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「みんなのわがまま入門」を読んで

先日,ずっと気になっていた本を読み終えました。富永京子先生の『みんなのわがまま入門』という本です。

著者の富永京子先生は,立命館大学産業社会学部にて准教授をされていて,主に『社会運動』について研究されている研究者だそうです。

本書を知ったきっかけは,Twitterでした。私は現在,Twitterで研究用アカウント(もはや研究でも何でもないこともつぶやいていますが…)を稼働させているのですが,そこで富永京子先生のアカウントをみつけました。最初は「何かおもしろいこと言ってる研究者の方がいるな~」という感じでフォローさせていただいたのですが,よくよくツイートやbioを読むと『社会運動』を研究されていることを知って,実は少し驚きました。というのも,富永先生が本書やツイートでも言われているように,私自身「社会運動って怖い」というような先入観があったからです。
『デモで街中を行進して,拡声器と横断幕とプラカードを持って,大人数で社会に対して怒りをぶつける運動』,都会に住んでいない私はそういった偏ったイメージを勝手に作り上げていました。なので,富永先生に対しても「めっちゃ武闘派の人なのか?」と思いましたが(実際どうなのかわかりませんが),どうやらそれはおそらく私の誤解で,誤解の原因は私が『社会運動』をまったく知らなかったためであるように思いました(そもそも社会運動には色んな内容や方法があるようです)。そして,「社会運動ってなに?」という疑問を解消すべく,『中高生から読める社会運動の入門書』として富永先生が書かれた,『みんなのわがまま入門』を手に取りました。

本書を読んで,自分の中にあった憂鬱が少し晴れたように思います。「自分のわがまま(社会運動)は声を上げるに値する」のだと,そう勇気づけられた気がします。以下に,少しだけ本書の内容などについて紹介します。

わがままって言いにくい

本書では,社会・学校・会社などの組織や他者に対して不平や不満を訴える社会運動のことを『わがまま』と表現されています。これは,富永先生が研究で『社会運動に対するイメージ』について調査された際,「社会運動ってなんか嫌」と答えた回答者が,その理由として「だって社会運動ってわがままじゃん」と答えたことから由来しているようです。このわがままという言葉には,「そんな不平や不満を感じるような現状を招いた原因は,少なからずあなた自身にある(自己責任)でしょう?」という意味があるようです。そして,日本では,デモに代表されるような社会運動に対するネガティブなイメージを持っている人が多いことに加え,上記のような『わがままに対する非難』を思い浮かべて自身が抱える生きづらさなどの声を上げづらい空気が流れているとされています。

本書では,「そんなの自己責任だろ」という非難が発生する原因の1つとして,私たち共同体の中に存在する『ふつう幻想』を挙げています。『ふつう幻想』とは一体何でしょうか。

本書で述べられている『ふつう』とは,いわゆる常識や規範,標準的な生活様式といったことを指します。かつて日本(1960~1970年代)は,高度経済成長期を経験して1億総中流社会を形成しました。すなわち,多くの人の生活において,際立って裕福な人も,際立って貧しい人も視界に入りにくくなり,「みんな同じような生活してるやん」という1億総中流の意識(ふつう)が形成されたのです。
しかし,時を経て,現在はいささかかつての状況とは違っています。というのは,現在は政治や経済のグローバル化に伴って,通信システムや交通システムが充実してきたことにより,個人が多様な情報を入手できるようになったのです。そして,これにより,各個人によって触れる情報,文化,人間関係が異なり,他者と異なる価値観が形成されていく『個人化』が生じるようになりました。すなわち,見かけ上では,かつてと同じように個人が共同体の中で他者と時間・空間を共有しながら生活しているけれども,価値観までは共有されなくなっているという現実があるのです。
そして本書は,実際にこのような傾向があるにも関わらず,現在私たちはかつて形成された『ふつう』を親世代から暗黙のうちに受け継いでしまっている現状があると指摘しているのです。こうして,実際には各個人で多様な価値観を保有しているにも関わらず,もはや幻想といえるかつての『ふつう』も持ち合わせているがためにギャップが生じ,わがまま(不平・不満)を訴えると「いやそれあんたの問題(自己責任)やん」と言われたり,言われなくともそう思われているのではないかと考えてしまうのです。

それでもわがままを言う価値はある

日本ではわがままを言いにくい空気が流れがち,しかし,富永先生は本書でそれでもわがままを言う価値はあると指摘します。その理由は,ざっくり言うと「あなたが抱える不平や不満は,案外,他の人も感じている可能性があるから」だそうです。
これはどういうことかというと,1つの共同体の中に多様な価値観が混在している現在では,自分とは異なる所属の人でも共通した不平や不満を持っている可能性が高いからです。
何らかの不平や不満に関する主張を行う場合,かつては同じ共同体に所属している人々が主張に共感してくれる傾向がみられました。これは,1億総中流社会においては,どちらかというと同じ職場や学校などに所属している人々は価値観が似ていたため,同じ共同体の中で「もっと給料を上げてほしい!」や「髪染めを認めてほしい!」といった主張に対して共感が得られやすかったのでしょう。一方で,現在では,共同体の中に多様な価値観が混在していたとしても,誰かが勇気ある声を上げることで,他の共同体に所属する人であっても「これは私も思ってた」,「同じことを考えている人がいるんだ」といったように,それぞれ少しずつ違う経験であったとしても根底にある悩みや生きづらさを共有できるのです。そしてそうした共感が集まることで,次第に自身の現状(社会)を変えていくムーブメントになっていく可能性があるのです。

さらにもう1つ,本書で紹介されていたわがままに関する内容で,個人的に「お~」と思ったこと(?)があります。それは,「本書ではアウトなわがままかセーフなわがままかどうかは,主張した時点では判断しないという立場を取る」と明言してくれていることです。
つまり,本書で使用されている具体例で言えば,「学校でニンテンドースイッチしたいから後ろの席にしてくれ!」というぶっとんだ主張から,「生活保護制度を利用させてほしい」という主張まで,『わがまま』が提出された時点で他者がどうこう言うのではなく,「その理由とは一体何なのか,どういった解決策があるのか」ということを議論していくことが重要なプロセスであると述べられているのです。

どうやってわがままを言うのか

ところで,具体的にどうやって『わがまま』を言えばいいのでしょうか。

本書の内容をざっくりと申し上げると,まず自身の『モヤモヤ』を共有し,次に社会全体に向けて『わがまま』を言う,という順序をたどることが挙げられます。

①自身の『モヤモヤ』を共有する

ここでいう『モヤモヤ』というのは,自身の経験談やそれによって感じた不平,不満,理不尽のことを指します。すぐさま「こうしてくれ!」という要求をするのではなく,「こんなことがあったんだ」,「こう思ったんだ」という『モヤモヤ』を他者と共有することから始めるというのです。

②社会全体に向けて『わがまま』を言う

他者と自身の『モヤモヤ』を共有した後,実際に『わがまま』を言ってみる段階になります。そして,ここで重要なのは,『直接』言うのではなく『社会』に言うことであるとされています。
どういうことかというと,本書で使用されている具体例で言えば,「学費を安くしてほしい」という主張を,直接学校(教員)に訴えたとしても簡単には検討してくれるわけではないことなどが挙げられます。なぜなら,この例で考えるならば,学校側にも何らかの妥当で合理的な理由があって学費の金額を設定していると考えられるからです。他の事例であっても,同じようなことが想定できますよね。このため,不満を感じる原因や対象に直接『わがまま』を言うのではなく社会全体に向けて言うことで,自身の現状(社会)を変えていくムーブメントを目指していく(必ずしも目指さなくていいかも)ことが奨励されるのです。

そして,上記の『自身のモヤモヤを共有すること』や『社会全体に向けてわがままを言うこと』など実行するためのツールとして,SNSや雑誌・新聞の投書欄を活用することが紹介されています。

最後に

本記事では,富永京子先生の『みんなのわがまま入門』について簡単に紹介させていただきました。いかがだったでしょうか。
本書は,これまで本記事で述べた内容よりも当然もっと詳細でわかりやすく,またユーモラスです。本記事で興味を持ってくださった方は是非読んでみていただければと思います。なお,私は『社会運動』や社会学に関してはまったくの素人ですので,本記事の内容に関して「富永先生はそういうつもりで言ってるわけじゃない」といったような厳しいご指摘もあるかと思いますが,どうか大目に見て下さればと思います…(著しく問題がある場合は修正致しますので,こっそり教えてください)

また,冒頭でも書かせていただいたように,私は本書を読んで,「自分のわがままは声を上げるに値する」のだと勇気づけられた気がします。
私は,この春(2021年3月)に大学院を修了し,4月から非正規の教員として働く予定の人間です。これまでの学生としての研究生活の中で,色々と思うところがありました。今まで抱えてきたやりきれない思いを,少しずつでもnoteなどを活用して,『わがまま』として言っていきたいと思いました。


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