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映画感想:機動戦士GUNDAM GQuuuuuuX 後編

 今回は「機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-」の感想記事の続きです。導入部の感想は以下のリンクから。スキを押して拡散していただけると大変励みになります!

 前回は公開初日の興奮のあまり、文字通りビギニングに当たる部分の内容しか触れることが出来なかったので、今回はがっつりと余談を挟みながらガンダムのオタクとして真剣に本編の感想を掘り下げてみました。文量的にも前の倍くらい書いてるので、対戦よろしくお願いいたします。

 ではさっそく本編の感想へ。いわゆる「一年戦争」ことジオン独立戦争は地球連邦軍の完全撤退という形で幕を閉じました。すなわち連邦政府の管理下にあったスペースコロニー「サイド3」は「ジオン公国」という、いち主権国家として独立を達成したことになります。もっともあくまで辛勝であるため、地球連邦政府の打倒・完全制圧には至ってはいませんが。

 他方、本編の主な舞台であるコロニー「サイド6」についても大統領や政府機関が置かれ、ジオン政府との間に地位協定が存在することから、国号こそ無いものの、ほとんど完全な形で自治権を確立している事が明らかとなっています。これは「初代ガンダム」でも共通の要因として、一年戦争の開戦時に7つあったコロニーサイドのうち、このサイド6のみが中立を維持できた事が背景にあると思われます。持ち前の高い工業力に加えて、開戦の時点で連邦・ジオン双方の要人が拠点を置いていた事が功を奏した結果と言えるでしょう。またパンフレットによると、本作では戦後、ジオンの増長と外圧に対する反感から徐々にナショナリズムが芽生えつつあるらしく、沿岸警備隊を軍警察として再編したのもその現れなのだとか。

 逆にサイド6以外のコロニーに関してはどうかと言うと、当時建設中だった「サイド7」を除き、開戦と同時に連邦側勢力とみなされ、ジオンによる核攻撃や毒ガスによる虐殺で壊滅しています。実に勘違いされがちなのですが、冒頭のナレーションで語られる「総人口の半数を死に至らしめた」要因はコロニー落としによる直接的な被害よりも、むしろその前哨戦で発生した虐殺の方にありました。実際この行いによって、ただでさえ肩身の狭いスペースノイド(宇宙移民者)のうち多くが難民となり、戦後の長きに渡って辺境や急増された欠陥コロニーに押し込められる結果をもたらしています。

 それはたとえ今回のようにジオンが勝ったとしても同じであるようで、結局はネノクニのようなスラムに身を寄せ合って暮らしているのが現実。むしろ従来であれば戦後、曲がりなりにも連邦政府主導のもと「コロニー再建計画」が行われて各サイドコロニーも順次復興を遂げていたにも関わらず、本作ではそうした様子が見られないだけに、より一層、過酷な状況に置かれている可能性すらあります。

 一応は「スペースノイドの自治独立」を大義名分としていたはずのジオンですが、実のところギレン総帥が内心で抱いていた戦争目的のひとつには「増えすぎた総人口を一掃して統治しやすいように整地する」という思惑が念頭にあったため、ただでさえ乏しい財政資源を投げ打ってまで、戦後復興に踏み切るメリットは何処にもないという訳です。その結果はアンキーのボヤいた通り「ジオンが勝ってもスペースノイドの暮らしは良くならない、辛いままだ」のひと言。皮肉な話です。

 すっかり前置きが長くなりましたが、『GQuuuuuuX』本編はそんな一年戦争の終結から5年後にあたる宇宙世紀0085年。生き延びて中佐となったシャリア・ブル率いるソドン御一行様が、「ゼクノヴァ」と呼ばれる不可解な現象によって消息を絶った赤いガンダム(とシャア)の捜索の名目で、サイド6「イズマ・コロニー」の宙域に接近する場面から始まります。
 ちなみにパンフレット曰く、本作の舞台が『機動戦士Zガンダム』と同時期に当たる0087年ではなく、0085年に前倒しで設定された理由は、同作のラスボスにしてシャリア・ブル以外の「木星帰りのニュータイプ」であるパプテマス・シロッコの帰還と時期が重なってしまい、諸々ややこしくなるからとの事。さもありなん。

次世代モビルスーツ開発のパイオニア

 ちなみに赤いガンダムの捜索に関しては協定上、ジオン側に優越権があるらしく、サイド6の軍警察も基本的には黙認せざるを得ない様子。勝ったとはいえ、懐寂しかろう公国軍にそんな事をしている余裕があるのかと思わないでもありませんが、起きた事象が事象だけに、キシリア閣下肝入りの作戦であることが示唆されています。そうでなくともシャアの素性を知る彼女からすれば、権力の正統性を脅かしかねない"キャスバル坊や"が生きているかも……などと考えるに気が気でないでしょうし。

庵野もお気に入りの萌えキャラ

 ところで、この時点におけるソドンの艦長はラシット中佐とパンフレットに小さく表記されていましたが、シャリア・ブルと同階級なんですよね。「ガンダムUC」初期のネェル・アーガマみたく、同じ艦の中で指揮系統が違ってたら相当めんどいだろうな〜、という感想。流石に捜索全体の指揮と艦の運用とで分かれてるとは思いますが、特に緑のおじさんの方は常人には到底共感不可能な勘で指示を出してるので……。

 この作戦では、グラナダから拝借した「オメガ・サイコミュ」を搭載したジオン製の新型ガンダム「Gクアックス」が投入されます。本作においてはゼクノヴァの反省から「サイコ・フレーム」に先駆けて全面的に製造が禁じられたはずのサイコミュ技術ですが、お前ら禁じられた機械を平気で使ってんじゃねえか。分かってんのか!?

本作では幻となったMS-14「ゲルググ」

 ところで前の記事に書き損ねたので追記しますが、今作ではシャアが大佐に昇進してガンダムを塗り直すまでの間に、「ザク」の開発で知られるMS産業大手のジオニック社が新型MS開発を打ち切り、鹵獲したガンダムのデータを基にリバースエンジニアリングする方針に舵を切ったとの言及がありました。そのため、この世界線では少なくとも「ゲルググ」のお蔵入りが確定。これに伴ってモビルスーツそのものの開発技術は飛躍的に向上した一方、従来のようなガラパゴス的進化が起こる事もなくなったため、79年当時のザクやガンダムが旧式化することなく、ある程度戦い続けられる要因になっているようです。ガンプラを売る気があるのかないのか。

リック・ドム

 一応、ソロモンに爆薬を仕掛けるタイミングで「リック・ドム」らしき機影は確認出来ました。まぁあれはジオニックではなくライバルのツィマット社製だし、時期的にも開発が間に合っていてもおかしくはないけど。ちなみに同じくツィマット製で、ゲルググと開発コンペで競合していた「ギャン」に関しても開発は当然に中止。この事で皮肉にもギャンの制式採用に固執していたマ・クベ大佐の生存ルートが確立され、浮いたリソースはビグ・ザム量産に振り向けられる事により、ドズルと全ジオニストの夢の礎となりました。R.I.P.

マ・クベ(C.V.杉田智和)に感動

 閑話休題。オメガ・サイコミュの借り入れにあたってはゼクノヴァの再来を危惧した起動禁止の条件、すなわちガンダム00で言うところの「刹那、トランザムは使うなよ!」的な言い含みがあったようですが、本作でもさっそく「了解! トランザム!」と言わんばかりに顧みられませんでした。

親の顔より見た光景

 Gクアックスこと、ジークアクスの正規パイロットはジオンのエグザベ・オリベ少尉。軍警に捕まった際に発覚した経歴を踏まえると、旧サイド5・ルウムコロニーで勃発した一年戦争緒戦の「ルウム戦役」の生き残りと思われます。難民の出でありながら一兵卒ではなく士官待遇という背景には、やはりフラナガン博士に見出された才能が影響しているのでしょうか。正直、フラナガン機関といえば純粋なニュータイプ研究というより、あのラカン・ダカランですら吐き気を催すほどの非人道的研究で強化人間を無理やり輩出していた印象の方が強いので先行きが……。(ニタ研は全部そうとはいえ)

 しかも蓋を開けてみれば厚遇とは裏腹に、初陣にも関わらずいきなり赤いガンダム(シャアじゃなかったけど)と無茶ぶりでタイマンさせられた挙句、危険なサイコミュの起動実験に使われる幸先の悪さ。あまつさえ最終的にはパンツ丸見えの女学生にジークアクスを奪われてしまうものの、サイコミュがない中、手動操縦でもそこそこ健闘はしていたので、いちおうそこそこ腕は立つみたい。今後のご活躍に期待。

マチュとニャアン

 その頃、コロニーの中では塾帰りの女学生「アマテ・ユズリハ(マチュ)」と、運び屋の闇バイトがバレて軍警から逃走中の少女「ニャアン」との間でガールミーツガールが発生。一気にキャラデザも変わり、米津玄師の「Plasma」をバックに、さっきまでのシャア・アズナブル転生系二次創作はなんだったのかと思いたくなるくらいシームレスに『フリクリ』が始まります。ところで音楽シーンに明るい相互フォロワーからすれば「曲の使い方が雑」に見えるらしく、それは実際その通りなんですが、フリクリの時のthe pillowsも概ねこんな感じの使われ方だったので作風なんだと思います。

 既にニコニコMADを中心に各所で擦られていますが、「Plasma」のAメロの歌詞が「Zガンダム」のジェリド・メサを彷彿とさせすぎてめちゃくちゃにワロタ。このジェリドという男は、たまたま宇宙港の改札で聞こえた主人公カミーユの名前に対して(女の名前かと思ったのに)「なんだ男か」とひと言漏らしたばかりに、その後の人生設計がめちゃくちゃになって破滅し、ある意味シリーズの中でも、もっとも理不尽な目に遭ったキャラクターとして愛されているため、否が応でも脳裏をよぎります。個人的には多少その辺りのオマージュのニュアンスも意図してあるんじゃないかと睨んではいます。マチュもこの後、元気に早退してたし。

 主人公の「マチュ」ことアマテ・ユズリハ。今のところは視聴者のほぼ誰も本名の方は覚えていない、シリーズでも稀有な例。公開直後の時点では本編があまりにもネタバレを憚るような内容だったばかりに、お茶を濁すかのごとくファンアートか下着、胸、百合の性的消費3点セットで埋め尽くされていました。なんと破廉恥な!

かわいい

 サイド6在住かつ親が官庁勤めという、スペースノイドの中では比較的ハイソな家庭環境。本編不在の父親も特に重い背景などはなく単身赴任中という事らしく、見る限りにおいては何一つ不自由ない暮らしぶり。ジークアクスに乗り込む以前から既に独特な感性と奇矯さが目立っていますが、学校では同性からモテているという見逃せない設定があります。逆立ちのシーンや当て逃げでスマホをぶっ壊したニャアンに詰め寄る場面などを見るに、身体パフォーマンスもかなり高そう。ところでまったく話は変わりますが、宇宙世紀にもなってスマホとかWikipediaってどうなの? みたいな事を神経質に気にするような人は、根本的にアニメ筋(フィクションと向き合う上である程度必要な寛容さ、柔軟な読解力)が足りてないと思います。

猫みたいだと思ったらネコだった…

 物語のキーパーソンっぽいヒロインのニャアン。育ちのいいマチュとは対照的な境遇で、酸欠のテム・レイが作ったみたいな見た目の違法回路を運ぶカスのウーバーイーツを生業としています。アニメで見ている分にはやや分かりづらいんですが、どうやら難民に特有の負のオーラを振りまいているらしく、着ている制服も目立つ上にひと目で偽物と見抜かれているため、やる事なす事見事にから回っています。まるで詐欺の受け子が着慣れてないスーツ姿でバレる的な切なさだ……。
 事前情報を基に感じた第一印象に反して、ひたすら弱々しく不器用な様子で、初めて月村手毬の実態を目にした時と似たような感慨を覚えます。とりあえずマチュと百合カプを組ませようにも(絵的にはともかく)絡みがなさすぎるので、本放送まではいまいち甲斐のなさを感じる。

あら~^

 そんな二人ですが出会ってからすったもんだの末、ニャアンの配達にマチュが付き添うという形で、違法なMS用戦闘回路をお届けに、"ポメラニアンズ"ことジャンク屋「カネバン有限公司」のアジトへお邪魔します。言語化に難いので軽く流すけど、ここの神社のシーンもかなり好きだな。アジトに着くなり「クランバトル」なるプリコネユーザーが聞けば、その場で泡を噴いてショック死するような名前の非合法ガンダムファイトに精を出す社員一同、特に「違約金で人生詰⤴むぞォ!」と脅してくる宇宙世紀のオモコロ編集長・原宿に詰められながら、払い下げのザクを見やります。

宇宙(そら)って、自由ですか?……
原宿です(オモコロウォッチの導入)

 そこに折悪く、赤いガンダムと揉み合いとなってコロニー内に突っ込んできたジークアクスと、駆けつけてきたサイド6軍警察のザクによってアジト周辺(ネノクニ)は大パニックに陥ります。ザクの肩にあるシールド部分には「警察」と書かれた威圧的ショドー!ナムアミダブツ! ちなみにさっきから漢字や和名の響きが多いのは気の所為ではなく、本作ではサイド6の準公用語として日本語が設定されているため。

サツバツ!

 民間の居住区であるコロニー内でいきなりおっぱじめるガンダムどもも大概なのですが、特に軍警の方は増え続ける難民に対する反感を隠そうともせず、職務態度は横暴を極めており、腹いせと言わんばかりにバラックの屋根を片っ端からひん剥いて逃げた"マルモ"(マル秘やマル暴などの警察用語、モはモビルスーツ案件の事と思われる)の捜索にあたる始末。

 目の前で繰り広げられる蛮行、そしてなにより彼らに殴られたのであろうニャアンの目元のアザを見て激昂したマチュは、軍警をぶっ倒すべく原宿さんのザクに勝手に乗り込んで火を入れるものの、ポンコツ過ぎて役に立たず通用口へと蹴り出されてしまいます。そこにはまたしても間が悪く先に逃げ込んだエグザベ少尉と、コックピットがら空きのジークアクスがいて……。

こっちの方が強そうじゃん

 ボロボロのザクから飛び出したマチュは勢いのまま、主人公にほぼ等しく課せられたノルマ(たまたま目の前にあったガンダムを強奪する)を完遂。いとも容易くオメガ・サイコミュを起動させて軍警ザクの撃退に成功します。しかも、この間の機体操作はほぼ全てサイコミュを介した思考制御というのが驚愕すべきところ。アムロですら初回にはマニュアルを読み、その他のニュータイプ主人公とてプチモビ等の操縦経験があった上でのマニュアル制動だった事を考えるとかなり驚異的です。特に搭載されたサイコミュ技術の方は、どう考えても0085年時点に実現出来るとは思えないため、なにかしら今作独自のギミックが絡んでいそう。

 この後に控える放映版とは構成が異なるようですが、概ねここまでが「beginning」を除く1話目の内容と思われます。

ヘルメスの薔薇(Gレコ)と
シャロンの薔薇がややこしくて堪らない

 結局、この騒動を経てポメラニアンズの元にガンダム・クアックスが渡り、開発コードの「GQuuuuuuX」から「ジークアクス」と呼ばれるようになります。しかし起きた事柄の割には、どいつもこいつも目の前のガンダムとクラバに夢中で緊張感がないな……。まぁ非合法でモビルスーツに殴り合いをさせようって連中がこの程度でビビってるようでは話にならないし、軍警がああやって乗り込んでくる事自体、彼らには日常茶飯事なのかもしれないけど。
 当事者のマチュも別段コンバット・ハイみたいな描写もなく、門限を気にして帰りたがってるドライさがかなり今どきな感じ。こういった等身大の描き口は当初「ガンダムの女性主人公」というステレオタイプに引き摺られそうになっていたところ、『水星の魔女』のおかげでやりやすくなったんだとか。あれも終わってみれば物申したい所が多々ある作品でしたが、そういう露払いを兼ねたエポックメイキングとしての意義は確かに大きかったと思います。
 あと今のところマチュに撃墜されたパイロットの生死については言及されていませんが、後々その辺りを自覚する瞬間とか出てくるのだろうか。正直そこの葛藤も戦争モノである以上付き物とはいえ手垢の方もべっとりと付きまくっているから、やるならやるでスマートに描いてほしいが。

 いったん話をジオンサイドに戻すと、勝手にオメガ・サイコミュが起動した挙句、エグザベ逮捕ジークアクスの紛失という立て続けの事態を前に、ソドン艦内では動揺が広がります。まず事が公になれば、キシリアの腹心である(アムロのガンダムによる戦死を免れた)マ・クベ中将のもと軍事法廷で銃殺刑は免れないだろうとの見方。かといってエグザベの身柄解放を強行すると、今度はサイド3の総帥府、すなわちキシリアの政敵であるギレンにバレてしまうとの懸念ですっかり八方塞がり。人生詰⤴むぞォ!(クルーの言う通りとっくにバレてると思いますが)
 そんな中でシャリア・ブルが取った方策は、遺憾の意を表明するとしてソドン単艦でサイド6に直接乗り込むこと。まったくもって恫喝に他なりませんが、ミノフスキー粒子を散布しないことで戦闘の意思がない事を暗に示しつつ交渉を迫ります。
 この「ミノフスキー粒子」に関しては本編では特に説明なく進むため、ごく簡単に解説しておくと、散布する事によって電波かく乱を引き起こす作用を持つ不可視の粒子を指します。現代戦で言うところのチャフの性質に近く、適当に撒くだけでミサイル等の誘導兵器や無線通信を軒並み無力化できるという優れものです。

 あと何気にこれは旧作からのファンほど盲点になると思うのですが、本作の世界線では普通にスマホ等の通信機器が民間にも普及しているため、生活圏で迂闊にこんなもん撒いたら、たちまち社会インフラが麻痺しかねず、物凄く不穏当です。絶対に撒くなと厳命されているのは、まさしくこうした作用から立派な侵略行為として機能してしまうためという側面もあると思われます。
 ここまでの事態に流石のサイド6本国も、捕虜ひとりのためにそこまでやるのか……とドン引きしながら、大統領の特別補佐官として、シリーズファンにはお馴染みの"あの人"を特使に派遣します。

 そう、サイド6の事ならおまかせあれ。「機動戦士ガンダム」の視聴者、或いは「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」ファンなら誰もが知る名脇役のカムラン・ブルームさんです。軽く説明しておくと、「初代ガンダム」において、疲弊したホワイトベースが補給を受けるべくサイド6に立ち寄った際、監察官として立ち会いに訪れたのが、このカムランさんでした。当時の彼はホワイトベースの操舵手で、後にあのハサウェイの母親となるミライさんのフィアンセでしたが、戦争に対してどこか他人事であるような態度と、無自覚に親の威光を笠に着た態度を拒まれて破談に至ったという経緯があります。(なお、破談に関しては本作でも変わらず)

 とはいえ基本的には善人であり、ミライさんがブライトと結婚した後も彼女の事をずっと気にかけ続けていました。それから14年後にあたる「逆襲のシャア」で再登場した際には、職務上の都合からシャアと連邦政府の極秘会談に立ち会った事で、隕石落としの作戦をいち早く察知。そこで地球に住まうミライさんの無事を願って終身刑すら覚悟の上、独断で博物館行きの核ミサイルを横領。あまつさえそれをかつての恋敵であったブライト艦長に託すという人格的ファインプレーによって地球の危機を救っています。BSSやNTRに屈しない心の強さが光る。

 そんなカムランさんですが、ファーストの名脇役同士通じるものがあったのか、今作ではシャリア・ブルと旧知の仲にあるらしく「17バンチ事件の二の舞」などの不穏なキーワードを含みつつ、エグザベ少尉の釈放についてのやり取りを交わしていました。「中佐は筋を通された」とあるので戦闘が発生した日付で、地位協定に基づく証明書の類でも渡していたのでしょうかね。

ドラッグストアありませんか

 釈放に伴って軍警に取り調べでボコられたであろうエグザベ君の気遣いに、わざわざドラッグストアで買ってきた絆創膏を渡すシャリア・ブル。捕虜への尋問ともなれば、その苛烈さはニュータイプでなくとも想像出来るような気もしますが、そうした所を瞬時に察した上での気の回し方や勘の鋭さは相変わらずな様子。そういえばシャアとワインを酌み交わしていた時に銘柄をずばり言い当てていたのも、単に博識だったのか、心を覗いた結果なのか。いずれにせよ、こういう得体の知れなさこそがニュータイプの忌み嫌われる所以なのだろうな。
 二人はそのまま地下鉄で移動しながら、ジークアクス強奪の件について話し合います。しかし絆創膏といいマチュのスマホといい、こういう現代的なガジェットを敢えて配置する事でSFっぽさを感じさせない造りは「ガンダム」においてはわりと画期的な試みな気がする。特に宇宙世紀における通信機器の類はミノ粉との兼ね合いもあってやりづらいだろうに、よくぞ挑戦してくれたものだと思います。

 一方のマチュはジャンク屋の女社長アンキーに才能を見出されてクラバに誘われた事で悶々としているうち、戦闘時に見たニュータイプ特有の"キラキラ"がコロニーの落書きと共通していることに気付き、学校を飛び出します。

見えてもあまりろくな事がない

 この"キラキラ"について僕自身は今までずっとアニメーションの演出としか思わなかったのですが、本作においては明確に「ハルシネーション」と呼ばれる物理現象として設定の上、描写されているようです。当然、ニュータイプにしか知覚できない不可視のものですが、劇中にグラフィティ(落書き)として具現化される事によって視聴者としては改めて「アニメじゃない ホントのことさ」と突きつけられたような気分になりました。

シュウジ・クロス(東方不敗の本名)
ではないと、ガンダムも言っている

 そんな落書きの下手人はシュウジ・イトウ。どこからどうやって得たのか、赤いガンダムでバンクシーさながらコロニーの至る所にキラキラを描きまくっているらしく、サイド6では立派なお尋ね者です。生粋のニュータイプっぽく感性で生きているタイプの天才肌で、藝大前のバス停で待ってたら1日に20人くらいは似た人に会えるような気がします。顔が良いのか、波長が合うのか、初めて会うにも関わらずメロついていたマチュに関しては、今後の人生でベーシストとかに引っかかってヒモにならない事を祈るばかりです。
 また彼の特技として、キラキラを知覚した人間(=ニュータイプの素養)を匂いで嗅ぎ分けられるようで、出会い頭からマチュ吸い、ニャアン吸いと羨ましいまでのハラスメント行為に堂々と及んでいました。目下スタジオカラーや庵野秀明が絡むところの共通項として、「シン・ゴジラ」から始まる一連の「シン」シリーズにおいても毎度、体臭に関する言及や描写は一貫して存在するため、今回もその例に漏れずといった具合か。

 結局ややあって、ニャアンとの取引がご破算となった上にシュウジの全財産が水没。おかげで一挙に今日を食い繋ぐにも事欠く有様となった彼ら2人に対して、マチュはクランバトルでの一攫千金を提案します。運び屋などという非合法な手段で食い扶持を稼ぐ自分を棚に上げて、「クラバなんてまともなやつはやらない」と全国の騎士くんに言って聞かせたいような正論を吐くニャアンを他所に、シュウジの方は「戦え、とガンダムが言っている」のひと言で快諾。地下に隠していた赤いガンダムを引っ提げてマチュの「マヴ」となります。

 そうして迎えたクランバトル本番。うお…でっか…なパイスーを見せ付けつつ、マチュは"ポメラニアンズのマチュ"としてジークアクスに乗り込みます。ちなみに今回のハロはマチュ母との兼役で釘宮女史が声を担当されていますが、「シャーネーナ!」とか言わず、途中でイノベイドに乗っ取られる恐れもなさそうなのでご安心です。

悪しき前例

第一条 - 「頭部を破壊されたものは失格となる。」
第二条 - 「エアロック開放後の5分間に決着させねばならない。」
第三条 - 「破壊されたのが頭部以外であれば、何度でも修復し決勝リーグを目指すことができる。」
第四条 - 「ガンダムファイターは己のマヴを守り抜かなくてはならない。」
第五条 - 「2対2の闘いが原則である。」
第六条 - 「クランの代表であるガンダムファイターはその威信と名誉を汚してはならない。」
第七条 - 「コロニーがリングだ!」

クランバトル国際条約

 ※嘘です。このクランバトルの実態は『機動武闘伝Gガンダム』におけるガンダムファイトや『機動戦士ガンダム 水星の魔女』で描かれた決闘のような格式ばったものではなく、勝利条件と試合時間以外は概ねルール無用のアングラ文化です。『グラップラー刃牙』の地下闘技場の方がまだしも近い雰囲気か。なお試合の模様は適宜ゲリラ配信で流され、若者たちの間では賭けの対象とされている様子。シャリア・ブルとエグザベ君もバーで観戦していた事から、違法ながらも娯楽としては普遍なのでしょうか。

 さて、ここでちらほらと言及のあるM.A.V.(マヴ)についてもおさらいしておきます。これは「ミノフスキー粒子が散布された戦場においては、モビルスーツによる有視界戦闘に頼らざるを得ない」という大前提のもと編み出された戦術の一環で、本作のモビルスーツ戦闘に対する独自の解釈とも言うべきセオリーです。ツーマンセルの仕様上、通信もままならない中での相方との連携が肝であるためパートナーを「マヴ」として殊更に思いやり、一方がやられた歳には「よくも俺のマヴを!」などと言うほど。

 ジオン突撃機動軍の教本に曰く、特に宇宙空間での白兵戦においては、敵に見つからないうちにイニシアチブ(先手)を握った側が圧倒的に有利になるとされています。しかしこの場合に優位性を維持出来るのはごく初手に限られ、攻撃が失敗した場合には位置が特定され、アドバンテージを喪失するリスクを負うことになります。その際に発生する不利を、ペアである「マヴ」と死角となるポジションを相互に補完し合う形でケアする事がM.A.V戦術の要とされています。(相補性のうねり?)この戦術論は一年戦争中におけるシャアとシャリア・ブルの連携が非常に優れていたために、それを参考として編み出されたとの事。実践例は以下の通り。

 『逆襲のシャア』のワンシーンより。ここでは当初、強化人間であるギュネイがガンダムを相手に先制を仕掛けてアドバンテージを得ますが、防御に成功したアムロは攻撃の方向からヤクト・ドーガの位置を特定、即座に機体の背面に備えていたバズーカを切り離して囮とします。この時、バズーカの銃口はいつでも遠隔操作で発射できる状態でギュネイを捉えており、彼の注意も一瞬そちらへと惹き付けられますが、その瞬間めがけてアムロのビームライフルが炸裂。結果、メインキャラの一員であったはずのギュネイは断末魔はおろか、ついに自分の身に何が起こったのかを認識する事すらなく宇宙の藻屑と化します。
 この状況をマヴのセオリーに当てはめてみると、ギュネイは挟み撃ちの形で回避困難な十字砲火に晒される他なく、また放たれる火力に対してモビルスーツの装甲程度では実質的に防御も不可能なため、バズーカを置かれた時点で完全に詰んでいました。まさしくお手本のようなタクティクスです。

 しかしこれをそのままマヴの実用例として提示するには一つ致命的な問題があり、それは本来ならツーマンセルで行うべきこの連携をアムロはひとりでこなしているという点に尽きます。そのためファンの間では本史においてM.A.V.戦術が採用されなかった主な要因として、一年戦争時におけるアムロのスタンドプレーが尾を引いているのではないかとの意見が大勢を占めています。まぁそもそも後ろにも目を付けられるようなイレギュラーには通じませんからね、これ……。

第2話にして早くも破綻

 それでも昨日今日でガンダムに乗ったばかりの素人学生相手には十二分に猛威を発揮し、2機のザクは教本通りの巧みな連携でジークアクスを次第に追い込んでいきます。相手はこうしたセオリーを熟知している事や、そこらのジャンク屋では調達すらままならないザク・マシンガンを普通に用いてる事情から素人とは考えづらく、ジオンの軍人崩れが小金稼ぎに参加しているものと見られています。
 このクランバトルの描写で特徴的なのは、戦闘の流れに関して、必要に応じて外野のシャリア・ブル等による実況・解説のセリフを挿し挟んでいること。バトル漫画では主に環境から脱落したキャラが務めがちな、非常によくある光景ですが、この事は上記にあるようなギュネイの死に様など、目まぐるしいばかりに初見では何が起きたのか把握しづらい事への反省として描かれている、とパンフレットにありました。

 一方的に翻弄される中、閃光弾の直撃を受けて一時的に視力が損なわれるマチュ。死の危険を感じ取った彼女の意識は再び"キラキラ"に包まれ、赤いガンダムを駆るシュウジとの共鳴を果たします。これをきっかけに覚醒を果たしたマチュは、赤いガンダムとシンクロした阿吽の呼吸でザクの撃破に成功。クランバトルはポメラニアンズの勝利で幕を下ろします。ヒートホークの武骨で重たい一撃がかっこよく映えてましたね。これがビームサーベルだとあっさり決まってしまうのが絵的に良くないというので代わりに採用されたそうですが、「鉄血のオルフェンズ」の思想ともシンパシーを感じます。 

 観戦を通じてマチュの覚醒ぶりに興味を抱くシャリア・ブル。他方、赤いガンダムの正体に関しては「大佐がマヴの先陣を他人に譲るはずがない」という理由からシャアが乗っていないことを確信します。色々と気になる引きではありますが、この人はこの人で次回予告のつもりなのか、パンフレットの方で住民のデモ隊に混じって「ジオンは出ていけー」とかノリノリでシュプレヒコールしているお茶目な描写がありました。今後は果たしてどうなるのやら。

終わりに

 そんなこんなで、久しぶりにオタク全開で考察しがいのあるガンダムでした。なにより本作をきっかけに『ファースト』が省みられる機運の高まりを感じて、胸が熱くなっています。せっかく『閃光のハサウェイ』で盛り上がってきたところ、続編の音沙汰が全くないせいでブームが下火になりかけている状況をひたすら憂いていましたが、これでジオンはあと10年は戦える!

 この先、話がどう転がっていくのかは全く想像もつきませんが、監督インタビューを読む限り、「ニュータイプ」というものをより具体的かつ肯定的に描く方向ではあるようです。富野ガンダムにおいてのそれは「戦争をきっかけに適応進化した人類の哀しい変種」、「人より優れた能力がかえって傲慢さを生み、またその事で互いに分かり合えるとも限らない」といった比較的シビアな描かれ方をされてきただけに、どういったアプローチで再解釈を行うのかは見ものですね。

徳光康之「濃爆おたく先生」より

 加えて本作の造りは『機動戦士ガンダム』を本史とした場合の「仮想戦記物」を意識しているともあるので、引き続きガノタなら誰しも考えた事のあるif展開の具象化を警戒しつつ、状況を注視していきたい。さしあたり本放送に備えて、いったん脳みそを『ギレンの野望』をプレイする時の形に組み替えておくか。
 文字数や最低限、人様に見せる文章としての体裁を保つ関係上、まだまだ語り足りない部分も多くありますが、疑問に思う事などあればX(Twitter)かコメント欄の方にお寄せ頂ければ可能な限りお答えしますので、引き続きよろしくお願いいたします!

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