<おとなの読書感想文>はるです はるのおおそうじ
あるきっかけで、家で絵本を読む機会が増えました。
懐かしい本や知らなかった本まで目を通すうち、色々なことに気づかされました。
以前にもブログに、「読書のシンデレラフィット」なることを書いたことがあります(以下記事)。
どんなに好きな本だって、いつ読んでも好ましいとは限りません。
ぼーっとしている時に難解な哲学書は読めないし、失恋で弱っている人にポップなラブコメディを薦めるのは野暮というもの。
手に取った本がしっくりくるかどうかは、体調や状況に大きく左右されてしまいます。
その時の気分にぴたりとはまる本を選ぶことができたら、まさにシンデレラのガラスの靴のように、自分にとって特別な一冊になるでしょう。
つまりは今という時に心に響き、フィットしたのが、この絵本というわけです。
「はるです はるのおおそうじ」
(ぶん・こいでたん え・こいでやすこ 福音館書店、1993年)
今日は家中みんなで大掃除。
ねずみの家族が、家財道具をせっせと運び出して庭に並べています。
やって来たりすの親子が、きれいなカーテンをほめると、ねずみはそれを譲ってあげました…
ああ、断捨離の話かと早合点してはいけません。
様々な動物の来訪を受けるたび、ねずみの持ち物はみるみる持ち去られて行くのです。
えっ、それもあげちゃうの。げっ、それも持って行っちゃうの。
きつねのおばあさんずうずうしくない?
たぬきの一家なんてリヤカー引いてやって来たよ。
いい加減、断らないとだめじゃないか、ねずみよ。
不穏な展開に、こちらが焦ってくる!
ねずみたちも途中から、さすがに表情が曇っていきます。
掃除が終わってガランとした家に戻って来た時の、不服そうなお父さんの顔。「あんたが椅子あげちゃったんだから立ってなさいよ」と言わんばかりのお母さんの顔。
はらはら険悪なムードのまま、どうなることやらとページをめくると、
。。。ここからの展開が、とても良いのです。
ねずみたちは成り行きに身を任せながら、しなやかに物事を観察しています。お気楽そうに見えて、実はすごいことだと思うのです。
困ったことに直面すると、人はなかなか冷静な判断ができなくなります。
あわてて立ち向かおうとして、かえって転んでしまうこともあります。
そんなとき、どっしり構えられるのは強い人です。
落ち着いてから、次のことを考えましょうと言ってくれる人がそばにいると、こちらも安心するものです。
今回、おおげさに言えば彼らのあっけらかんとしたたくましさに、わたしは救われた気がするのでした。
続きが気になる方はぜひ、登場人物たちの表情や仕草、部屋の様子など、細かな描写にも注目しながら、読んでみてください。
おおそうじ、しなければなあ。