31歳になる今まで、ずっとずっと飛行機が好きだ。
そして、CAさんが好きだ。




そこから20数年の月日が経ち、今、僕は『台湾』に向かっている。

成田空港第一ターミナルから、桃園国際空港までは、およそ4時間のフライトである。出国手続きを済ませ、28番搭乗口から、飛行機に乗り込んだ。

機内へと続く階段を登り切ると、CAさんは『笑顔』で迎え入れてくれた。

いつ見ても、彼女たちの笑顔は気持ちが良い。広告ポスターの作られた笑顔とはまるで違う。あまりにも自然で、心地よい笑顔だ。

この笑顔を毎回、そして乗客全員に、無料タダでくれるのだ。こんなプライスレスな事はない。

彼女たちの接客態度には、毎度敬服する。



僕が座る『29C』の席は、かなり後ろの方だ。
機内の中央には1本の通路が通っており、両側に3列ずつシートが並んでいる。

僕は、自分の座る前、背負って来たリュックを、通路の上の棚に仕舞い込んだ。

通路側の席に座った僕は、早速シートベルトを締め、乗客全員が乗り切るまでの間、本を読む事にした。

本を読んでいる際、視界の端にチラチラとCAさんが見切れている。

機体の後方を見回りしているCAさんは、華奢な体で、ベリーショートの髪の綺麗な女性である。短く切った襟足が内巻きにカールし、細い首に巻き付いている。おそらく癖毛なのだろう。

彼女は、白いシャツに、真っ赤なスカートをまとっている。
もし、僕が国のトップなる事があれば、国指定の辞書の『清潔』の欄には、是非、彼女を推薦したい。


急いで乗り込んでくる乗客たちは、席の上にある棚に、荷物を乱雑に乗せていく。

襟足の彼女は、すかさずその荷物を『他の乗客が乗せれるように』と、整理を始めた。この仕草だけでも、彼女が『心優しい人』であることが伺える。

次々と棚の整理をする彼女。
彼女は、通路側に座る僕の上の棚の整理を始めた。

僕が本を置き、ふと見上げると、そこには、空いっぱいのCAさんが広がっていた。

良い。

僕は、彼女に包まれた安心感から、眠れない夜、ばあちゃんが側にいてくれた事を思い出した。

ライト兄弟の功績は『飛行機を飛ばしたこと』ではない。
飛行機という乗り物の席の上部に棚を設けた事である。



乗客が全員揃ったようだ。
離陸直前、CAさんたちが等間隔で通路に並び、機内の説明を始めた。

僕は真剣な眼差しで説明を聞いた。しかし、辺りを見渡すと、『慣れ』からか誰も聞こうとしていない。

今、僕は、憤りを感じている。

こういう奴らに限って『いざ』と言うとき狼狽うろたえるのだ。
全くもって、クソである。

ディズニーランドに行ったら大はしゃぎでパレードは見るくせに、なぜこれは見ないのだ。

奴らは、クソである。



後列で説明している襟足の彼女は、緊急事態が発生した際『誰も取り残さないように』と一生懸命、説明をしてくれている。

なんて、尊い存在なのだ。

彼女いわく、自分が座る椅子の下に、救命胴衣があるという。

彼女は、ベスト型の黄色い救命胴衣を羽織り、すそから出ている紐を下に引っ張った。すると、救命胴衣が大きく膨らんだ。これで、海に落ちても浮いていられると言う訳だ。

万が一、膨らみが足りない場合は、脇あたりから出ている赤い棒に、息を吹き込むと空気を追加できるらしい。

彼女は、デモンストレーション用の救命胴衣の棒に、口が触れないように、膨らませるジェスチャーをし、息を吹きかけている。

良い。

完全に、僕の方が緊急事態である。

聞いた話によると、サーファーにとって『最高の憧れ』とは、波の中の『グリーンルーム』をくぐる事らしいが、今の僕にとっての『グリーンルーム』は彼女の襟足の中である。あの襟足の中に僕の夢はある。



僕たちを乗せた飛行機は、無事離陸した。

しばらくしてから、僕はトイレに行きたくなった。よく考えると、飛行機の中にトイレが設置されているなんて、本当にありがたい事である。企業努力には頭が上がらない。

機体の後方に設置されたトイレが使用中だった為、僕は、前方のトイレに向かった。すると、時を同じくして、向かい側から襟足のCAさんが歩いて来た。

狭い通路。人1人通るだけで精一杯である。すれ違う際CAさんは、乗客が座る席に体を倒し、僕を通そうとしてくれる。

本当に優しい人だ。

すれ違う際、まるでアポロ13号が月面着陸したあの瞬間のような緊張が、僕の体にほとばしった。

『万が一、このタイミングで飛行機が乱気流に突入し、機体が揺れ、CAさん側によろめいてしまったら、彼女に怪我をさせてしまうかも知れない。』

それだけは、絶対に避けなければならない。
僕は、壊れてしまいそうなほど、華奢な彼女の体に触れないよう、ありったけの力を使い、通り抜けた。


トイレで用をたしている時に、ふと思ったのだが、『避けてこられた席』に座っている人って、ズルくないか?

その席に座れば良かった。

LCC、最高の乗り物である。


席に戻る際、機体の1番前で、おそらく倒せないであろう『直角の椅子』に、別のCAさんが『ちょこん』と座っている。

良い。



到着までは、残り1時間くらいだろうか。
僕と同じ列の、窓側に座っている男が『ビール』を注文した。

フライト中にビールとは、なんとも贅沢な男である。

襟足の彼女がコチラにやって来た。彼女は、窓際の男性と商品のやり取りする際、腕を限界まで窓側に伸ばしている。

この時の通路側の席に座る僕の視界は、少し袖捲そでまくりした彼女の腕でいっぱいである。

透き通った白い肌。
適度に筋肉のついた細く、しなやかな腕橈骨筋わんとうこつきん

今か?救命胴衣を取り出すのは?

僕はそのそでに、一緒に腕を通したいと思っている。

よくやった少年。もっと飲め。今日は俺の奢りだ。
ビバ・フライト中のビールである。



こうして今日も、彼女たちのおかげで快適なフライトが体験できた。

僕は、あの日からCAさんに恋をしている。

あぁ、全ての客室乗務員さんに、幸あれ。

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遠藤ビーム
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