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原田ひ香『彼女の家計簿』は、生きてきた“心”の声


単行本『彼女の家計簿』原田ひ香





あらすじ

シングルマザーの里里りりの元へ、疎遠そえんにしている母親からぶ厚い封筒が届く。
五十鈴  加寿いすず かずという女性が戦前からつけていたという家計簿だ。
備考欄に書かれた、日記のような独白どくはくに引き込まれ読み進めるうち、加寿かずとは、
男と駆け落ち自殺したと聞く自分の祖母ではないかと考え始める。
妻、母、娘。転機を迎えた3世代の女たちが
家計簿に導かれて、新しい一歩を踏み出す。

裏表紙の内容より



みんな、もがきながら日々生きている。

【主な登場人物】
・瀧本里里りり・・・・・娘のけいを育てるシングルマザー。
・三浦晴美・・・・・『家計簿』を発見したことをきっかけに、里里と交流することになるNPO『夕顔ネット』の代表取締役。
・真菜・・・・・晴美のもとで働く、ボランティア活動する大学生。
・みずき・・・・元グラビア女優。里里からパソコンを教わる。
里里りりの母・・・・『家計簿』を娘の里里に送りつけ、娘や孫とは一線の距離をおく。

五十鈴  加寿いすず かず・・・家計簿兼日記をつけていた加寿は、はたして里里の祖母なのか?



『家計簿』の内容は、加寿さんの生きてきた“心”の声。

わたしの想像していた以上に、
読めば読むほど、この本の内容は深かった…
最後まで読み終わっても、
もう一度、はじめから読み直してみた。

加寿さんが、結婚した際に
義母からいただいた『家計簿』。
新婚の頃は、嫁として『家計簿』をつける事に
責任と夢を抱いていたのではないでしょうか。

しかし、そこに綴られていた内容は、
誰にも言えない加寿さんの切なる胸のうち。

親子であるにもかかわらず、冷めきった関係の
里里と里里の母が、
この『家計簿』の内容を知った時、
何を想うのかを気にながら読みました。

帯の内容も気になり、“しおり”として使ってました。




身内でも、言えないことはある。

加寿さんは、
夫にも義母にも言えないことがあった。
戦前戦後の時代には、到底理解し難い、
決して口にはできないことである。

それは、令和の時代では、
おそらく許されることかもしれない。
時代が異なったり、一人も理解者がいないのは
こんなにも息苦しいことなのか…


身内には言えないから、せめて他の人に聞いてほしい。

シングルマザーの里里は、
子育てに奮闘している。
しかも失業中で、疎遠の母とは、
まともな会話すらできない。

他人であっても、三浦晴美に少しずつ
自分の心情を話すことができる描写は、
読んでいて安心してきた。


過去を知り、現状を見つめ、そしてそれぞれ生きていく。

最後に読み進むうち、
里里と母との言い争いの描写が、
“ あぁ、それでも親子なんだなぁ ”
と感じずにはいられなかった。
そばで、冷静に見守る晴美の対処法も見ものだ。

どういう理由であれ、
そしてどういう状況になっても、
人は、一人で生きていけない。

だから、縦と横のつながりをもったり、
それを維持していくのは
自分次第かもしれない。

余韻がかなりのこる小説であった。

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