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「精霊の木」

表題は作家、上橋菜穂子さんのデビュー作のタイトルだ。デビュー作はぜひ読まないと上橋菜穂子ファンの名が廃ると、夏の旅のお供にと購入した。上橋さんの本は児童文学のくくりになっていることもあり、文体がわかりやすく、いつも本当にすらすら読めてしまう。そして読者をぐいぐいと引き込む物語の展開に本を置くことができない。結局2日で最後の「あとがき」「解説」まで読み切ってしまった。

「精霊の木」は、「守り人」シリーズなどで描かれるファンタジーにちょっとしたSFの味付けを加えた印象だ。近未来、そして地球以外の惑星や宇宙を舞台にしているところはまさにSFだが、物語全体に流れるテーマは「守り人」シリーズにも見られるファンタジー感を感じさせる。

人はこの地球上でどう生きるべきか?30年以上前に環境破壊の進む現在を語り、そしてこれから人類が進むであろう破滅の道を描き、人間の極めて自己中心的な生き方に警笛を鳴らしていると感じるのは私だけではないだろう。さまざまな生き物が自然の恩恵を受け暮らし、長い歴史を地球上に刻んできた。異なる文化、社会、言葉を持ち、その違いに驚き、恐れ、それゆえ目を背け、無いものとして扱ってきたり、逆に分かり合おうとしてきた私たちの姿が見え隠れする。これからの私たちの未来を重ね合わせたような設定は、地球の現状を考えると本当に恐ろしい。

そんな恐ろしさは、若い主人公たちの迷いとまっすぐな思いに支えられた冒険によって、物語はどこか爽やかな後味を残していく。そこに問題があろうとも、人間の中にある良心といったようなものが見え、物語の未来に希望の香りを残していく。その辺りは、後の上橋さんの著作に通じるものがある。

決して大作ではないが、この後に広がる上橋さんの世界が垣間見える物語に興奮と満足の2日間となった。

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