#6 ハーマン・メルヴィル「書写人バートルビー」 ジンジャーナッツと配達不能郵便 の感想
※これはポッドキャスト番組「翻訳文学試食会」の感想です
今回の本
今回のキーワード
一言でいうと「衝撃」
古めかしくて面白い始まりから不気味な話へ
絶対的消極主義、アクティブ主義への反抗
日常生活がないバートルビー
「菜食主義者」のヨンヘは「バートルビー」を下敷きにしている?
「自分がバートルビーになるかもしれない」という恐れ
覗き込める中身がない、空虚さ
バートルビー以外の人物
私:「最も摩擦の少ない生き方こそ最良の生き方だと堅く信じてきた人間」
ターキー:60歳手前くらい。午前中は礼儀正しく仕事もできるのに、午後には乱暴さが目立つ。書類のシミについて指摘されると「私たちは二人とももう歳なのです」などと言ってボスの仲間意識に訴える。
ニッパーズ:25歳前後の若者。午前中は消化不良による苛つきや興奮状態に陥ることもあるが午後は比較的穏やか。
ジンジャー・ナット:12歳前後の少年。使い走り。
机の高さの調整に手こずるニッパーズ
バートルビーが出てくる前にものすごく笑ったのがこのエピソード。机の高さの微調整のためにいろいろ挟み込んだりしているのが面白い。高くしすぎると「両腕の血の循環が止まってしまうと愚痴る」、低くしすぎると腰が痛い。現代人と同じ悩みを持っているのが妙に親近感。
書写はやる→書写もやらない→何もやらない
最初は同僚とのダブルチェック的な作業を断っているので、自分の仕事以外にやりたくない人か~。こういう人いるよねーって感じだったのにある日「もう書写はやらないことにした」と言うバートルビー。そして一番の不可解ポイントがここ。
この「ご自分でお判りにならないのですか」ってどういうことなんだろう。自分が会社員のせいか、この「なにもやらない」っていうのがすごく引っかかったな。やりたくないならなぜ事務所にいるのか?理由を問うような小説ではないのだけど。ノーワーク・ノーペイだぞ、バートルビー!
仕出し屋の紹介がおかしい
拘置所で仕出し屋を紹介するときの「バートルビー、こちらはミスタ・カツレツだよ」と本人眼の前にして紹介するのが何かおかしい。ミスタ・カツレツって何?
まとめ
不条理小説をそのまま受け止める度量が自分には足りない。どうしても「なんで??」と思ってしまう。これはそういうものなんだ!と言い聞かせてもモヤーっとしたままの読後感。ただ、日常生活では細部まで辻褄をあわせなくてはいけない社会人なので、たまにはこういう筋の通らないものを読むのも脳には良いかもしれない。「わからないものをわからないままで受け止める」修行が必要。
【追記】
その後ふと思いついたのは、人生で不条理なことに出会う機会はたくさんある。それに対する耐性を学ぶために不条理作品はある、とも言えないだろうか?(死や災害は「なぜ?」と問うても答えがないもののひとつ)
映像で見るバートルビー
Wikipediaによると数回映像化されている。YouTubeで見られるものはこれ。事務所移転に伴い什器が搬出されていく中で、最後に衝立を取り除くとバートルビーがぬーっと突っ立っているのが物悲しい。
不条理で思い出したもの
なぜか他人の家に住み着く一家。こわい。出ていかないバートルビーに似てる。
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