所属コミュニティにEXILEメンバーが入ってきたらどうしよう
その知らせは突然やってきた。
一応断っておくと、もぐら会は、ダンススクールではない。エッセイストの紫原明子さんが主催している、「他者と対話しながら自分で自分を見つめる」コミュニティだ。
もぐら会には、いつも穏やかで円環的な時間が流れている。コミュニティ内のスレッドに、布団の中から「起きた」と三文字書き込めば、ただちに「えらい」「とてもえらい」「とてもとてもえらい」というスタンプが返ってくる。きわめてやさしい世界。
しかし、そんなもぐら会にも、2019年に発足してからいくつもの危機があった。だいぶ仲良くなって来たと思ったらいきなりメンバーが倍増したり、お話し会という集まりがオンラインになったり、ハロウィンのひと月後に仮装を促されたり。正直戸惑うことも多かったが、きっと、円環的なコミュニティが停滞することを防ぐための、高度な政治判断なんだろうと思ってきた。
実際に、それらの試みをきっかけに、もぐら会はどんどん楽しくなったし、地方や海外に住むメンバーにも出会えた。すべて素晴らしい判断だったと、認めざるを得ない。
きっとEXILE割も、そんな計算され尽くした判断のうちのひとつなんだろう。それはわかっている。わかっているけれど。
これまで、あらゆる無料キャンペーンが人を狂わせてきた。多くの人間が、サーティーワンの無料デーに長蛇の行列を作り、ユニクロ感謝祭でアンパンと牛乳配布に胸を高鳴らせ、ミスドが無料になるからとソフトバンクの携帯を契約してしまった黒歴史がある。そして、EXILEメンバーもまた、人間という生きものなのだ。無料という情報を聞きつけて、いま、もぐら会に入ろうとしているかもしれない。
どうしよう。もしEXILEメンバーがもぐら会に入ってきたら、どうしよう。
私、ジャニーズ派なのに、EXILEメンバーを好きになってしまうじゃないか…!!
20年以上前、小学生のころ、KinKiKidsがデビューしたときの興奮を、いまもありありと覚えている。くちびるが腫れるほど囁き合う男女に憧れ、stay with meという英語の意味を辞書でめくった。しかし私のお小遣いでは、ジャニーズファミリークラブには入れなかった。社会人になってから嵐のライブに行き、友人に同行してHey! Say! JUMPのライブに参戦し、NEWSファンの友人からライブDVDを数時間解説してもらったこともある。けして誰の担当と名乗れるレベルではなくても、ジャニーズ王国には、ふるさとへの郷愁のようなものがぷんぷんと漂っているのだ。
いまだって、人気グループのメンバーの交際相手が匂わせ投稿を放てば、我先にと、削除される前にリンク先に飛ぶ。キムタク一家のインスタはくまなくチェックし、彼らへの妬みをnoteに書きつづりながらも、本当に好きな香取くんのことは恥ずかしくて何ひとつ書けない、この気持ちだけはたしかに現役なのである。
それなのに、よりにもよって、EXILEメンバーが無料だと?
これまで私は、ジャニーズ側の人間として、EXILEにはそれなりの注意を払ってきたのだ。三代目 J Soul Brothersを見かければ、必ず「一代目と二代目はどこだよ」と悪態をつくようにしているし、歌番組でGENERATIONSやEXILE THE SECONDが出演していたときも「この人たちEXILEグループっぽいねー、よく知らないけど」と、とぼけてみせてきた。
友人がハイローとかつぶやいてても華麗にスルーしEndless SHOCKを思い浮かべ、居酒屋に行ってもレモンサワーは頼まないし、ヒロと言われれば安田大サーカス、もしくはZOOのHIROを思い浮かべるよう尽力している。
でも、もし、もぐら会にEXILEメンバーがやってきたら。月に一度のお話し会で、隣の席に座ったら。
きっと私は無言に耐えきれず、何か話しかけてしまうんだろう。「EXILEさんって大変そうですね、ダンスも激しいし」と超つまらないセリフを吐いてしまう自信がある。そこで彼はこう言うのではないか。
「いや、僕は劇団EXILEだから踊らないんですよ」
私は慌てて謝る。「あ、げ、劇団のほうですか、でも、それじゃ…朝とか早そうですよね……」。しかしそこはEXILEだ、きっと「EXILEは有休があるから大丈夫なんですよ~」と微笑みを浮かべるにちがいない。もう一言、こう付け足す可能性だってある。「それよりエミコさんは子育て大変ですね、HIROさんのところも大変そうですよ。」
え、ひ、HIROさんのところ…?え…?もしかして、それは、上戸彩のことですかね…?私の苦労と、上戸彩の苦労が、いま並列で語られているということでよろしいでしょうか。そうなんですよ、私、実は上戸彩さんと同世代なんです。世代だけは共通してるんです。まさか、上戸彩を、呼び捨てではなく、敬称をつけて呼ぶ日が来るなんて…。
だめだ、この甘美な誘惑には抗えない。あああ。いま私は布団の中で、スマートフォンを握りしめて、口元のニヤニヤを必死にこらえている。
なんて恥ずかしいんだろう。まだまだ精神の鍛錬が足りない。口元を引き締め、頭を冷やそうと、そもそもの紫原さんのつぶやきに戻ると、そこには衝撃のツイートがつづいていた。
ん…?男闘呼組…?え、男闘呼組ね。うん、まあ別に、いいんじゃないですかね…。段階的になら。まあ、困らないし。でも、それなら、そのあとにジャニーズ割、いやそのまえに、アミューズ割を検討していただきたい。
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