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年金と後期高齢者医療制度は、最も貧しい世代への所得移転から、最も豊かな世代への所得移転になった
年金制度も後期高齢者への優遇も、当初は高齢世代が貧しく、その世代を救済するための制度だった。
1945年の終戦の時、45歳だった壮年層は、1973年には73歳になる。
この世代は、終戦の時に不動産を含めた財産をすべて失った人が少なからずいたはずで、それゆえに貧しかった。こうした世代を助けるために年金・社会保障制度を充実させていったのは意味のあることに思える。
戦争で財産を失ったが、戦後の復興に尽力した世代に報いようとするのは、非常に納得できる。
しかし、現代の後期高齢者は村上春樹だ。
村上春樹は1949年生まれで、今年75歳になる。
ちなみに村上龍は今年72歳だ。
つまりこの世代は戦後に生まれ、経済成長の恩恵を受けた。
さらに言えば、終身雇用の恩恵を受け、それを維持するために就職氷河期世代が犠牲になった。
つまり、最も経済成長の恩恵を受け、資産形成の機会に恵まれた世代なのだ。
実際に、世代別の資産を見ると次のようになる。
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50代と60代で大きく資産が異なっているのがわかるだろう。
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単身世帯も同様だ。
また持ち家率は
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2018年の60歳以上世代は、持ち家率の低下を経験していないが、それより下の世代では持ち家率が低下している。
つまり、不動産保有率も氷河期世代以降は低下している傾向がある。
こうした状況を踏まえると、年金制度と高齢者優遇の医療制度は、1973年と比べて異なった意味合いを持っている。
1973年には、戦後の混乱で資産形成の機会に恵まれなかった高齢世代を支援するという、貧しい世代を助けるという意義があった。
2024年には、高度経済成長の恵みを受け、最も資産形成の機会に恵まれた世代を、それよりも貧しく、就職の機会が限られ、より重い税負担と社会保障費負担に苦しむ世代が支援している、という構造が生まれた。
言い換えよう。
1973年には貧しい高齢世代を支援していた。
2024年には、他の世代より金融・不動産資産を多く保有する世代が他の世代から富を集積している。
別に、格差を縮小するための仕組みが時代と共に格差を拡大する仕組みになるのは珍しい話ではない。
フランスではENAという官僚を養成する大学があり、給与が出る。
もともとは貧しいが優秀な子供を官僚として国家の役に立てるべく王が学校を設立したからだ。
しかし時代と共に官僚制は世襲に近い構造となり(このシステムについて、ピエール・ブルデューは「国家貴族」の中で解説している)、つまりお金持ちの息子や娘が官僚になるための学校に入学し、給料を得ながら学び、より貧しい人々は別の大学で学費を払いながら学ぶ、というふうに、格差縮小のために作られた制度が、格差拡大の構造に変質してしまった。
ちなみに言えば学費無償化も同様の問題を持っている。
貧しい家族は子供の学費も生活費も支払うことが難しいから、教育費が無償でも高校や大学に通わせることが難しい可能性が、お金持ちの世代よりは高い。
そのため、教育無償化の恩恵を受けられる確率は、豊かな世帯の方が高くなってしまう。
制度が変化していなくても、制度の意義が変質してしまうことについて、理解できただろう。
この制度によって利益を得ている人は、意義の変質について理解するのは難しい。
制度によって損害を受けている人は、この意味の変化を理解しやすい。
理解したら、これはおかしい、と声を上げていく必要があるんだ。あらゆるチャンネルで。