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腹は満たされても脳が満たされないのは嫌だ。

昨日の朝は無性にオムレツが食べたかった。

ゆで卵も目玉焼きも卵焼きも、それを食べたところで私の脳はちっとも満たされそうではなかった。

腹は満たされても脳が満たされないのは嫌だ。

私は、ゆで卵や目玉焼きや卵焼きよりも手間と時間がかかることを諦めて、オムレツを作り始めた。

手間隙はかからないが、脳を満たさないものを食べるくらいなら、

手間隙がかかろうが、脳を満たすものを食べる方がずっと幸福だ。

ちょうど作り終えたところに娘が「何を作っているの?」と言いながら台所にやってきた。

私が、「オムレツ」と答えると、

娘は、「卵焼きじゃないの?」と言うので、「オ・ム・レ・ツ!」とドヤ顔をした。

できたオムレツを皿に盛って、食卓につき二人で食べ始めた。

一口食べた娘が、

「ほんとだ。オムレツだ。ホテルのオムレツと同じだ。」と言った。

そして、

「卵焼きとオムレツってどこが違うの?」と聞いてきた。

私は、

「一番違うのは、オムレツは卵を裏漉しすることと焦がさないこと。卵焼きは裏漉ししないし、ちょっと茶色く焦がしてもいい。」と答えた。

裏漉しして焦がさないプロの卵焼きもあると思うけど、私が作るオムレツと卵焼きの違いはそこだ。

もちろん、卵焼きの味付けはダシと砂糖と醤油で、オムレツのそれは塩胡椒とバターであるという基本的な違いはあるけれど、塩胡椒で味付けをしてバターで焼いたって、裏漉しをしないで卵に焦げ目をつけてしまうと、オムレツとは違うものになってしまう。

それはもはやオムレツではなく、バター味の卵焼きになってしまうのだ。

娘は、

「へー、裏漉しするの! それは面倒だわ。」と感心した顔でオムレツをひとくちまた口に運んだ。

その様子を横目で見ながら、きめ細かくフワフワに焼けた黄色い物体を口に運ぶ私は、自分自身の腹と口と脳の幸福感に満足していた。




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