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Mark Guiliana - BEAT MUSIC! BEAT MUSIC! BEAT MUSIC!:Disc Review without Preparation
マーク・ジュリアナ『BEAT MUSIC! BEAT MUSIC! BEAT MUSIC!』
デヴィッド・ボウイ『★』やブラッド・メルドーとのユニットのメリアーナでも知られる現代ジャズを代表する奇才ドラマー マーク・ジュリアの新譜が素晴らしい。
彼自身のドラミングの変化とサウンドの進化が生演奏にできることの可能性をいろいろ示唆している。電子的なのに肉体的、でもしなやかで滑らか。マーク・ジュリアナがこれまで発表してきた音楽の中でも異質だ。
マーク・ジュリアナはここ数年、アコースティックのジャズ・カルテットに力を注いできた。わかりやすく言えば、サックス、ピアノ、ウッドベース、ドラムの4人のバンドのためにコードやハーモニーにも重点を置いた曲を書き、その曲がきちんと響きあいながら、スウィングするように、ドラムを演奏してきた。ブラッド・メルドーやマーク・ターナーやカート・ローゼンウィンケル、ブライアン・ブレイドらが作り上げてきたようなコンテンポラリージャズの文脈に正面から取り組み、高い評価を獲得してきた。
そうやって、アコースティックのジャズのバンドに特化した演奏と作曲を続けていくうちに、彼自身がやりたいことや表現したいことが薄っすら変わってきていて、それに伴いドラミングも変化してるのは感じていた。その変化はデヴィッド・ボウイ『★』に参加していた時点で既に見えていたけど、彼がエレクトロニックなサウンドを作る際に使う名義の「ビート・ミュージック」でもそれが出てくるようになったということは、その変化は彼の中の幹の部分の大きな変化なのかもしれない。
それにより、初期の彼の代名詞だったテクノやドラムンベースなどの打ち込みを模したようなマシーン的なドラミングと音色があまり聴かれなくなった一方で、ビートミュージック名義でのバンドのシンセなどによるエレクトロニックなサウンドとマークのドラミングがより密に混じり合うようになり、エレクトロニックな一つの有機体みたいな新しい感覚を纏っている。メルドーとのメリアーナとも全く違うけど、もしかしたらあのプロジェクトはマークにヒントを与えたのかもしれない。
メリアーナでは自身の周りを取り囲むようにシンセをたくさん並べて、それらを両手でとっかえひっかえ弾き倒しながら、どんどん音を重ねていくブラッド・メルドーのハーモニーの感覚から得たヒントが、アコースティックのジャズカルテットでの活動の中で身につけた生楽器のアンサンブルの感覚と融合し、それがビートミュージックに搭載されると、みたいなものが聴こえるのがこのアルバムなのかもしれない。それは一見地味だが、すげー面白いチャレンジであり、大きな進歩だ。
また特筆すべきは今回もレゲエのリズムを取り入れてること。NYのアンダーグラウンド・ダブ・シーンの奇才ステュ・ブルックスとのコラボによるものだが、ジャズの流動性とレゲエのリズムがここまで噛み合ってる音源はなかなかない。ちなみにマークの息子の名前はマーリー。マークはもともとレゲエが大好きで、ボブ・マーリーのカヴァーをしてみたり、即興演奏の中にもレゲエのリズムを取り入れてきた稀有なジャズドラマーだ。
例えば、以下の動画を見ると、エレクトロニックミュージックを生演奏に置き換えて即興演奏をする感覚に、レゲエ要素を加え、トリップホップ・ジャムのようなサウンドになっている。ロックっぽさはマッシブ・アタック的なトリップホップ、タイトなドラムや打ち込みのビート感はモアロッカーズ~スミス&マイティ的なドラムンベース/ジャングルなど、ブリストルを思い起こさせたりもするが、レゲエ独特の空間性やスペースを維持しつつも、その中でいかに動くか、いかに変化を出しつつ、レゲエ特有のルーズなグルーヴを維持するか、というエッジーな方向性は明らかにアメリカ、しかもNYのサウンドだ。この2012年のセッションはかなりチャレンジングなセッションだと思うし、2019年の本作はそれをかなり洗練させていて、マークが目指したものの完成形に近い気もして、確信を感じさせる。空間性を活かしつつの即興という意味では『★』もそんなマークのレゲエ的な素養が有効だったゆえの成功だったのかもしれない。
そんなレゲエのサウンドとジャズ、そしてエレクトロニックな要素の融合を可能にしてるのがダニー・マッキャスリン『Blow.』、ジェイソン・リンドナーのNow vs Now『The Buffering Cocoon』も担当してるエンジニアのスティーヴ・ウォールの存在。ダブ感ある音像を作りだし、生演奏の生々しさをギリギリ残しつつもいい塩梅のふわふわゆらゆらさに仕上げて、このアルバムを特別なものにしている。
ここではレゲエシンガーのマティスヤフのツアーバンドのメンバーでもあり、そこの同僚のステュ・ブルックスとも親しいBIGYUKIもいい仕事してて、ジャズとダブとエレクトロニックミュージックが混じり合うNYのアンダーグラウンドなレゲエ・コミュニティの面白さが活きている。ジェイソン・リンドナーがメロディカ吹いてるのとか含めて、オーガスタス・パブロを意識してるのはわかるが、この辺のジャズミュージシャンってそこまでレゲエやるんだってところも含めていろいろ面白い。
このマーク・ジュリアナというあまりに特殊なドラマーはまだまだ進化しつつ、同時に成熟もしていて、ますます目が離せないと改めて思わせてくれたアルバムだった。
(2019/04/13)
マーク・ジュリアの新譜が素晴らしい。
— 柳樂光隆 《Jazz The New Chapter》 (@Elis_ragiNa) April 13, 2019
彼のドラミングの変化とサウンドの進化が生演奏にできることの可能性をいろいろ示唆してる。
電子的なのに肉体的、でもしなやかで滑らか
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