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映画 創る苦悩とよろこび、ルックバックを観ての感想

※ネタバレ有

学級新聞に載せてもらった漫画を褒めてもらって、漫画を描く楽しみを見出す藤野 ところが引きこもりの同級生、京本も学級新聞に漫画を掲載することになり、京本の圧倒的な絵の上手さに藤野はライバル心を燃やしていく

”絵が上手くなりたい”

その一心で2年間、藤野はくる日もくる日もスケッチブックにデッサンを重ね、絵を描き続けた
ここの描写、本当にリアルでめちゃ分かる…
藤野は自分よりも絵が上手い人がうらやましくて仕方ないし、くやしいし、絵を描く人ってどんなに絵が上達したとしても、絵が上手くなりたい、もっと上手く表現できるようになりたいって一生思い続けるんだよ

絵を描くっていうのはその人にとっての自己表現なんだ 自分の頭の中で描いた空想の世界を、絵を通じて具現化する手段なんだ
ただ、そのアウトプットする解像度が高くないと、何を言っているのか、相手に伝わらないという弊害がある
だから絵を描いている最中も、もっといい表現があるはずだって、そう思えてもどかしいんだ もっと上手に自分の気持ちを表現したいってずっと模索し続けているんだよ

自分の通っている水彩画教室の先生も言っていたし、ブルーピリオドや東村アキコの自伝でも語られていたが、絵を上達させるには、とにかく”量を描く”しかないのだ すごく地道で、地味で、映えない作業 こんなもんでいいでしょ、って妥協しそうになる自分との戦い 絵を2、3枚気晴らしに描くのは楽しいけど、楽しむ以上に描かないと絵は上手くならない

友達と遊ぶのも断って、勉強もしないで、がむしゃらに絵を描き続ける藤野 極端な表現だなと思われるかもしれないが、本当に漫画描きはリアルにこんな感じなのだ それだけ絵を描くのに全労力を注ぎ込んでいる 絵が上手くなりたい、それだけ

そんな藤野が6年生になったある日、学級新聞の漫画を見て、藤野は漫画を描くのをぱたりとやめた
なぜ描くのをやめてしまったのか、考えられる理由は2つある

①どんなに頑張って描いても京本の画力には届かない、と悟ってしまったから

②京本のレベルと同じ位絵が描けるようになったと実感したから

多分、①かな、って気がするので、そちらで解説してみよう
6年生の藤野が余暇の時間をフルに使って、どんなに絵を描いても、京本の画力を超えられない、そう悟ってしまったのではないか
それならあれだけ描いたスケッチブックを捨ててしまった理由も頷ける もう無理だ、京本は超えられない、諦めて、友達と遊んで、家族と憩いのひとときを過ごそう、漫画を描くのに使っていた時間を取り戻そう、と思ったのだろう
藤野は割とさっぱりした性格っぽそうだから、思い切りが良かったのかもね

卒業式の日、先生に頼まれて、藤野は卒業証書を京本の家まで届ける
部屋の前に落ちていた4コマ漫画の紙を手に取り、サササと漫画を描く藤野
手が滑って京本の部屋に入り込んでしまい、京本が部屋から出てくる そして今世紀最大のSSRコメントが京本から放たれる

”藤野先生の大ファンです”

ぐおおおおおおおおおめちゃくちゃうれしい〜〜〜〜〜〜!!!!
めっちゃ気持ち分かる、pixivとかTwitterで投稿した絵に”ずっとファンです、素敵です✨”ってコメントもらった時、嬉しすぎて2-3日はにやにやが止まんないもんな 10分に一回はコメント読み返して浸っちゃうもんな 

しかもライバル視していた京本が自分の大ファンです!という神展開 自分より絵が上手い絵師に認められるって、ほんとに絵描き冥利に尽きる… そらスキップしてルンルンで帰るわ

自分の絵を評価してくれるのって、本当に絵師にとっては命の水なんや、砂漠のオアシスなんよ みんな、推しの作家さんは推せる時に推そう!

このひとことで息を吹き返した藤野は、調子に乗って雑誌の漫画大賞に応募を考えてる、と大ボラを吹いてしまう この時藤野が機転を回し京本と組んで漫画描こう、と下心があったかどうかは定かではないが、藤野と京本の漫画人生、運命の歯車は回り始めた

この短編漫画を描く様子も泣ける…分かる…
わしも40ページくらいの読み切り描いたことあるけど、ほんとにみんな想像してるよりめっちゃ大変なんよ わしはまる1ヶ月はかかりきりで描いた(学校も仕事もしていないフリーの期間でも、素人独りではそのくらいかかった)
中学生が学校行きながら描くなら、1年掛かってもおかしくは無いと思う

紙そこら辺にばら置きしながら、こっちのページ描いたりあっちのページ修正したりするんだよ、分かる…描いてる途中でもっといい案がぽろって出てくることもあるし、逆に”あれ?この表現ってつまんなくね?症候群”に陥ってしまう時もあるし…手塚治虫は雑誌に投稿した後も内容が気に食わないって言って単行本版は修正しちゃったりしてた時もあったらしいし…

普段は鉛筆でデッサンや漫画描いてた二人も、雑誌の賞に応募ということで、つけペンとインクを買ってきて原稿用紙に緊張しながらペン入れしてるシーンがあったりして、ああそうそう、ペン入れ慣れないと難しいんだよなあ、滲むし、ペン先が紙に引っかかって綺麗な線が描けなかったりするよね…って懐かしくなった 今はみんな電子漫画でデジタル化しててアナログ漫画描く人も少ないからの…みんなワコムの液タブや…

賞の結果発表の日、ドキドキしながら雑誌をめくる手、自分たちの名前が載ってるよろこび!
その日からふたりで楽しく漫画を描くふたり
手を握って田んぼのあぜ道を駆け抜けていく、でも次第にその手が離れて行ってしまう

連載を抱えたふたりだったが、京本は美術大学へ進学したい、と言って漫画を描くのをやめてしまう この京本の気もちもすごくよく分かる…もともと京本は小学生の頃から写実的な絵が得意だったし、漫画よりももっと写実的な絵を追求したい、もっと本格的に絵の勉強をしたいという思いに変わっていったんだと思う

藤野は独りで漫画を描き続け、売上もジリジリ上がっていった この前髪ヘアクリップで止めて漫画描いてるシーンの解像度まじでたけ〜 そうそう、下向きながら絵描くから、前髪垂れてきて邪魔なんだよな〜

そして事件は起こった
京本の通う美術大学に凶器を持った男が乱入し、京本は死んでしまう
この凶器男の解像度も高い…自分の絵をパクられたから腹いせに犯行に及んだっていうの
ネットで絵を公開してると、全然知らない人から突然”あなたの絵は私の絵のパクリです!取り消してください!”とか言ってくる輩が結構いるんだよね…絵描き界隈はこわいね…

京本の家に行く藤野 雑誌の途中に、あの日京本に描いた4コマ漫画が挟まっている
京本の家に卒業証書置きに行ったあの日、なんで4コマ漫画なんか描いちゃったんだろう、わたしが描かなければ京本は死ぬこともなかったのに…と自責の念に苛まれる藤野

でもこれって藤野のエゴだしある意味傲慢だよね、京本の人生の責任は全て自分にあるだなんて 京本が絵を描くことを志したのは京本自身の意志だし、美術大学へ行きたいって言い出したのも京本なんだから

その後時間の針が戻り、京本が藤野と巡り合わないIfの世界で時間が進む 最後京本が美術大学で凶器男と鉢合わせた際、危機一髪で藤野が空手で京本の命を救う 京本が最後描いた4コマ漫画が藤野の手元に届く その漫画を読んで、救われる藤野

京本の最後の4コマ漫画はIfの世界から飛び出したものだったのだろうか? 京本が美術大学の在学中に、藤野への罪滅ぼしで描いた漫画を窓に貼っていたのではないだろうか その1枚が剥がれて、ひらっと藤野の手元へ飛んできた、と予想する

京本も藤野との漫画に明け暮れた日々を忘れてはいない もしかしたら大学を卒業して、また藤野と一緒に漫画を描くことを夢見ていたのかもしれない






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