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なぜ日本人の環境意識は低いのか? (後編)| 【月刊 学校法人】連載企画 2023年9月号

 月刊「学校法人」に連載している「教育テックで変える未来社会」から、過去掲載された記事をnoteでご紹介させていただきます。
転載元:月刊 学校法人(http://www.keiriken.net/pub.htm

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教育テックで変える未来社会(第6回)
なぜ日本人の環境意識は低いのか?
~社会課題の解決に活かす「教育テック3.0」~

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日本でのESDの展開

 日本の学校教育において、ESDはどのように 展開されているのだろうか。学習指導要領を参照し、考察する 6)。

6)出典:文部科学省ホームページより引用・一部編 集、下線は筆者による。 https://www.mext.go.jp/unesco/004/1339973.htm

幼稚園教育要領(平成 29(2017)年 3 月告示)
【前文】 (前略)これからの幼稚園には、(中略)一人一人の幼児が、将来、自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな 人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにするための基礎を培うことが求められる。

小学校・中学校学習指導要領 (平成29(2017)年3月告示)
【前文】これからの学校には、(中略)一人一人の児童(生徒)が、自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら 様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を 切り拓き、持続可能な社会の創り手となるこ とができるようにすることが求められる。
【第1章 総則】
第 1 小学校(中学校)教育の基本と教育課程の役割 3 (前略)豊かな創造性を備え持続可能な社会の創り手となることが期待される児童 (生徒)に、生きる力を育むことを目指すに当たっては、学校教育全体並びに各教科、 道徳科、(中略)総合的な学習の時間及び 特別活動(中略)の指導を通して、どのような資質・能力の育成を目指すのかを明確にしながら、教育活動の充実を図るものとする。

高等学校学習指導要領(平成 30(2018)年 3月告示)
【前文】これからの学校には、(中略)一人一人の 生徒が、自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として 尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる。
【第 1 章 総則】
第 1 款 高等学校教育の基本と教育課程の役割
3 (前略) 豊かな創造性を備え持続可能な社会の創り手となることが期待される生徒に,生きる力を育むことを目指すに当たっては,学校教育全体及び各教科・科目等の指導を通してどのような資質・能力の育成を目指すのかを明確にしながら,教育活動の充実を図るものとする。

 上記で重要と思われるのは、幼小中高の幼児・ 児童・生徒を「持続可能な社会の創り手」として明記し、各要領が記述されていることである。 一人一人が「持続可能な社会の創り手」になるよう教育を受ければ、持続可能な社会への到達、 社会課題の解決がより現実なものとなる。まさ にESDの概念が学習指導要領に反映されており、各学校における学習にも採り入れられている。

日本のESDの結果が出ない理由と対策

 ESDは、日本が提唱し、世界各国の中でも最も熱心に取り組んできた国の一つでもあるにも関わらず、冒頭で触れたソーシャルグッド意識調査が示すように、結果が伴っていない。ESDによる教育効果の定義を、環境問題を始めとした社会課題への意識として捉えるのならば、現状のESDによる教育効果は乏しいと言わざるを得ない。

では、どこに原因があり、どのような対策が有効なのだろうか。

第一の理由:科学によるESDの検証が不十分

 第一に考えられる理由は、科学によるESDの検証が不十分なことである。これは、前回の連載で述べた「教育テック2.0」の話と同様である。 ESDに基づく新たな教育方法は、総合的な学習(探求)の時間を中心として、道徳科や各教科等 の学校教育全体において開発・実践されてきた。 しかし、その効果を定量的なデータ・エビデン スに基づいて分析し、科学による検証が十分に なされてきたかといえば、そうではない。今後 速やかに、教育テック 2.0(実践の科学化)を強 化していく必要がある。

第二の理由:教育格差の広がり

 第二に考えられる理由は、教育格差の広がりである。教育テック活用前の従来の教育方式を中心としてきた教育方法では、教育の効果(個別最適な学び)と教員の労働生産性の間にジレンマが存在すると、連載第1回(2023 年 4 月号) で指摘した。そうなると、ESDによる教育効果は一部の丁寧な指導をすることができた生徒に限っては高めることができたが、一方で手薄となった生徒に対しては教育効果が下がってし まった可能性が高い。
 また、経済格差や地域格差により、一部の恵まれた生徒には質の高い教育を受けさせることができたが、その逆で恵まれない生徒は質の低い教育となった可能性が考えられる。このような状況を打破し、質の高い教育をだれでも、いつでも、どこでも提供可能にするには、教育テック1.0(実践の個別最適化) の活用が不可欠である。

第三の理由:学校に通う生徒だけへの教育は逆効果

 第三に、学校に通う生徒だけを教育しても、 その効果は一部の世代に限定されるだけでなく、 効果自体も下げてしまうからである。仮にESDが提唱された2002年からESDに基づく教育が開始されたと仮定したとしても、まだ 20年程度しか経過していない。最も初期にESDによる教育を高校で受けた生徒でも、現在40歳以下であり、人口に占める割合は多数ではない。また、 別の観点で言えば、ESDによる教育を受けた人の親や就職した先の上司・先輩が SDGsなど社 会課題の解決に無意識であれば、社会課題の解決への行動が取りづらかったり、自身の意見が通らなかったりし、せっかくの教育が生かされない。
 SDGsを始めとした社会課題の解決には期限があり、学校教育だけでは間に合わない。 そこで、親の教育(親育)や上司・先輩の教育(上司育・先輩育)が必要となる。社会課題は社会の変化とともに常に変化しており、20代前半 までの学校教育とともに、社会人になってからの継続的な学習・教育が重要となる。

第四の理由:教育効果の科学的検証不足

 第四に、教育の効果を科学的に検証してこなかったために、厳しい現実を正面から捉えた、 新たな教育の構想とその実践活動をしてこなかったことが挙げられる。今後、教育テックを活用し、社会課題の解決を目指した新たな教育構想を立てることができる人材を養成する必要がある。

第五の理由:グローバル標準のESDでは効果が薄い

 第五に、グローバル標準のESDを日本に導入するだけでは、効果が薄いことが挙げられる。 SDGsで掲げられた17の目標は、グローバルな文脈では確かに重要であるが、多くの日本人にとって身近な目標ではない。

「MOTTAINAI」

 では、SDGs の達成を目指したESDが日本で効果を上げるにはどうすればよいのか。その答えの一つとして、環境や社会の捉え方が欧米諸国とは違い、古今東西の多様な文化を融合させてきた日本において、 独自のESDの取組みが求められるのではないかと思う。例えば、「MOTTANAI」は日本発の言葉であるが、その素晴らしさを再発見し世界に 広げ、行動変容まで起こしたのは、日本人ではなくケニア出身の環境保護活動家・ノーベル受賞者のワンガリ・マータイ氏である。このような取組みは、文化の融合による社会課題の解決に向けた教育といえ、教育テック3.0として取 り組むべきテーマである。日本は歴史的にもアジアの国々と共通した文化が多くあり、教育テッ ク3.0分野でアジアの国々と共通の意識を喚起し、社会課題の解決に向けた教育テック3.0が求められる。

表2 ESD が進まない理由と対策
(出典)筆者作成


 以上、教育テック3.0(教育以外の社会課題解決)について検討した。社会課題の解決に貢献する教育テックについて、教育者や研究者のみならず、社会課題の解決に取り組む企業人、実務家、アジアの国々とも協力して教育・研究活動を進めて参りたい。

(著者紹介)
織田 竜輔(おだ りょうすけ)

OCC教育テック総合研究所 上級研究員、大阪キ リスト教短期大学 特任教授。 実務家教員、学校経営ディレクター。『環境ビ ジネス』編集室長、月刊『事業構想』編集長、月 刊『先端教育』編集長を務め、全国の初等教育~ 高等教育、社会人教育、リカレント・リスキリン グ教育を取材、専門職大学院において社会人向け の教育・研究プログラムを企画・実施した後、現職。 環境・教育・メディアを研究。
根岸 正州(ねぎし まさくに)
OCC 教育テック総合研究所 所長、学校法人大阪 キリスト教学院(OCC) 理事長、大阪キリスト教短 期大学 教授(教育テック)。 専門は、非営利組織の経営、企業の社会性戦略(CSR/CSV)、教育・医療・介護および不動産領域の イノベーション、デジタル組織のデザイン等。 主な著書に、『図解 CIO ハンドブック 改訂 5 版』
(共著、日経 BP、2018 年)、『御社の意思決定がダ メな理由』(共著、日本経済新聞出版、2018 年) がある。

転載元:月刊 学校法人 http://www.keiriken.net/pub.htm


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