1.曲直対比(1)- i
1.見る
まずは、絵を見ます。
ポケ~っと、30秒ほど眺めたいと思います。
Amedeo Modigliani, Portrait of a Woman in a Black Tie, 1917, oil, canvas, Private Collection
2.考える
背景の部分をごらん下さい。
顔の横近くに黒い縦線が二本、目立って入っています。
この黒い線は、一体何のためにあるのでしょうか。
(★、筆者による加筆あり)
モディリアニの描く女性の顔の横にシュッと入る黒い直線。・・・これには一体何の意味があるのでしょう。
普通は、室内の奥行や角を表す、つまり何らかの空間を表すための線だったり、窓枠、手すり、柱などの建造物の一部を表す線だったりします。
この黒線は、そういうものではないように見えます。
あってもなくてもいい線のような気がします。
画家はなぜここに、わざわざこんな直線を入れたのでしょう・・・
3.「構図」の工夫を知る
これは、「曲線」という主人公を生き生きと魅力的にするために、意図的に置かれた脇役の「直線」です。
これを「曲直対比(または直曲対比)」と言います。
(1)「曲線」が主人公
(★、筆者による線の加筆あり) (オリジナル)
モディリアニの描くこの女性肖像画の見どころが「曲線」にあるのは間違いないでしょう。女性のなで肩のラインは、少しかしげた頭部のラインとゆるやかに繋がり、その曲線美が画面全体を支配しています(上図の黄色線)。
そこに、女性の顎のライン、右袖のライン、黒ネクタイのラインが加わり、様々な曲線が響き合います(上図の黄緑色の線)。
さらに、存在感のある赤い唇、黒い細眉、モディリアニお馴染みのアーモンド形の瞳も、小さな曲線で加わっています。
特に、束感のある前髪の太い黒線を伴う結い上げたようなヘアスタイルは、画面上部で黒々しい大きな丸みのある塊を作り、胸の黒ネクタイの素早く描いたように一部霞んだ縦の黒い曲線と呼応しています。
(2)直線というアクセント・脇役
(★、筆者による加筆あり) (オリジナル)
「直線」がちょっとあると、「曲線」は途端に生き生きとし始めます。
見せ場となる女性のアウトラインの曲線に対しては、背景に二本の黒い直線が添えられています。
細長い顔の下半分の輪郭線をなす楕円弧に対しては、そこに外接する接線のようにして小さな直線が二本、襟首にV字を作りながら添えらえています。
(3)曲直対比
下図の左は、わざと背景の二本の黒線と襟元の黒線を消してしまう加工を施したものです。見比べてみたいと思います。
(★、筆者による加工あり) (オリジナル)
どうでしょうか。
左と右とでは、多少なりとも、印象が違うのではないでしょうか。
左は、曲線が多く穏やかで優しすぎて、全体的にぼんやりした印象です。
右のオリジナルの方が、画面全体に、締まり・緊張感があります。
直線近くにある曲線、すなわち女性の顔周りの曲線が生き生きとして、そこに観者の視線がしっかりと留まりやすくなっています。
4.まとめ
「直曲対比」の効果をよく知っていたモディリアニは、特に女性肖像画の分野で、この工夫を何度も繰り返し用いています。
左から、
Amedeo Modigliani, Jeanne Hébuterne in yellow sweater, 1918, oil, canvas, 100x65cm, Solomon R. Guggenheim Museum
Amedeo Modigliani, Femme aux yeux bleus, vers 1918, oil, canvas, 81x54cm, Musée d’Art moderne de Paris CC0 Paris Musées / Musée d'art moderne de la Ville de Paris
Amedeo Modigliani, Portrait of a Polish Woman, 1919, oil, canvas, 100x65m,
Philadelphia Museum of Art
しなやかに曲がる女性の首のラインや、腰や肩の丸みのあるラインは、ちょっとの「直線」をアクセントに添えたほうが、映えます。
一番左の絵では、直線は、部屋の角壁と床を表す線として、また、椅子の背後の戸棚を表す線として、入り込んでいます。
真ん中の絵では、背景に強い縦線が見えますが、もはやそれが何かを表象しているのかは判別できません。右側に小さく見える水平線も同様です。
一番右の絵になると、絵の右隅に縦直線の黄色い色面が描き込まれています。これは黄色い柱のようなものなのでしょうか。おそらく違うと思います。画面構成上、この色面は、中心に描かれた存在感のある女性の太い首の立体感、柔らかさ、わずかなしなり、と対比させるために、平面的に、無機質に、まっすぐ、塗られているのだと思います。
わたしはカメラONのzoomの時には、「直曲対比」を意識して、自分の顔近くの背後に「直線」(窓枠の一部)が入るように座っています。
ずんぐり丸い顔がちょっとはマシに見えていたらいいんだけどな・・・という下心です。。。
画家は、さまざまな構図上の工夫を駆使しながら、
画面を知的に「構成」しています。
その構成の妙を読み取り、楽しめるようになりたいと思います。
最後まで読んで頂き、どうもありがとうございました。
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