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「蜷川実花 瞬く光の庭」展へ

東京庭園美術館で開催されている「蜷川実花 瞬く光の庭」展を鑑賞しました。美しい建築空間に、2021年から2022年にかけて国内で撮影された写真作品が展示されています。

光にあふれた色 “光彩色(こうさいしょく)” の世界。
四季をめぐり、蝶のまなざしを実感できる貴重な追体験でした。かんたんにご紹介したいと思います。

美術館について

会場は東京・白金の東京都庭園美術館。
朝香宮邸として1933年に建てられた建物を、そのまま美術館として公開したものです。国の迎賓館として使われてきた歴史があり、ヨーロッパの装飾美術がほどこされています。建物自体が美術品といえますね。

東京都庭園美術館全景

アール・デコ様式で装飾された当館の建築に、蜷川の作品を重ねることで、様々な時間の交差する場を出現させるものです。植物から植物へと、あたかも蝶のように回遊しながら、蜷川のまなざしを追体験できる貴重な機会となります。

展覧会パンフレットより抜粋

庭園美術館という唯一無二の建築空間と、蜷川さんによる作品との競演。
実際に鑑賞できるなんて、なんとも夢のようです。

展覧会の特徴

美術館に入ると、美しい室内装飾や写真の数々に目を奪われます。
一部の写真は撮影OKでした。周囲に緑も多く、光がさしこみ、自由な雰囲気でリラックスできます。

鑑賞していると、ふとあることに気づきます。
展示作品(写真)に、キャプション(説明文)が付されていないのです。

室内装飾や庭園の借景とともに蜷川の写真作品を鑑賞することによる展覧会自体を、いわば蜷川の作品としていることから、個々の写真には作品キャプションは付していません。

展覧会ガイドより抜粋

キャプションなしでのアート鑑賞。
今までは絵を見て、キャプションを読んでもう一度絵を見るというルーティンがあったのですが、あっさりくつがえされました。

ここにあるのは、美術館という展示空間を含めて、全体を「芸術作品」として体験するこころみなのです。

大広間
まるでもともと展示されているかのごとし

展示「瞬く光の庭」

2021年から翌2022年の春までの一年を、写真でたどることができます。
梅の開花に始まり、桜、藤の花、ネモフィラ、コスモス、コキア、ポピー、チューリップなどの写真が時系列に展示されています。

大客室
さしこむ光もカーテン自体も、作品世界の一部

光あふれる写真を見ていると、窓から差し込む光もあいまって、だんだん夢かうつつかわからなくなる感じでした。

大食堂の藤の花

個人的には蝶というよりも、風を切る鳥になれると比喩する方がしっくり来ます。
まるで花から花へ飛び立つ、鳥になった気分。

手前がボケたり、奥がボケたり、全体的にボケたり。
どこにも焦点があたっていない写真も展示されています。

まるで風が吹いて、花々が揺れて焦点があたらなかったかのような鳥の目線でした。もしくはいそぎ飛び立つ鳥の目線。
本当に今ここで、風が吹いた錯覚でした。

テレビ画面でのスライドショー

展示された写真の数々が、スライドショーで画面に映し出されていました。
北の間で、座ったまま鑑賞できます。

北の間

遠くから俯瞰する風景写真から、花々のガクに接近した写真。
画角全てにピントがあった写真から、まったく焦点のあたっていない写真まで。

鳥のように時空を超えられる体験。
ここでもまた、光あふれる世界の表現に圧倒されるのです。

映像作品《胡蝶のめぐる季節》

映像作品を歩いて体験

幻想的な花の写真が、画面につぎつぎと映しだされます。
まるで写真の世界に入り込んだかのような錯覚。まるで公園のように、あちこちから歓声がきこえました。
自分のペースで歩いてめぐることができ、とても楽しい気持ちになれます。

まとめ

夢かうつつか、わからなくなる貴重なひとときでした。
たった二時間で四季をめぐり、光あふれる世界を行き来し、過去から未来まで思いをめぐらし、あたかも蝶になったまなざしを疑似体験できる展覧会です。

文字からの情報(キャプション)がまったく無いからこそ、作品世界から直接インスピレーションを受けることができます。
五感を研ぎ澄ますことができる、稀有な経験でした。

胡蝶の夢から戻った人々が、現実と虚構の間を漂うだけではなく、その後どのように歩むのか。人々に広がる多様な未来の可能性に寄り添い、結びつくことも作品の重要な鑑賞体験です。

展示会に寄せて 宮田裕章氏のテキストより引用

展覧会を見終わった後に私たちはいかにふるまうか、示唆してくれる展覧会は初めてでした。その親切さは本当にありがたいです。私たちの未来に寄りそってくれる写真作品との出会いに、ただただ感謝ですね。

そしてあらためて、自然の中へ出かけたくなります。
実際に今回の展示作品は、誰でも行ける身近な公園で撮影されたものばかり。その身近さと、際だった写真の美しさに驚くのです。

身近な木々や花々を眺めると、豊かな自然に包み込まれる至福のひとときになるかもしれません。

来年の桜を見るときには、また新しい見方ができると思うと今から楽しみです。これからも自然の美しさ、はかなさに思いをはせることができますように。


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