『パワー』ナオミ・オルダーマン #22-3
前から気になっていた小説『パワー』。
フェミニズムに関する卒論を書いているのですが、その資料探しの途中たまたま見つけた小説でした。内容は、ある日突然女性たちに電気を操る力ができ、これまでの男女の支配関係が逆転する過程を描く、という作品。面白いのは、この物語は劇中劇になっており、読者が実際に読む物語は小説内の作家が書いている小説の内容です。
つまりどういうことかというと、すでに男女の力が逆転された世界の作家は、この男女の力関係が逆転した過程を小説にし、その小説の初稿を読者の私たちが読むという、話の構造になっているのです。
ただ、この物語構造は『パワー』という作品の本質ではありません。この小説はファンタジーではあるけれど、フェミニズムの文脈のもと書かれており、小説の世界は現実世界のメタファーとして描かれています。
物語は、女性がパワー(電気を自由自在に操る力)を持つ黎明期からそれが完全に普通となるまでの過程を描いています。物語の主人公の一人である男性のレポーター・トゥングは、特に女性の支配が強くなった国家で取材をしており、そこで感じる恐怖は実際に女性が現実世界で感じる恐怖と似ていました。
アメリカの市知事であるマーゴットは、パワーを持つことにより、その思考や考え方は、普段私たちが目にする権威的な家父長制の男性が女性に対するそれと同じものになっていきます。
この小説を読む読者が男性の場合、現実の女性の気持ちを理解するようになると思います。逆に読者が女性の場合、権威的な男性がどのような思考で物事を考えているのかが分かるようになると思います。
そのような意味で、この作品は「読む」というよりは「体験する」という言葉が似あう作品だと思いました。