未来に向けた,ワクワクする教育への取組 | Focus on people
戸田市教育委員会教育長の戸ヶ﨑勤氏に、学校法人OCC 理事長 根岸正州からお話を伺いました。
【略歴】
小学校および中学校の校長、戸田市や埼玉県の教育委員会を経て、2015年4月から現職。中央教育審議会委員、文部科学省、経済産業省、内閣府、デジタル庁などの委員を歴任。
前例がない教育の道を進む
(根岸)2015年に戸田市教育長に御就任以来、様々な教育改革を進めて来られました。戸田市教育委員会は様々な先進的な取組をされていらっしゃいますが、フロンティアならではの課題はございますか?
(戸ヶ﨑)手前味噌ながら、フロントランナーとして新たな取組にチャレンジするということは、前例がない道を進むこと、例えるなら獣道を一歩ずつかき分けているようなものです。獣道を進むとどうしても傷だらけになります。始めの頃は、傷つくし、痛いし、辛いし、こんなことをやっていてよいのだろうか?と挫けそうになることもありましたが、近年は獣道を歩んでいることが、何か勲章のようにも思えてきました。周囲からは冷ややかな目で見られたり、ときには批判を受けることもありますが、教育政策シンクタンクをはじめとして自分たちがやっていることは、とにかくこれからの社会を生きる子供たちのためになるのだ、と信じて行っています。
例えば、データを利活用した教育は前例がほとんどなく、個人情報保護等法などに沿った運営等も考えなければいけません。一つ解決してもまた新たな壁が立ちはだかります。その壁をどうやって超えていくか?ということを考えると、それを解決するための新たな勉強をしなければなりません。新しい取組をフロントランナー、ファーストペンギンとして進めるからこそ、学ぶべきこともたくさん出てきます。お陰様でこれまで色々勉強させていただき、現在でも学びのアップデートは続いています。この歳になって若い頃よりたくさん学んでいるかも知れません。
(根岸)教育においてチャレンジすることは大事なことだと思っています。チャレンジすることで、主体性や関連する学びを行うことができると思います。一方、チャレンジをすることによって疲弊してしまうリスクもあると思いますが、そうならない強さの源泉はどこにあるのでしょうか?
(戸ヶ﨑)とにかく楽しんで取り組むこと、これが一番だと思います。『凡庸で90点の取組を行うよりも、60点でもいいから夢のある挑戦をしてほしい』と各学校には常日頃伝えています。手前どもで取り組んでいるクラウドファンディングも1つの例であり、ワクワクする、夢のある取組をして欲しいとの考えで行っています。楽しまなかったら続かないと思います。「大過なく過ごせればそれでよい」とディフェンスを重視する学校や教育委員会も全国的には少なくありません。新しいことにチャレンジするのは大変だし、リスクも伴います。私は、「リスクを恐れることこそが最大のリスクである」と考えています。どうせやるなら大いに楽しみながら挑戦することが何より大切だと思っています。
(戸ヶ﨑)また、産官学連携を進める中、戸田市では校長会議の冒頭などに企業の方にも同席してもらっています。そこで5分程度のプレゼンテーションを行ってもらいます。教育委員会からの依頼として無理に取り組んでもらうことはなく、各校長の主体性や意欲に任せています。各学校が「この企業のこの提案等と組んでみたい」と思ってマッチングしなければ続かないですし、やらされているという気持ちではよい研究成果にも繋がらないと思います。この産官学との取組は、当初は手を挙げる校長はほとんどいませんでした。そこで、指導主事が「学校と各産業界等を繋ぐ架け橋」となることで、産業界等と連携するとアウトソーシング、働き方改革に繋がる、最先端の知のリソースが取り入れられるなど、各学校でその連携の価値やよさが実感を伴って理解されるようになりました。現在は、各学校に積極的に取り組んでもらっています。
学校は未来を感じられる場所でなければならない
(根岸)将来、例えば10年後の戸田市教育委員会が目指されている姿は如何でしょうか?
(戸ヶ﨑)「今、目の前にいる子供たちが大人になって、社会に出て活躍する世界はどうなっているのか?という、未来の風景画を描いて教育活動にあたって欲しい」と常に言ってきました。子供たちが出ていくVUCAの時代、Society 5.0の時代などというのは、こういう世界になっているはず、と教師一人一人が考えて、その時代に活躍する子供たちが将来困らないようにするためにはどうしたらよいのか、子供たちにどのような資質・能力を身につけておくべきなのか、などを考えながら日々の教育活動に当たる必要があります。よく言われるスキルとして、クリティカル・シンキングやプレゼンテーション・スキルなどがありますが、誰かの受け売りや一般論で考えるのではなくて、目の前にいる子供たちをしっかり見詰め抜いて、何が足らないか、何が優れているか等を考えること、まさに一人一人に個別最適な教育を行っていく必要があります。
(根岸)戸ヶ﨑さんの理念は素晴らしいと思っており、このような取り組みが全国に広がればよいのではないか、と思っておりますが。
(戸ヶ﨑)学習指導要領は日本全国をカバーする大綱であり、それに基づき、地域や子供たちの実態に応じて学校の裁量を活かし、アレンジしながら最適な教育を行うことが教師の役割であり使命です。登校・下校という言葉が示す通り、学校は高い所にあり、未来を感じられる場所でなければならないと思っています。昔の学校には、鉄棒があり、オルガンや顕微鏡、望遠鏡など、家庭にはないものがたくさんありました。設備だけでも子供たちをワクワクさせていましたが、今は家庭にはあっても学校にはないものがたくさんあります。ハード面だけでは子供たちをワクワクさせることが難しくなっています。産業界の方からは、「子供たちはアナログだらけの昭和と変わらない学校に毎日タイムスリップしている」などと揶揄されることもありました。これからは、ソフト面、つまり、授業でこそ子供たちをワクワクさせなければなりません。
ワクワクする大学院、傷だらけの大学院
(根岸)教育テック大学院大学、教育テック学に期待されることにつき、お考えやアドバイスをお伺いできるとありがたいです。
(戸ヶ﨑)全国の大学や大学院をリードするような「大学のファーストペンギン」になってもらいたいと思っています。「経営×教育DX」というコンセプトには大変期待しています。過去も現在においても教員養成のキーワードの一つは、「理論と実践の往還」です。理論面では最先端の知見を導入していただき、それを実践の中に活かして「師魂」を込めて育て上げ、さらなる新たな理論をつくりあげるという、学びのエコシステムができることを期待してやみません。また、教育DXもかけ声ばかりが先行し、まだまだ実動していません。その最先端を走る、手本を見せる大学院になってもらいたいとも思っています。ワクワク感が満載の大学院、ときには、獣道を切り開いて傷だらけになることも厭わない大学院、最高だと思います。心から期待しています。
様々なお取り組みを進められている戸田市教育委員会様ですが、社会に羽ばたいていく子供たちの未来を考えて、ワクワクさせる授業を行おう、ということが全てのお取り組みの根源にあると お話をお伺いして理解いたしました。
「獣道を切り開いて傷だらけになることも厭わない大学院」、というお言葉に勇気をいただきました。教育テック大学院大学も戸田市教育委員会に負けぬよう、様々なチャレンジに取り組みたいと思います。
(取材者:編集部・笠原)
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