見出し画像

「発達の最近接領域」から考える理想の校内研究の進め方

 

発達の最近接領域

「発達の最近接領域(ZPD)」はご存じでしょうか?
「あー、ヴィゴツキーのあれね!採用試験のときに覚えたね。」っていう人もいるでしょうか。
 発達の最近接領域(ZPD: Zone of Proximal Development)は、ロシアの心理学者レフ・ヴィゴツキーが提唱した概念です。簡単に言うと、「子どもが一人ではできないけれど、大人や少し上の仲間の助けがあればできること」を指します。「一人ではできないゾーン」と「一人でできるゾーン」の間、助けがあればできるゾーンがZPDです。

わかりやすい例

  • できること:「簡単な足し算は一人でできる」

  • できないこと:「掛け算はまだ理解できない」

  • 最近接領域:「大人がヒントを出したり、友達と一緒に考えれば、少しずつ掛け算の考え方が分かる」

 つまり、「最近接領域」は、学習の成長が起こるちょうどいい挑戦レベルを指します。ここで適切なサポート(足場かけ=スキャフォールディング)を受けると、子どもは一人でもできるようになり、その結果、発達が進むのです。この考え方は、教育の場面でとても重要で、「子どもにとって少し難しいけど頑張ればできること」を支援しながら教えることが、効果的な学習につながります。

一人ひとりちがう「最近接領域」

 発達の最近接領域(ZPD)は一人ひとり違うので、学校で全員が同じ授業を受ける「一斉指導」は難しい面があります。例えば、ある子にとっては「簡単すぎる」内容でも、別の子には「難しすぎる」ことがあります。そのため、一斉授業だけでは、全員にちょうどいいレベルの学習機会を提供するのが難しいのです。
 この理解なくして、「個別最適な学び」は本当の意味で理解ができないと考えます。

先生の「発達の最近接領域(ZPD)」も異なる

 これは先生にも同じことが言えます。
子どもにとっての授業=先生にとっての校内研究として話を進めます。

  • 新任の先生:「授業の流れを作るのが難しい」

  • 経験を積んだ先生:「授業改善や生徒の主体的な学びを深めたい」

  • ICTに強い先生:「デジタルツールを活用した授業を研究したい」

 こうした違いがある中で、全員が同じ研究テーマを進めると、ある先生には簡単すぎたり、逆に難しすぎたりしてしまいます。
 現状の多くの学校の校内研究が上手くいっていない場合、その原因はここにあると考えています。今までの校内研をまず忘れて、ゼロベースにしたあと、どのような校内研究が上手くいくのか考えます。

私が考える理想の校内研究

自分でテーマを決める・選ぶ

 個別の関心やレベルに応じたテーマ設定します。先生自身が「今、伸ばしたい力」に合ったテーマを選べるようにする。グループごとに研究テーマを分ける方法もあると思いますが、これだとどうしても「お客さん」が出てきてしまう。個人個人の試行錯誤の経験が弱くなります。
 テーマが思いつかない先生もいると思います。ここはテーマを決めるまでに時間をかけます。一人一人の興味を掘り起こす。まずは、「自分と向き合うこと」です。

  • 今まで出会ってきて、いい影響を受けた先生を洗い出してみる

  • どんな授業がしたいか。どんな授業をしたときにうまくいったと感じるか?

  • 今の自分やクラスの強みや課題

 上にあげたのは一例ですが、教師の道を選んだ人であれば、きっと「目指したい何か、やりたい何か」が自分の中にあるはずです。これを一人で考えて見つけるのは難しいので、先生同士で引きだし合います。メンターのような人、コーチングのようなことができる人の存在が重要だと思います。例えば、クラスをもっていない先生がブロック団のサポーターになるとか?それとも、その先生も今の自分に合ったテーマをもったほうがいいのか?

個人研=孤独研=不安研にしないために

 新しいことにチャレンジしたり、今までのものを捨てるには勇気が必要です。不安な気持ちになる人がいて当然だ。不安な気持ちが少なくなるようにできることはなんでしょう。
 まずは、焦ってしまう人がいないように、ゆっくり進めること。そして、認め合える環境であること。つながりを作り、学び合える環境づくりをすることが大事だ。

  1. 「研究の仲間」を見つける(チームで支え合う)
    テーマが近い先生とゆるやかなグループを作る。興味のある分野ごとにチームになると、お互いに助け合える。また、設定したテーマに詳しい先生とつなげる。

  2. 途中経過を共有する(アウトプットの機会を増やす)
    定期的に「ミニ発表会」を開く
    → 研究の進捗を簡単に報告し合い、意見をもらう場を作る。
    校務支援システムの掲示板で発信する
    → 研究の過程や悩みを発信すると、同じような悩みを持つ人とつながれる。

  3. 「不安」を減らすために、小さな成功を積み重ねる
    「うまくいかなくてもOK」「ゆっくりでOK」のマインドを持つ
    → 研究は試行錯誤の連続。失敗や迷いも学びの一部と考えると、気持ちが楽になる。

  4. 研究の「意味」を見つける
    なぜこの研究をするのかを明確にする
    → 「この研究をすることで、授業がどう変わる?」「子どもたちにどんな影響がある?」と考えると、研究のモチベーションが高まる。
    実践と研究をつなげる
    → 実際の授業で試せることを研究テーマにすると、研究が「実感できる学び」になり、楽しくなる。

  5. 先輩や専門家に相談する
    指導教員や経験のある先生にアドバイスをもらう
    大学の研究者や外部の先生とつながる(教育研究会・勉強会などに参加する)


研究を日常に(実践とアウトプット)

 自分で決めたテーマをもとに、日々実践をしていきます。自分のやりたいことができるので、楽しいです。その反面、自分で考えるので、難しさもあります。この難しさ=もがくこと、試行錯誤することです。これをくり返していくときに教師は成長するのだと思います。困ったときは、助け合います。これは子どもも先生も同じ。先生同士で学び合う。経験豊富な先生が新任の先生をサポートして、新しいアイデアを持つ若手の先生が、ベテランの先生に刺激を与える。
 ここで大事になってくるのがふり返りです。子どもにやらせている割に自分自身がしていない先生が多いですね。毎日ふり返りをする習慣が身に付くといいです。ドキュメントなどにふり返りをする習慣をつけ、それをお互いに見合い、コメントをつけ合う。本当の意味でふり返りの価値を感じる先生が増える。そうすれば、それは子どもにも伝わるはずだ。

 自分の研究がどう進んでいるかを、「3分間プレゼン」「ミニ発表会」みたいにして、発表し合うのも効果的だと思います。

結果に責任をもつ

 研究をしたからには、結果に責任をもつことが大事だ。子どもはそう簡単に変わらない。しかし、1年取り組んだら少しは変わるはずだ。「子どもの姿がどう変わってきたか」を見取り、最後にまとめて発表する。成長は、簡単に数値に表せないからといって、そこをないがしろにしない。そうすれば、子どもたちの学びの質と量が上がるのではないか。

 これが、「研究を自分事にする」ことにつながる。
看板(自分の研究)を持つってことは、結果に責任をもつってことだ。

自分でサイクルを回す

 先生方が「テーマ設定→探究→実践→振り返り」の学びのサイクルを自分で回すようになれば、たとえ、異動したとしても、自分を高めることをやめない先生になる。これは「作家の時間」の取り組みをすると、授業が終わっても書き続ける子どもと同じだ。

商店街のような職員室

 教師がそれぞれに看板を掲げて、それぞれに商売をする。この場合、職員はにぎやかな商店街。個人商店主=教師たちが揃う学校というか、職員室の創造が可能なのではないか?

 以上、エンチャントでした。


いいなと思ったら応援しよう!