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【cinema】La Maison 小説家と娼婦

女性作家エマ・ベッケル(Emma Becker)の自伝小説の映画化。"emma"が原作で主人公でもあって、小説家で娼婦に? 秋ぐらいに映画館から持ち帰った真っ赤で挑発的なフライヤを手にして、emma mizunoと名乗る私が観なきゃダメでしょ、とそれ以上の情報は取り入れずに、なんちゃらサービスデーで1.400JPYで鑑賞できたので行ってみる。『La Maison 小説家と娼婦

書く仕事の人がその筆を高めるために色々なアプローチはあって、エマ・ベッケルの取った策は実際にユニクロで働いてルポを書いた横田増生さんなどと、その構造は同じだと思うけど、その体当たりの程度が違いすぎると作品の観始めは思っていた。ドイツがセックスワークの「先進国」といえばいいのか自信がないが、合法で年金など社会保障のへの加入や労働組合も認められているとのこと。フランス人である映画のエマの舞台もベルリンである。
2作既に出版していて3冊目のための取り組みだから30歳くらいだろうか、あまり年齢も気にしていないし、1軒目の売春宿では「フランス女」を良くも悪くも彼女の売りと認識されていて、欧州における「フランス女」と揶揄する背景を私は掴めていない。ここは要研究。
R18指定作品なので相応のセックスシーンはたくさんあるのだが、全くエロいものを観た実感を得られない(悲しんでいるわけではないわよ)。エマを演じるAna Girardotが綺麗すぎるせいもあるけど、あくまでセックス「ワーク」なのだ。最初は強く貫くエマの取材目線によるものだったが、そのうち仕事としての面白みややり甲斐が加わり、仕事のスキルを一つ一つステップアップしていく醍醐味を観ている我々と共有する。その仕事がたまたま娼婦だったのだ。そしてエマは取材以上に「仕事」に折り合いがついていく。
同居している妹、仕事仲間にはこのベルリンでも到底理解は得られない。娼婦の仕事に夢中になっていく自分をコントロールできない。1軒目で客に乱暴をされて店を移るのだがここで辞めずに移るところが面白い。でも、きっと取材としての達成感がまだ薄かったのだろう。2軒目の映画のタイトルでもある「La Maison」が当たりすぎた。同僚たちは諸事情で娼婦をやらざるを得なくて、でもみんな仕事のプロで、仲間はしがらみもなくそれぞれを尊重して認め合っている。エマはそんな真剣に生きている仲間が好きになっていく。一方で執筆のために書き溜めたメモは、仲間にとっては業界の裏側を部外者が覗き見されているような嫌悪を覚えるものでそれはやむを得ない。仕事仲間としての敬意を持ちつつ「あなたのそういうところが好きでない」とキッパリエマに向かって云える同僚ドロシーの気高さが本当に美しい。
この原作は世界中でヒットしているようだが日本語版はないようで書籍ではどうなっているかわからないが、最後は残念な客の乱暴により娼婦から撤退する。足掛け2年。マッチングアプリで出会った恋人には誠意と誇りを持って自分のリアルを告白して、相手も理解を示そうとしていたが、その理解の途中で映画は終わる。

何事も経験を通じてしかわからないこともあるということ、仕事はどんな仕事かも問われてもいいけど、どう取り組むかによってその仕事の質や濃さも変わってくるもの、仕事にはそれらを理解、尊重し合う仲間がいることが望ましいこと、R18+の作品をみて思うことってそんなことばかり。そしてもうセックスワークについて、これだけグローバルで歴史の長い仕事も数少ないであろう。是非や倫理観も含めてもう少し、実際今までに何があって現在どんな課題があるのか、もっと明るみに出ていいと思う。そして、原作をせめて英語で読んでみようかしら。

あと「フランス女」の意味。劇中でセクシーな下着を「貴族の娼婦の名残」と突き放す妹の言葉も気になって、下着の歴史をそういう方面からも研究してみたいと思う。

最後に、封切りから1週間くらいなんだけど、席がガラガラだったのが気になる。なんか全然露骨でないんだけどなー。挑発的なフライヤかな、観終えると予告編のVがどうも作品の魅力を描けていない気がする。娼婦にお世話になったことのある人も、全くそういうものに不案内な人にも、すごく観てほしい。

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