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『恐れのない組織』~心理的安全性が組織を機能させる

「女性はわきまえない」という言葉がメディア上にあふれました。この言葉はこれ自体が物議をかもすものでありましたが、実際のところ「わきまえる男性(女性)」の姿も浮き彫りにしました。「この発言をしたら、(上司の)気を悪くするのではないか」「上で決めたことだから…(しょうがない)」そんな風に組織が運営されていることが誰の目にも明らかになってしまった、そういうことだったと感じます。

さて、今回の『恐れのない組織』は2011年以来経営思想家ランキング「Thinkers50」に選出されているハーバードビジネススクールの教授、エイミーエドモンドソンの著作です。副題は「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす、というもので、「恐れのない組織」とはどんな組織なのか、「心理的安全性」とはどういうことなのか、それが組織でどのように働くのか、昨今のニュースを考えてみても、とても興味をそそられますね。

①「心理的安全性」とは

産業革命以降「標準化(労働者による決まった単純労働)」によってその組織の業績を上げる手法がとられてきました。現代においては「標準化」ではなく、成長を推進するにはナレッジワーカーの「発想と創造あふれるアイデア」が必要であり、組織はその人々が更なる価値創造を実行するため新たな方法を探し出さなければならなくなっています。複雑で不確実な世界で成功するために必要なものは何でしょうか。 

現代の競争で優位に立つには、知識とイノベーションが必要とされています。組織が本当に成功するためには、優秀で意欲的な人を採用するだけでは不十分だと著者は言います。なぜなら彼らの能力が必要とされる重要な局面で必ずしもその能力が提供されるとは限らないからです。それは本人自身がその能力を必要とされていると認識してない場合もあるが、大きな理由の一つに、彼らが目立つこと、間違うこと、上司の気分を害することをしたがらないからです。
 知識労働が進化を発揮するためには、人々が「知識を共有したい」と思える職場が必要です。ところが今日の職場で、人々が本当の考えを言うことはほとんどありません。格好悪く見えるかも知れないことを口にしたり、尋ねたりするのを渋るうえ、厄介なことには会社がグローバル化して複雑になるにつれてチームで行う仕事がどんどん増えてきているのが現状です。

いろいろな職場でのパフォーマンスに差があるのはなぜか、ということを研究した結果「心理的安全性」と呼ぶものが一つの要因になっていることを著者は突き止めました。自分ひとりの仕事を自分がやれば終わり、といった仕事はなくなり、効果的に協働しなければ成果が出ない判断と行動は日に日に増えているのが実情です。形式的なチームの中だけでなく、むしろメンバーの組み合わせが刻々と変わる場で成果はあがっています。

このダイナミックな協働を 「チーミング」と名付けました。あらたなメンバーとの協力かそれまでの固定したメンバーとの協力かを問わず、最も効果的に協働するためには心理的に安全な職場でなければなりません。
心理的安全な職場とは「対人関係の不安に悩まされることがない」ということです。つまり、「これを言ったら空気が悪くなるのでは?」「みんなが馬鹿にするのでは…」という不安がなくなれば、彼らは積極的に話すし、対人関係につきもののリスクを積極的に取ろうとします。すると、リスクを最小限に抑え、チームや組織のパフォーマンスを最大に発揮できます。


心理的安全性の有無によって、顧客に満足してもらえるか或いは損害に繋がりかねないクレームとなるか、間一髪で事故を防げるか最悪の労働災害になるか、はたまた高い業績を上げるか、大失敗に終わるかを左右する場合もありえます。
大まかにいえば、みんなが気兼ねなく意見を述べることができ、自分らしくいられる文化のことです。
複雑かつ絶えず変化する環境で活動する組織において、心理的安全性は価値創造の源として絶対に欠かせないものです。
ところが実際は、2017年のギャラップ調査ではアメリカ国内において「自分の意見は職場で価値を持っている」という質問に「非常にそう思う」と答えた従業員は10人中3人であったそうです。もしも10人中6人ならば、組織は離職率を27%、安全に関する事故を40%減らし、生産性を12%高められるはずだと著者は指摘しています。

②失敗からの発見

この考えに関心を見出したのは1990年筆者が携わった病院での調査を行った時でした。大問題になりかねない手術での人為的ミスのデータを調べるとその原因を突きとめるために病院組織の構造と文化、もう一つは時間との戦い、組織がチームとしてどのように機能するか。筆者はそんな中で偶然「心理的安全性」の重要性を知ることになりました。

近頃は各業界の専門家の間でも心理的安全性という考えが定着してきています。さらにリーダーたちのブロゴスフィア(ブログでつながる世界)で広まり、急速に支持を得ています。
きっかけは2016年2月の『ニューヨークタイムズマガジン』 に「最高のチームを作る要因は何か」突きとめるという記事で、グーグルでの5年にわたるプロジェクトを発表したことでした。当初決定的な要因は見出されなかったのですが、ついに「学術文献」の中に心理的安全性という考えに出会いました。そしてすべてがそれで収まることに気づきました。研究者たちが見出した5つの成功因子のうち、心理的安全性の重要性は群を抜いている、明確な目標設定、相互責任の強化など、他の4つの因子も重要だがもしチームメンバーがこの心理的に安全だと感じていなかったら十分な成果を上げることはできない、と発表しました。ここで心理的安全性はすべての組織における成功要因の土台、と考えられていることがわかります。

次回細かく見ていきましょう。


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