署名原稿は誰もが書けるわけではない
今ではパリと並んで世界的なファッション都市と言われているミラノだが、実はミラノでファッションビジネスが花開いたのは70年代のこと。その頃に今では世界的ブランドである、ジョルジオ アルマーニやヴェルサーチェがデビューして、ミラノをファッション都市として牽引したのだ。
その当時のミラノのファッション界を舞台にを描いたのが、昨日の投稿で写真をHPから拝借した「Made in Italy」 というドラマシリーズだ。お金欲しさに有名ファッション誌の編集部でバイトすることになった大学生が編集者として成長していく姿にミラノファッションの興隆を絡めて描いた作品で、元々はアマゾンプライムのオリジナルだったものを、イタリアでは数か月前にテレビ放映された。
話の内容は、正直なところ、映画「プラダを着た悪魔」イタリア版という感じのファッション編集者版シンデレラストーリーで、業界に入る前から付き合っていた朴訥な彼氏との関係や、上司である鉄壁女性チーフの影ある私生活など、人間関係の設定もかなり似ている。一方、ファッションの話については真実味のあるエピソードが多くてなかなか面白い。ただ、アルマーニやプラダなど現存する有名デザイナーも登場するものの、ヴァレンティノ、ヴェルサーチェなどブランドはあってもドラマに出てくる創業デザイナーはもういなかったり、ジャン・フランコ・フェレやクリッツァ(マリウッチャ・マンデッリ)に至ってはデザイナーが他界してブランドも消滅しているので、イタリア人にはわかるが、日本人だとよほどのファッション好きでないとイマイチぴんとこないかもしれないが。
とはいえ、登場人物のファッションも見事に70年代風で、ミラノの実際の風景を入れ込みつつ、時々当時の実写映像なども差し込まれ、総合的にはなかなかの出来だと思う。当時をリアルタイムで生きていないからということもあるかもしれないが、この手の映画によくある大袈裟感というか、「いや、実際はこんなんじゃないでしょ」と突っ込みたくなる部分がほとんどなく、没頭してしまった。
が、根本的な部分で、一言。イタリアでは、有名雑誌の編集者(記者)にはこんなに簡単にはなれない。ドラマの中でも出てくるが、試験をパスしないとプロとは認められず署名入りの原稿は書けないのだ。試験もそんな簡単には受からないし、そもそも大卒でないと無理だろう(そしてイタリアで大学を卒業するのは大変だ)。さらに、大手出版社でさえ新卒募集などしないし、やりたい人が山ほどいるので簡単にはこの世界に入り込むことさえできない。見習い扱いで入り込めたとしてもお給料はもらえないことも多い。なので、編集者には実家が裕福な人も結構多い(貴族のお嬢様が新聞記者だったりするのだ)。金持ちの道楽、と言ってしまえばそこまでだが、実家のコネも大事だし、小さいころから高級品に囲まれて身に着けた審美眼や教養も大事。
今やSNSの時代なので、学歴もなく試験をパスしたわけでもないブロガーのほうが下手すると一流出版社の編集者や記者より知名度も収入も高いかったりするのかもしれない。それでもイタリアではやっぱり、プロの編集者や記者は偉そうにしている。でも私はそれでいいと思う。なぜなら署名入りで確たる媒体に原稿を書くということは、その記事の内容に自分が責任を持つということだ。削除してしまえば済むブログとはわけが違う。
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