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日記:生き続けるもの

・これまでのあらすじ:映画の最中にでかい独り言でぶつくさ言うオッサンにマジギレして、劇場スタッフ同伴のもと鬼詰めした砂塚ユート。しかし公衆の面前でトラブった挙げ句、劇場から厄介払いとして渡された映画無料招待券をすっかり持て余していたのだった……。

・そんな後味の悪いスティグマをいかに消化するか悩まされていた。有効期限が年内というのもあって当初は年末に控えていた「まどか☆マギカ」の新作に充てようと思っていたが、件の延期に伴って候補から消える。ほかに直近で気になる封切りもない。どうしたものかと思案しているところに、あれよという間に降って湧いたのが、

・室井慎次の二部作。ちょうどいい。この「気にはなるけど正直、身銭を切るほどでもないかな……」感が実にいい塩梅だ。「踊る大捜査線」はそれなりに好きで大方のスピンオフも観ているが、やはり基本的には青島がメインを張ってるのが見たいのであるから、どうにもテンションが上がらない。そうでなくとも「レインボーブリッジ」以降は世代交代に伴って作風も旧湾岸署時代のドタバタなコメディタッチが薄れていってなんだかなー、と思っているうちに十数年経っていたから尚のことだ。

・これより先はネタバレ込みの感想になるが、推定読者層にシリーズのファンはあまり居なさそうなので一旦、気にしない方向。有り体に言えば、室井慎次に捧ぐ鎮魂歌にして、柳葉敏郎の生前葬みたいな映画だった。実際、撮影ロケの大半は柳葉氏の地元で行われたと聞くので、まさしく役者冥利に尽きる最高の花道であると言えよう。今作をもって無事に室井の生涯は幕を閉じたが、彼の遺した意志は生き続けるという意味でタイトルに嘘偽りはなかった。

・ネットの感想を見るとつまらない二束三文の評論家気取りが「駄作」「ファンに対する裏切り」などと煽っているが、個人的にはそうは思わない。「踊る版北の国から」と端的に評されるように、事件の発生と解決はまるでメインではないし、踊る大捜査線に求められるタッチとはかなり離れている。総じて予告の煽りほどエンタメ重視な作りでもないので派手さはないが、そもそも室井慎次というキャラクター自体がそういうものとは対極にある男なので、旧来からのファンはさほど気にしていないだろうと思う。少なくとも俺の居た劇場では周囲からすすり泣くような声だとか音だとかが微かに聞こえた。

・警察官僚としての室井しか知らない我々からすると、夢破れて田舎に帰った彼の姿に寂しさのような切なさのような、複雑な気持ちに苛まれる部分は否めなかった。とはいえ、これまでの経験を経た室井ならそうするだろうと腑に落ちるほどには丁寧に暮らしぶりが描かれていて、脚本の都合で動かされているような無理やりさはあまり感じなかった。まぁどのみち設定上でももう定年だし、作中で一度アガりを迎えていた彼の物語を敢えてリブートさせるからには、必然的にこういうスタイルに落ち着かざるを得ないのはあるが。

・そんな映画なので、ファンサービス以外の部分では加点式で褒められる要素はあまりない。どちらかと言えば、この手の映画にしては減点要素が極めて少ないところの方が特筆すべきに思った。ひとつ扱いを間違えるとたちまち晩節を汚しうる要素の、旨味のある部分だけを適切に抽出して地雷を尽く回避している。とりわけ予告で散々フィーチャーされた日向真奈美の娘、杏の扱いが最たるところだ。蛙の子は蛙というようなミスリードを誘いつつ、そこに安易に結論を置かなかった事を賞賛したい。それ自体は作劇の方向性から考えても至極妥当な判断としか言いようがないが、これを見誤って踏み外す凡作のあまりにも多いこと。

・偉そうに語ってきたものの、実を言うと前編は未鑑賞なので滅多なことは言える立場にはない。「踊る大捜査線」の本編さえ知っていれば、後編だけ見てもなんら不都合はないと感じた。それだけに尺以外の都合で前後編に分ける必要があったのかという疑問もなくはないが……。あと滅茶苦茶に可愛い子が出ているな、と思って調べた日向坂のアイドルだった。彼女の役が秒速でNTRされたのが唯一、本作における不満点と言ってもいい。

・エンドロール後の織田裕二(青島)に劇場が騒然とする。残念ながら個人的には雑誌にすっぱ抜かれているのを事前に目の端で捉えてしまったため、サプライズ感は薄かったが、やはりテンションは上がった。どうやら今回の室井退場は「踊る大捜査線」のリブートに必要な禊でもあったらしい。とはいえその青島も3年以内には定年を迎えるので、またしても継承編になりそうな予感。

・それはそれとしてメイクなのか本人のあれなのか、流石に青島も老けたな〜。もう当時の和久さんと変わらないというのだからなぁ……。あと、すみれさんが生存した代わりに警察退職済みが確定してて哀しかった。幽霊だか生死不明だかにされるよりはマシとはいえね。いずれにせよ青島も今は湾岸署にはいないらしいので、今後どうなるやら。そんな感じで本日はここまで。


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