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アーユルヴェーダでの水の飲み方を徹底解説
最近の水飲みムーブメント
最近は水をたくさん飲むことが奨励されているようですが
アーユルヴェーダの理論は最近のムーブメントとは違っています。
水を飲むことは健康や美容に欠かせない習慣ですし、
熱中症や脳梗塞、心筋梗塞などのリスクを減らすことができます。
それも大切な考え方ではありますが
アーユルヴェーダの文献には体質、季節、状態に合わせた水の飲み方が書かれています。
アーユルヴェーダは漢方と似ている部分や共通している部分があります。
漢方医学や自然療法に基づいた診療を行う内科医である石原結實医師は
漢方用語の「水毒」、水分の摂りすぎが病気をつくることに警鐘を鳴らす、水分の正しい摂り方についての本が出版されています。
基本的には喉が乾いたら水を飲みなさいというのはアーユルヴェーダと共通する部分があります。
過去に実際、水の飲み過ぎで亡くなられた事例が発表されています。
健康な人の水中毒による死亡のほとんどは健康のためだと思い込み大量の水を飲もうとしたり、大量の水を飲ませる水療法で水中毒が原因だったりしました。
水中毒、水分過剰は体内の電解質のバランスを乱し、限度を超えると低ナトリウム血症となり、嘔吐、頭痛、発作、昏睡などの症状を引き起こします。
人の体内の適切なナトリウム濃度が大量の水を飲むことで変わってしまうということです。
水中毒で亡くなった方たちの事例として
2020年3月11日、11歳の少年ザカリー・セイビンは、両親にわずか4時間で約3リットルの水を飲まされた後、死亡。
両親は彼の尿が濃すぎると考え、彼が吐くまで水を飲ませたとの記載があり、他にアンディー.ウォーホルやブルース・リーなどの事例があります。
詳しく読みたい方は下記のリンク
誰でもが健康のために水をなるべくたくさん飲みましょうという概念ができあがりつつある世の中なのに漢方やアーユルヴェーダでは喉が乾いたら飲めというのでは混乱してしまうでしょうから
具体的にアーユルヴェーダの水の考え方で水の飲み方について解説していきます。
個人の体質による適切な水分摂取のルール
アーユルヴェーダでは個人の体質によって適切な水分摂取の量やルールがあります。
通常時の基本の水の飲み方
いつ水を飲み、いつ水を飲むべきではないか
アーユルヴェーダでは喉の渇き、空腹、睡眠、くしゃみ、排尿、排便は自然な欲求と呼ばれています。
ヴァグバタはアシュタンガ フリダヤ スートラターナ4/22で
「自然な欲求がある時にそれに応じず、欲求がない時にそれを起こさせると病気につながる」と説いています。
喉が渇いた時は水を飲むべきですが、喉が渇いてない時に水を飲むべきではないということです。
水は体を潤すだけでなく冷却作用もあり、喉が渇いていないのに水を飲みすぎると消化と代謝のアンバランスから消化不良を引き起こしアーマ(未消化物)を作るもととなります。
大量に水を飲むと、ヴァータとカパを増やしピッタと消化力を減らします。
脳にはブドウ糖が必要だからといって常にブドウ糖を摂る必要がないのと同じです。
水の過剰摂取はアグニを弱めるだけでなく、ダハトゥー(体組織)も弱めてしまいます。
しかし、尿路結石、腎臓結石、心筋症、腎障害等の病気の場合は多量に水分が必要になり、
上記は通常、健康で特に問題がない人に当てはまります。
アーユルヴェーダの三大古典で述べられている水の飲み方
チャラカ・サンヒター、アシュタンガフリダヤには水の飲み方が述べられていて
スシュルタ・サンヒターには水の性質や効果、病気との関連などが記述されています。
水は適量を慎重に摂取する必要がある。
チャラカ・サンヒター、スートラ・スターナにその詳細があります。
適量の水は体の機能を正常に保ち、消化を助ける。
適量を超えると、蜜のように作用したり、毒のように作用したする
この意味は消化力が高い人は多めの水を摂取しても問題が起きにくいが、消化力が低い人は少量の水でも消化不良を起こす場合があるという意味です。
例外として
喉がまったく渇かないのはピッタドーシャの枯渇の兆候とされています。
生姜、黒こしょう、クミン、フェンネル、アサフェティダなどのスパイスを適量摂取することで喉の渇きを微調整するのに役立ちます。
水を飲むタイミング
・起床時、口腔内の清掃後にドーシャに合わせた白湯を飲む
・食事中、少量ずつ飲むことで消化を助ける
・喉が渇いた時
・食前食後は消化の邪魔になるのですぐに飲まず、30分から1時間空けけてから飲む
・就寝直前に大量の水を飲むと睡眠の質を下げる
便秘を改善したい場合
便秘を改善するためには大量の水を飲む、ウシャパ二チキッツァの方法もありますが
アグニ(消化の火)が弱い場合はアーユルヴェーダでは他の方法があります。
就寝前にレーズンをコップ一杯の水に浸しておきます。
翌朝、レーズンを水ごと噛み砕いて摂取します。
アロエベラを空腹時に大さじ1-2杯摂取します。
アロエベラは下剤効果があるので消化器疾患、妊娠中、授乳中の方は医師に相談してください。
体重を減らすために大量の水を飲むことも、やはりアグニが弱い場合は有効ではありません。
白湯にレモンを入れて飲むことは体重を減らすことに役立ちます。
ドーシャ別の水の飲み方や量
ヴァータ(風のエネルギー)
ヴァータ体質の人は、体が乾燥しやすく、冷えやすい傾向があります。
そのため温かい白湯をこまめに飲むことが推奨されます。
一度に大量の水を飲むよりも、少量ずつ頻繁に飲む方が適しています。
食事中に温かい飲み物を摂ることで、消化を助け、体の冷えを防ぐことができます。
目安量:1日あたり800ml~1000ml
ピッタ(火のエネルギー)
ピッタ体質の人は、体が熱を持ちやすく、のどが渇きやすい傾向があります。
そのため、常温の水を飲むことが推奨されます。
冷たすぎる飲み物は消化力を弱める可能性があるため、注意が必要です。
特に暑い時期や運動後には、こまめに水分補給をすることが大切です。
目安量:1日あたり1000ml~1500ml
カパ(水のエネルギー)
カパ体質の人は、体が水分を溜め込みやすく、むくみやすい傾向があります。
そのため、飲みすぎには注意が必要です。
温かい白湯を少量ずつ飲むことが推奨されます。
特に、朝起きた時や、食間に温かい飲み物を摂ることで体の代謝を高めることができます。
目安量:1日あたり600ml~800ml
冷水とは
アーユルヴェーダでは氷を入れてキンキンに冷やした水はアグニを弱めアーマを作りやすくするため、勧められませんが例外もあります。
しかし冷水といっても現代のようなキンキンに冷えた水ではありません。
アーユルヴェーダの古典が生まれた時代には現代のような冷えた水はありませんでした。
古典で言う冷水とは常温や冷ました白湯のことです。
冷水を飲んでいい場合
ピッタの増加した状態、喉の渇き、失神、夏季、灼熱感、毒物やアルコール摂取患者、アルコール中毒、血液疾患、めまい、衰弱、疲労、喘息、嘔吐、喀血、鼻血、これらすべての状態の患者は冷たい水を飲むべきです。
ピッタと血液が悪化した状態、ピッタとカパが悪化した状態、発熱、下痢、3つのドーシャが悪化した状態、食欲不振、結核、そして目の病気の場合、沸騰させてから冷ました水が勧められます。
ピッタが悪化した状態では冷たい水が勧められます
熱いお湯はピッタや血液の悪化した病気には禁忌です。
冷水摂取の禁忌
くしゃみ、熱いお湯、ヴァータ病、咽頭炎、ガス膨張、重い腹部、パンチャカルマ治療を受けている患者、発熱、しゃっくり、パンチャカルマの前処置として油またはギーを摂取した患者、これらすべての患者には冷水は禁忌ですから白湯を飲みます。
胸痛、カパが顕著な喘息、膿瘍、ヴァータ病、便秘、発熱などの症状がある場合、
カパ、ヴァータ、脂肪、アーマ(未消化の食物)を減らし、消化を促します。
消化の火を点火し、膀胱を浄化し、消化を良くします。
鼻炎、咽頭炎、咳、しゃっくり、ガス膨張、喘息、筋肉のけいれんを減らします。
ヴィレチャナのようなパンチャカルマ浄化を受ける患者には、温水が推奨されます。
温水は、消化不良、咽頭炎、しゃっくり、発熱、ヴァータ・カパ病、喘息、咳、鼻炎、消化不良、またヴィレチャナ後にも適応します。
温水は本来、尿を浄化する作用があります。
夜に熱いお湯を飲むと、カパとヴァータの病気を克服できます。
熱いお湯は食べ物の消化に役立ちます
基本的な水の飲み方以外では
・白湯にして飲むー アーマ(未消化物・毒素)を排出させる方法
番外編としては
・早朝の水飲み療法ウシャパ二チキッツァ
・鼻から飲む水療法 ナサ ジャラ パナがあります。
アーユルヴェーダの三大古典 チャラカ・サンヒター、スシュルタ・サンヒター、アシュタンガ・フリダヤには朝起きてすぐに白湯と水どちらかを先に飲むべきであると書かれていませんが、ディナチャリヤ(日課)としては白湯を飲むことが書かれています。
白湯については別記事で詳しく書いていますのでそちらを参考にしてください
早朝の水飲み療法について
ウシャパ二チキッツァの利点
アーユルヴェーダではウシャパ二チキッツァという特定の症状を持つ人のための早朝の水治療というものがあります。
このウシャパ二チキッツァは消化の火アグニを下げる(低くする、弱くする)必要のある人に適用されます。
ウシャパア二チキッツァはアーユルヴェーダでは治療概念から派生したものです。
ウシャパア二チキッツァは万人にとって利点があるということではありません。
ウシャパ二チキッツァとは
ウシャは夜明け、早朝、日の出前、パ二は水を飲むこと、チキッツァ治療、療法という意味です。
アーユルヴェーダの古典には人が起きるのに理想的な時間について書かれていています。
ブラフミ ムフルテ ウッティシュテ 日の出前の早朝 日の出の1時間半前であると言います。)古典が書かれたのはインドですから、多少、地域によってズレ、異なりはあります。
ウシャパ二チキッツァはこのブラフミ・ムフルタの間、日の出前に水を飲むことです。
ウシャパ二チキッツァの利点
二チキッツァでは以下の利点があると書かれています。
主にピッタ体質の不調からおきる症状や不調に利点があります。
・痔、腫れ、赤痢、発熱、皮膚疾患、泌尿器疾患、出血疾患、耳、喉、頭の疾患、首の痛み、目の疾患などの改善、体内毒素の排出、代謝の改善、腸の蠕動運動を促し便秘を改善するなどです。
ウシャパ二チキッツァは白湯のみのルールとは違って、舌苔をとったり歯磨きをする前に行います。
唾液が少ない早朝の口腔内には細菌があり、どれも腸内細菌叢のひとつであるため、水を飲むことで細菌を体内に送り込むことは腸内細菌叢(人の腸内にいる様々な細菌)にとって良いことであるというひとつの考え方のようです。
ウシャパ二チキッツァの量
毎日日の出の時間に 8 杯の「プラシュリティ」(両手を合わせて作った深いカップ)の水を飲むという記述がありますが、これは約640mlであると言われています。
ウシャパ二が書かれている文献
ウシャパ二はバーヴァプラカーシャという文献に書かれています。
バーヴァプラカーシャはアーユルヴェーダの三大古典アシュタンガフリダヤ、チャラカサンヒター、スシュルタサンヒタよりも後で書かれた文献で内科に関する情報を提供していてチャラカやスシュルタに基づいていますが、新しい薬草や治療法も追加しています。
ウシャパ二のパニはサンスクリット語ではなくヒンディー語であることで更に後に書かれたことが明確です。
チャラカサンヒターには消化器系に関する章でウシャパ二に関連する記述があり、スシュルタサンヒターでは外科手術後についてウシャパ二に関連する記述があります。
しかしこの三大古典の中には白湯を飲むことは書かれていますがウシャパ二はディナチャリア(日課、一日の理想的な過ごし方)で行う行動のひとつであるとは書かれていません。
ディナチャリアとは
・日の出の約1時間半前に起床する。
・排尿、排便、洗顔、舌苔をとり、歯磨き、うがい、鼻洗浄をして体内に溜まった不要物を排出する
・白湯を飲む
・顔、耳、足をアビヤンガ(オイルマッサージする)
・軽い運動
・シャワーや入浴
・消化に良い温かい朝食を摂る
・日中の活動
・自分のアグニに合った昼食をしっかり摂る
・消化に良い軽く睡眠の邪魔をしない夕食を摂る
アーユルヴェーダの三大学者の中のヴァグバタはアシュタンガフリダヤやアシュタンガサングラハを体系的に整理した自分の著書の中で
健康な生活を送るためにはブラフミムフルタの時間に起きること、口腔内の清掃をすることや口腔衛生の重要性、舌の役割について説明しています。
ウシャパ二はチキッツアでディナチャリアではない理由
ウシャパ二がディナチャリヤとして推奨されてこなかったのは
喉の渇きを感じていないのに習慣として早朝に水を飲むことは
喉が渇いた時にのみ、水を飲むというアーユルヴェーダの原則に反していると考えているようです。
アーユルヴェーダ医師の所見
アーユルヴェーダの医師はピッタ体質でピッタの未消化物が溜まっている場合はチキッツァ(療法、治療)としてウシャパ二が有効になると言います。
消化の火アグニを下げる(低くする、弱くする)必要のある人の症状として
熱性、鋭性、油性の性質として体内に炎症や発熱がおこり、酸化したり、胸焼けをする、精神的にはイライラや怒りっぽさ、暑い環境や日光への過剰な露出、アルコールの過剰摂取、辛いもの酸っぱいものの食べ過ぎで増えたアーマ(未消化物)がある場合
鼻から水を飲む水療法 ナサジャラパ二
鼻から水を飲むことで、消化器系を刺激し、消化機能の促進。
頭部の活性化や神経系の調整。
アーユルヴェーダの治療法「ナスヤ」の一種として、特定の疾患の治療や予防に用いられる。
Nasa Jala Panaナサジャラパ二は、鼻孔を通して水を飲むことです。
「NASA」という言葉は鼻を意味し、「ジャラ」は水を意味し、「パ二」は飲むことを意味します。
利点
鼻孔を通して水を飲むことは視力を改善すると言われています
鼻孔を通して水を飲むと、しわを防ぐと言われています
鼻孔を通して水を飲むと、白髪を防ぐと言われています
鼻孔を通して水を飲むことは病気を予防すると言われています
鼻腔を通して水を飲むことで、消化器系を刺激し、消化機能の促進をすると言われています
手順
・仰向けになり、鼻周りから額、顔全体、首両ワキを軽くマッサージします
・ジャラ ネティを実践して鼻腔内を清掃します
・ジャラネティとは塩とぬるま湯を入れて混ぜたものをネティポットに入れ、片鼻ずつ鼻腔を洗浄する方法
・250mlの水を用意します。
・鼻から水を飲むというより手のひらやコップから水を吸い込みます。
口ではなく鼻から約 250 ml の水を飲むことができれば、口腔内を通過せず喉に水が注がれることになります。
ナサジャラパ二が書かれている古典では
バーヴァ プラカーシャ プールヴァカンダ 5章317節(16世紀にバーヴァミシュラによって書かれ、新たに薬草や病気の概念を導入した新しい古典)では次のように記されています。
鼻から水を飲む人は、夜の闇が去った直後に
聡明な知性と鋭い視力を得る。髪が灰色や白にならず、あらゆる病気にかからない。冬季には、ウシャパ二で使われる水は、鼻や喉の刺激を避けるためにぬるま湯に保たれる。
鼻から水を摂取するプラシュリティが推奨されている。
ヴァリ(しわ)、パリタ(白髪)、ピナサ(鼻炎)、スワラバンガ(声のかすれ)、カサ(咳)、ショタ(浮腫)の予防にも役立ち、ラサーヤナとして機能し、視力を改善する。
ネティクリヤはハタヨガの古典
ネティ クリヤ(鼻腔内の洗浄)のひとつジャラネティ(塩水で鼻腔内を洗浄する浄化法)はアーユルヴェーダの古典ではなく、ハタヨガの古典、19世紀に遡るGheranda Samhitaゲランダ サンヒターでシャットカルマ(浄化法)で言及されています。
浄化という意味ではアーユルヴェーダと共通する部分もありますが、それぞれの理論での違いもあります。
アーユルヴェーダでは様々なハーブやオイルを使うナスヤカルマで最初にジャラネティをすることもあります。
ナサジャラパーナの禁忌
スネハを飲んだ人、パンチャカルマを受けた人、怪我、アドゥマナ(腹部膨張)、マンダグニ、しゃっくり、カパ、ヴァータ のドーシャが悪化している人や病気に苦しんでいる人。
ナサジャラパーナ以外の選択肢
ナサジャラパーナが苦痛または現況に合致していないならばアーユルヴェーダではナスヤ(薬用オイルやハーブの抽出物)と白湯の組み合わせを選択することができます。
Dhoomapana 鼻孔からの薬用の煙の吸入(鼻孔からの薬用の煙の吸入)もナスヤの療法のひとつです。
アーユルヴェーダで一番大切なこと
アーユルヴェーダで一番大切にされていることは消化です。
ですので基本的に消化の火アグニが適切に働くことでドーシャのバランスをとり健康が保たれるということを真っ先に学ぶわけです。
アーユルヴェーダは基本的にアグニ(消化の火)を一番に重要視していて、適切なアグニが働くことにより病気にならず健康で生きていけるという理論ですから
水を飲む前にアグニの妨げとなる舌苔に含まれるアーマを取り除き口腔内を清掃すべきであると考えています。
代謝は胃に入る冷たいものを温める能力がありますが、熱いものを冷やすプロセスはありません。
人間が生きている以上、健康を維持するため死ぬまでいつも消化、代謝の火アグニが働いています。
このことから、アーユルヴェーダの三大古典ではディナチャリアで消化の火アグニを適切に維持するための方法のひとつとして水の飲み方や白湯を推奨することが記されているのです。