『カード師』に幸あれ
愛おしくて、愛おしくて、涙が出た。ぽたぽた音がうるさいくらいに出た。小説を読み終わって一粒涙が出ることはあっても、読みながら泣いたことはない。
涙私の大好きな章を紹介させて欲しい。
〈クラブ”R”〉より
「承認を。」
あぁ、やめてくれ。
「もし望むカードがいま出現してくれるなら、自分は世界の摂理のようなものから、認められたように感じるのではないだろうか。」
どうしよう。涙が出てきた。
「寂しいから、人は賭けるのか。」
この人を、抱きしめたい。
「承認を得たあの感覚を捨てるのか? ただの直観で?」
涙の音がうるさい。
「承認? 不意に思う。そんなものが必要だろうか?」
どうして、抱きしめられない。
「あの時現れた〈♣︎8〉は、恩恵や承認ではなく——。」
なんて、報われないんだろう。
今回の『カード師』は、特にこの〈クラブ”R”〉の章が素晴らしかった。ポーカーでここまで1つの人生というものを表すことができているのが、すごい。作者の技量を感じた。
私は、中村文則さんの作品の中で、100年後も力強く残っているのは『教団X』だと考えているんですけど、(もちろんどの作品もすごいけど)『カード師』はそれに並ぶかもしれない。どこか初期の作品を彷彿とさせながらも、さらに洗練された文章と構成、そして圧倒的な光と闇。それに加えて、新聞連載の面白さが濃く出ている。面白さのバランスが完璧。作品が何かを超えてしまったなと思った。もう、めちゃくちゃ面白い。これ、絶対に、今、読んた方がいい本です。
この主人公が大好き。愛おしい。中村さんも大好き。中村さんの作品は、読めば読むほどその作者ことが好きになる。離れられなくなってしまう。今回この『カード師』を読んで、あっもう離れられない、と思った。もうね、絶対離れられない。離れたくない。
私はあまり人の幸福を祈ることがないのだけど、なぜだろう、中村さんの小説の人物たちには、どうか少しでも幸せが訪れますようにと祈らずにはいられない。どうしてでしょう。彼らが幸せから遠かったから? 遠いから? どこか自分と重ねてしまうから? …分からないけど、こんな私に、人の幸せを願わせてくれてありがとう。大好きです。
どうか、『カード師』に、幸あれ。