調理師がヤケドー仕事は大変だ。プロって何だろう?
ある朝、調理場へ行くと、いつも来るシフトでシミズさんが来なかった。
私は、ある病院の厨房で、調理補助のパートをしているが、シミズさんは、そこの調理師だ。
チーフのイワさんの話では「昨日、熱湯をかぶってヤケドをした」という。
私は、以前 シミズさんに恋心を抱いていたにも拘らず、あっさりと そのヤケドの知らせに「そうですか」と、応えた。
あんまり、あっさりと応えたので、自分でも冷たく思えて、「どこをヤケドしたんですか? 」と、訊くと、
イワさんは、「顔だよ? 」と、こともなげに言った。
(顔? )
痕に残ったら大変だ。
「痕に残るんですか? 」
「わからない」
私も、何事もなかったように元の作業に戻った。やらなければならない作業は、たくさんある。それに、私は、しばらくシミズさんに ことあるごとに冷たく扱われていた。まわりに不仲を誤解されたくなかったのか?いや、それにしても なんの関係もないのだから、堂々としてればいいじゃないか。
いまでは、シミズさんも、自分の仕打ちに客観的な目を向けるようになったのか 態度を改めて 他の人と同じように私を扱うようになったが、それがあっても 自分でも、いまの私の受け答えは 冷たいと思う。顔に残るかもしれないヤケドを、同僚がしたのに。シミズさんは、男だが、それでも顔へのヤケドだ。内心、本人も相当 心にキテるはずだ。
しかし、私は暫くのあいだ シミズさんからの仕打ちへのわだかまりがあった。周りの人への態度に対して、シミズさんの 私への態度は、まるで下人にでもするような態度だった。
「昨日、ヤケドして帰って治療をさせたんだ」
イワさんは、言った。
次の日、早朝から 今度はシミズさんとバディを組むシフトだった。
(シミズさんは、来ないのじゃないか? )と、私は思っていた。
けど、ちゃんと来ていた。
あいさつして、顔をちらっとみると 顔半分、包帯が巻かれている。口と鼻のあたりはガーゼや包帯で覆われているのだ。目のあたりは 包帯などはなかったが、皮膚は、赤っぽくなっている。見たところ、目のあたりは、痕には残らなさそうだ。
仕事に入るとき、シミズさんは、
「今日は、ちょっと『ドジ』するかもしれないから よろしく頼む」
といった。
私は、患者さんに出す食事の最終チェックを いつも以上に念入りにやった。
仕事のこまかな所で、いつものシミズさんらしくなく、手違いや できない片付けが見られた。けど、それは仕事に差し支える程ではなく、ほぼ完璧だった。
もともとは、シミズさんは、酒屋でのんびり過ごしてきたのか、でも 酒屋に生まれついた者らしく、商売などの常識には明るいひとだった。
のんびり動くタイプだったらしいが、自分の努力で早く動くことを身につけ、仕事を早くあげ、普段から仕事の予習をしてくる。それらは、本人から聞いたことだ。
プロ意識なのだろう。
この頃の私は、チーフのイワさんの嫌がらせに挫けそうだった。
プロってなんだろう……。
おわり
画像は、メイプル楓さんの
「みんなのフォトギャラリー」より
ありがとうございます🍀🍀🍀