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映画評『ハル』 〜ルッキズムを超えていけ〜

なぜ、今頃「ハル」なのか?
それは以前観て好きだったからですが、たまたまU-NEXTのオススメに出てきたので
年始早々に再度見返してみました。そんな感想と考察です。(移動中にiPadで)

1.監督、主演者について

監督 森田芳光 
出演 深津絵里/内野聖陽/山崎直子/竹下宏太郎/鶴久政治/宮沢和史/戸田菜穂
制作 1996年

2.あらすじ

速見昇は、学生時代にはアメリカンフットボールの選手として活躍していたが腰の持病が悪化して選手生活を断念してからは夢を見失い東京で平凡なサラリーマン生活を送っている。ある日、パソコン通信の映画フォーラムにアクセスする。「ハヤミノボル」から(ハル)のハンドルネームで参加した速見は、(ほし)というハンドルネームのユーザと意気投合し、パソコン通信でやりとりを始めた。互いに素顔を明かさない関係でのやりとりであったが、誠実に対応する(ほし)に好感を抱いた(ハル)は、悩み事も相談するようになる。しかし、(ほし)の正体は、(ほし)が自称した男性ではなく、盛岡に住む藤間美津江という女性だった。その(ほし)もまた、心に傷を抱え転職を繰り返す日々を送っていた。男性と偽っていたことを(ほし)から伝えられたが、(ハル)との間の信頼関係が崩れることはなかった。そんなある日、(ハル)は東北出張に出ることになる。それを聞いた(ほし)は、沿線のある地点で(ハル)が乗車する新幹線を見送ると約束する。互いにビデオカメラを片手に持ち目印のハンカチを振り、線路沿いに立つ(ほし)と車中の(ハル)を撮影することで、遠くからの、ほんの一瞬だけの、対面を果たした。それは、相手が「実在する人間である」ということを確認する、鮮やかな一瞬だった。

3.感想、考察

まだ、ネット回線が当たり前に普及していない90年代、2人の男女がメールのやり取りを通じて、お互いを理解し励ましあって絆を深めて行く。懐かしさを感じつつもいつでも繋がれる現代と比べて牧歌的な雰囲気を感じさせてくれます。イメージでは電子版の文通に近いのかとも感じました。そのやり取りが暖かくほっこりします。

ほし演じる深津さんは、盛岡に住んでいて、恋人は亡くし喪失感を抱えながら暮らしている。そんな中、ストーカー的な男性に付き纏われて、仕事を転々を変えざるを得なくなります。今だと完全にアウトなストーカーですが、深津さんは警察にも訴えずに仕事を変えて逃げようとします。(現代だと手遅れになるパターンかも・・・)

映画の中に深津さんの部屋の本棚を写す場面が何度か出てきますが、本棚には村上春樹が並んでいて、後から恋人を失った喪失感を表現しているかなと。

とにかくこの映画では演技の場面よりもパソコンの画面を読んでおりシーンが非常に多い映画になっています。まるで電子版の本を読んでいるように画面の文字を必死に追いかけます。それにBGMが相まって非常に感情移入しやすい雰囲気を作っています。(このBGMの音楽も雰囲気に合って非常にいい。)
未来の電子本ではこの映画のように場面にあった音楽が流れて、雰囲気を高める効果が追加されてくるんじゃないかと思ったり。(もうあるかもしれませんが)

観終わって考えたことは、現代の出会いのきっかけでネット(出会い系など)が普及する中、どうしても『見た目』重視になってきてルッキズム偏重になってきていることが
問題だなと考えたりした。その結果、安易に見た目で選んだことで、うまくいかずに別れることが増えてきているのではないかと。一方で見た目で選ばれない人たちは、独身で通すこと(妥協できずにこじらせて)を選択している、選択させられている。(それが未婚率を高めてしまう。)

なぜ、ルッキズムに偏った傾向が高まってきているのか?思うに、見た目は安易に判断しやすく、相手の性格や本質を理解するには相当の時間と努力と少しの知性も必要だかれはないだろうか。(マウントを取りたいという安易な発想も)現代人が深い思考と相手を理解する能力?、努力?を失いつつあることが、引いては未婚率、少子化につながっている可能性も否定できない。と考えたりした。

そう言う意味で、この映画は全く相手の外見を知らないまま、文章だけで相互理解を深めようと交流を深めていきます。(結果的には美男美女なんだけれど・・・)
※深津さんの妹役の戸田さんは、イケイケな美女ですが、最後は人の良さそうな人と結婚します。救いです。

そんな日本の将来を憂いながら、見た目で人を判断しないように自らを戒めながらこの映画を見返しました。多様性が謳われている現代において、自由な生き方の選択が認められる中、困難なこと、めんどくさいことから得られる成長や喜びを諦めないで欲しい。(誰目線だよ!)

4.こんな人にオススメ

1.なんか疲れていて、癒されたい人
2.深津絵里ファン(かなり魅力全開です)
3.仕事に行き詰まって、何か変えたいと考えている人
  ※ハルは一念発起して挑戦しますよ

5.気に入ったフレーズ 

『今までのメールの記録を見て、自分が変わっていくのがわかりました。』     
『ハルのメールを読んだりすることで、
            少しづつ立ち直ってきたのだなと思いました。』

この台詞(映画では文章ですが)は終盤の、お互いがすれ違っている中で
メールのやり取りを見返してお互いが、それぞれに変わってきたこと、成長
したことに気づいてメールを再開した時に送り合ったメールの中の文章です。
文章を書くことは、相手に送っているつもりでも、実際には自分と向き合って
考えて、文章にしていることだとわかります。その結果、自分の思考が整理され
自己理解が深まっていくのだと。この映画では、このあとお互いが大切な存在
と気づき、映画の最後にようやく駅のホームで初めて出会います。
『はじめまして』で始まる恋愛ですが、お互いはすでに深くわかり合えている
のでした

最後の出会いの場面

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