アスリートとトラウマ②脳だけ別の身体に移し替えたりできないけど,“からだ”と“こころ”のつながりを取り戻すことで回復できます。
先日,NHKの番組フロンティアを見ました。
タイトルは「世界は錯覚で出来ている」
ハート型に見えているものが鏡の中では
ダイヤやスペードの形に映っているなど,
文字通り「自分の目を疑う」映像でした。
目の前の現実を知覚してとらえていると
思っていたけど,
実はすごくあいまいに知覚したものを
脳が(これまでの情報を元に)補っている
ということでした。
面白い!と思ってみていたのですが,
さらに,
脳だけを取り出して別の身体に移すことができるようになるかもしれないと聞いた時,
えーそれって大丈夫なの?!ってなりました。
というのも,
ちょうど読んでいた本"Healing Trauma"*の中でトラウマ治療で大事なことは身体とのつながりを取り戻すことだと書かれていたからです。
人は耐えがたい事態に遭遇した時,
その場面から解離する
(意識から切り離してしまう)ことで
対処する場合があるのだが,
意識的には覚えていなくても
身体にはしっかり記憶されているので,
つらい記憶から心を守るために
身体に注意を向けない(切り離す)ようになっている。
安心安全な場所で身体とのつながりを
取り戻すことで回復の道をたどることができる
ということでした。
フラッシュバックなどトラウマ症状のつらい点は一見何の脈絡もなく突然過去の恐怖の場面が
今現実に起こっているかのように体験されることです。
これはまさに今の現実を知覚しているのではなく,脳が作り出しているのでしょう。
ちゃんと自分の身体の中に定位置に収まっている脳なのに,
こんなに暴走して人を苦しめるとしたら,
別の身体に入れ替えられて上手くいくとは
到底思えませんでした。
無理,無理と思いつつ,ふと,
じゃ、全くトラウマやネガティブな体験を
していない身体があったとして,
そこに脳を入れ替えたら
トラウマフリーになれるのかなぁ
と,とんでもない妄想が...
もちろん,身体を取り替えるなんてできません!
でも,取り替えなくても,
身体とのつながりを取り戻すことで,
過去のトラウマ記憶のせいで,
現在の刺激に過剰反応していることに気づき,
反応し過ぎないように
身体を整えていくことは可能です。
そのために最近では
ソマティックエクスペリエンシング(SE),
センサリモーターサイコセラピー,
タッピングのTFTやEFTなど
身体からアプローチするボディサイコセラピーがトラウマ治療で効果を上げています。
(それぞれの技法は公式ホームページがありますので,興味をもたれたら検索してみてください。)
身体も脳も取り替えたりできないし,
過去の体験もなかったことにはできませんが,
適切な治療を受けることでトラウマからの回復は可能であることを知っていただきたいと思い,
この記事を書きました。
*"Healing Trauma"の著者はトラウマ治療の技法であるソマティックエクスペリエンシング(SE)を開発したピーター・リヴァイン(Peter A. Levine)博士です。