もやもやは 安らぎという 花の種
もやもやという種は安らぎという花になる。
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物心ついたころから心に『もやもや』があった。
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なにか、人生に暗い影があった。
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その『もやもや』のせいかわからないけど、
なぜだか周りの世界が
異様に怖かった。
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周囲の人が怖かった。
いじめてくる人も怖かったけど、
優しくしてくれる人もなんだか怖かった。
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恐怖と一緒に怒りもあった。
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何度「あんな奴死ねばいい」って思ったかわからない。
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誰かを憎む気持ちは強く持てるのに、
誰かを愛する気持ちはあんまり持てない。
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人と心から
交流できなかった。
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いつもうわべだけのやり取りだと感じた。
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人に嫌われるのが
怖かった。
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だから自分に嘘をついて、
自分を隠しながら人に合わせて、
自分を殺していた。
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はじめて恋をした時も、
嫌われるのが怖くて結局声をかけたりもしなかった。
傷つくよりマシだった。
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そんなだから恋人ができたこともない。
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『もやもや』を忘れるために、
勉強、漫画、アニメ、人間関係に
自分を埋没させようとしていた。
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一生懸命、将来のために勉強したり、
罵詈雑言のネットにかじりついたり、
漫画やアニメの妄想にふけったりしていた。
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そんなことに埋没しているときはいいけど、
暇なときにその『もやもや』が
また湧き上がってきて怖くなる。
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それを忘れるために
また活動に埋没する。
その繰り返しだった。
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どんなにつらくても、
その『もやもや』と
向き合うよりはましだった。
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いつも焦っていた。
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早く宿題を終わらせなくては。
いい大学に行かなくては。
完璧な人生を送らなくては。
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嫌われないように。
間違いを犯さないように。
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あるときは
自分が何者かになれば、
『もやもや』が
消えるかもしれないと
思った。
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必死に努力したりもした。
特別な存在になりたかった。
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あるときは誰かこの楽しくない日常から連れ出してくれないかな
とよく夢を見た。
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自分は何もできないと
無力感でいっぱいだった。
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ずっとゴミみたいな思考を
頭の中でぐるぐるめぐらせていた。
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わざとそうしていたと思う。
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生きている感覚がなかった。
今を生きていなかった。
ずっと意識が今ここにないものに
向かっていた。
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次第にぼくの頭の中は
どんどん汚くなっていった。
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意味のないバカバカしい妄想で、
頭がいっぱいで、
本当に苦しかった。
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「お前、嫌わてるぞ」
「あの人、今ぼくのこと嫌そうな顔した」
「たぶん、むかつかれた」
「今あの人、ぼくのこと見て笑ってた?」
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そんなこと考えてばかりで、
安らぎの時間が
どこにもなかった。
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『もやもや』からの
逃避に疲れ果て、
統合失調症になった。
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「なんでぼく、
自分で自分を
こんなに追い込んでいるのだろう?」
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「もうこんなばかばかしいことは
こりごりだ。」
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「もうこの『もやもや』に
向き合うしかない。」
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その『もやもや』に
向き合ってみようとした。
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でも、その『もやもや』に
どんなに向き合おうとしても、
最初はなんだかそれはよくわからなかった。
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この生きづらさは何なのか、
最初は理解できなかった。
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だんだんと
それはさみしさだと
気づいていった。
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自分が孤独だということに
ずっと気づかないように
していたのかもしれない。
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自分が独りぼっちだという事実に
押しつぶされるような
気がしていたからかもしれない。
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でも気づいたところで
一人ではどうしようもなかった。
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「もうだめだ・・・誰か助けて・・・」
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そんな時、「それは辛かったなー」と
寄り添ってくれる人が現れた。
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その優しい言葉が
ぼくのもやもやを貫いた。
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魂が震えた。
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この感動は言葉にならない。
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それから、ぼくは自分の世界を
少しずつ開いていくことができた。
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少しづつ変わっていった。
人に明るく話しかけるようになっていった。
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ぼくはどんどん
いい人になろうとした。
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でも今度は病気が
襲ってきた。
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あるときは
希望に満ち溢れた気分になるけど、
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あるときは
希望なんてどこにもない
という気分に襲われる。
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もう勉強や生活どころではなかった。
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そして、孤独感もますます大きくなっていった。
誰かにつきっきりで自分のことを見ていてほしかった。
ずっと自分の話を聞いてくれる人が欲しかった。
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ぼくは、
勉強に、努力に、一人暮らしに、
疲れ果てていた。
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そしてぼくは、
精神病院に入院した。
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なにもないあの部屋で
『なにもしないこと』を
久々にした。
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朝起きて、
運ばれてくるご飯を食べて、
ずっと横たわり、
トイレして、
夜が来て、
眠りにつく。
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不安になれば、
看護師さんがやってきて
話を聞いてくれる。
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ある人は
そんな生活は嫌だ
というかもしれない。
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でも当時のぼくには
とても最高の時間だった。
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この穏やかな時間の中で、
壊れたぼくの心は、
今までにないくらいの規模の
再構築が行われていた。
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ただ自分が存在しているだけの
この時間がすごくありがたかった。
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不安なときは、
すぐに看護師さんを呼んで、
話を聞いてもらった。
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「ぼくなんて、いなくなったほうがいいんです」
「自分が自分でわからないんです・・・」
「なんか、怒られているように感じる」
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そんな話を延々と聞いてもらった。
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看護師さん達はとてもやさしく接してくれた。
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次第に、世界はそんなに怖くないことが腑に落ちていった。
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疲れたら、気が済むまで寝た。
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あるとき、
ぼくはぼくが死ぬ夢を見た。
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それをお医者さんに話すと、
心配してくれた。
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でもぼくには、
この夢がなにか新しい自分に生まれ変わる
予兆に思えた。
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その頃ぼくは
『もやもや』と敵対するより、
『もやもや』を友人として
迎え入れるようになっていった。
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すると、『もやもや』は
次第に消えていった。
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退院した後、
自分の中に何か温かいもの、
光を発しているものに
気付いた。
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それは
今までのぼくにはない
『安らぎ』だった。
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『もやもや』は
悪い奴じゃなかった。
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ぼくを苦しめていたのは
ぼく自身が作り出した
妄想だった。
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『もやもや』は
そのことを
教えてくれていたのだ。
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多くの人の中にも、
この『もやもや』が
あるように思う。
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『もやもや』を受け入れられない、
心の余裕のなさが、
多くの依存症を作り出している。
『もやもや』を忘れるために
多くの中毒がある。
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恋愛、ゲーム、仕事、薬物、アルコール・・・
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その努力は絶望を生み出す。
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しかしその絶望は、
絶望から抜けだそうとする意思も
同時に生み出す。
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今、ぼくは、
『もやもや』は
自分の人生と向き合うチャンスなのだ
と思える。
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もし『もやもや』に
苦しんでいる人がいたら、
ぼくはその人のなかに
可能性を見る。
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それは
たんぽぽの種
みたいだ。
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見た目は全然、
これから花を咲かせる
ようには見えない。
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でもそれが土の中に置かれ
水や太陽の力を借りれば
芽を出し、やがては花が咲くことを
みんな知っている。
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同じようにぼくは
苦しんでいる人が、
いろんな縁と結びついて、
そこから気づきを得て
やがて幸せになることを
知っている。
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苦しみが
幸せの種
なんだ。
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人との出会いという光と、
休息という水を得て
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ぼくという
土のなかに根付いた
『もやもや』という種は、
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今ではかけがいのない
『安らぎ』となった。
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この『安らぎ』は、
人に褒めれるものではない。
自慢できるものでもない。
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でもぼくにとっては
高価なパソコンを手に入れたことより
人から賞賛されたことより
いい大学に合格したより、
入りたい企業に入ったことより
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この安らぎに満ちた心が大切に思える。
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ぼくは一生恋愛できない
かもしれない
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みんなが羨むような成功は
できないかもしれない
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将来、事故に合って
障害を持つかもしれない
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詐欺の被害にあって
生活が立ち行かなくなる
かもしれない
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明日、隕石が衝突して
死んでしまうかもしれない
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死んだら結局は
無になるのかもしれない
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でもそれはそれでいいんだって
今は肯定できる。
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ぼくはぼくが
今ここにいていいんだって
認められる。
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太陽は東から登り、西に沈む
昼が来て、夜が来る
空は青い、雲は白い
柳は緑、花は紅
カラスは「かあかあ」、雀は「ちゅんちゅん」
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そんな当たり前のことに
感謝できる。
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この世界に生まれてきて
よかったって思える
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自分が全然特別じゃない
ありきたりな存在だ
ということに満足だ。
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この『安らぎ』を手に入れてから
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プログラミングをしてみたり
観葉植物を育ててみたり
料理をしてみたり
読書会に参加してみたり
イベントを開いてみたり
いろんな活動が
できるようになった。
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たぶん、
いろんなものを
入れられる
心の余裕ができた
からだと思う。
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生きるのが
楽しくなった。
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きっと無理に
何かになろうとする気持ちが
なくなったのだと思う。
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だってぼくは
最初からぼくだし、
ほかの者にはなれない。
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この『安らぎ』も、
あの『もやもや』も
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そんな当たり前のことに
気づかせてくれるための
神様からのプレゼントだったのだ。
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そう考えると
なんか気持ちいい。
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四半世紀以上生きてみて
伝えたいことが
できてきた。
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言葉にすると
たぶんとても陳腐で
ありきたりだけど
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まぎれもない
ぼくの本心なんだ。
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ぼくが
生まれた世界へ
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ありがとう。