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石川県立図書館

私は図書館はそんなに好きじゃない。

というか好きじゃなかった。今は、特に感情がない・・。多分、子供の頃は、本が友達という環境では全くなかった。友達がいなかったとしても本も無かったと思う。そして、学校の図書室も市内の図書館もあまりいたい場所ではなかった。あのじめっとした雰囲気と古書の匂いと閉鎖空間がそもそも好きではなかった。でも、本屋さんは別に嫌いじゃないから最低限必要なものは本屋で立ち読みをしていたと思う。

まあ、それは良いのだが、最近、特に地方にいろんな図書館ができている。
写真で見るに、インフルエンサーの餌食にされてしまっているような、キラキラした図書館が多いと思っていた。行ってみたいような行きたくないような気がしていた。

金沢に来て、少し時間があるので「鈴木大拙」という方について予習をしようと思っていた。この「禅」の第一人者のことは、私がよくみている読書系yutuberの方が以前、本を紹介していたので名前と著作は知っていた。そして、結構昔に知人に「21世紀美術館に行くんだったら鈴木大拙館に行った方が良いよ」と謎なことを言われたこともある。しかし、いきなり大拙さん家(住んでたわけじゃないけど)に行ってもどうにかなる気がしない。。

というわけで、周辺の図書館を調べてみたら、出てくるんですよ、こちらが・・・

いや・・ちょっとキラキラすぎないか?観光地化してそう・・土曜日とか大丈夫か?本はたくさんあるけど実際上の方のは飾りでしょ…。もはや、私のもじもじ病(よく野良猫で、目が合うと近づきたいのと(ご飯くれるかも?)離れたい(人間こわい)のが同時になっちゃってフリーズしてるネコいませんか?あれです)が炸裂する場所じゃないか・・永遠に行かない理由を探し続けられる。しかしねえ・・・。
インフルエンサーの来る場所じゃんと勝手に思って行かないのもそれはそれで完全思考停止なんじゃないか・・と思い直し・・。

外観

 微妙に遠い、金沢駅から5km地点ですね。まあ、私の中では21世紀美術館くらいまでは徒歩圏内なのですが、さらに先になります。今回バスに乗って行きましたが、ここで降りたのは2、3人でしたね。
 雪だったのもあって、外観はそんなに派手じゃない。壁にしっかり返却ポストも付いている。しかしねえ・・・。

外観とのギャップがすごい。外観だと四角い建物っぽいんですが、中が完全にドームなのですよ。予想以上にドーム。。円形劇場の真ん中の劇場無いみたいな感じ。ぐるっとすり鉢状になっている。壁の案内図には西とか東とか書いてあるのですが、その記載は、方向音痴の人には本当にやめてほしい記載なのだが、なんと円形の真ん中に絨毯が敷かれていて、方位磁針が書いてある・・。山登り??? さらに上を見ると「西」とか「東」の垂れ幕が吊り下がってる。

それでも、結構よく見るキラキラ図書館が目の前にある印象は変わらないのだけれど、それは実際歩き回ってみると諸々払拭された。ざっと良いなと思ったところを記しておこう。

 結果として、この図書館とにかく「本」に全振りしている。ま、図書館だからそうですよね・・なんだけど。もっと言えば、本に関連する動作とか行動も含めてこのドーム内では本に関係することだけになろうと思えばなれるということなんですけど、関係ない事をしてても「本」が目に入るという…。。多くの図書館は勉強とか閲覧場所が一つにまとまっているけれど、この図書館はいたる所にある。すり鉢状に本棚と一緒に席も色んな列にぐるっと配置されていて電源完備のところも多いし、通路にしれっとあったりする。どこにいても眺めが良い(本だけなのに)。もちろんよくある大きな机に何人か座るスペースも奥の方にあるけどこちらは、外の景色がしっかり見える。(これ、結構重要で、私は体育館に6時間から12時間くらい缶詰で練習するようなスポーツの出身者なのだが、上部の窓のカーテンを開けていて空が見えるのと見えないのではかなり心持ちが違う。)ポツンと1人用のスペースも点在していて、窓にだけ向かい合っていて、こちらは外しか見えない。他人もいない。「本」との向き合い方、勉強の仕方、過ごし方含めてかなりのパターンが選べる感じだ。共通なのは、どう過ごそうが「本」が目に入る。山の中でスマホを見たとしても、木とか森とかみないわけにはいかないでしょう。そんな感じかな。ちなみに、本が置いてある場所を出ると講演ができる多目的なスペース(なぜかここもすり鉢状の古代ギリシアみたいな階段状の空間)があり、カフェやABCクッキング的なみんなで調理使用できるスペースもある。しかし、これらは全部、本が置いていない場所にある。借りてなければ持ち出しは多分できない。完全に区切られているのである。

机から見た外

そして、諸々本を探そうとこの段々を上がったり、戻ったりしたわけだが、ちょっとした、というかかなり私にとってはポイント高いと思ったのは、

全部の本に手が届く。

実はこれが可能な本屋や図書館を私はほとんど知らない。(私が知らないだけで今のスタンダード??もしかして…。)だったら申し訳ない。。だいたい踏み台や脚立が置いてあるか店員を呼び止めるかするわけだ。まあ、狭いスペースにたくさんの本を置こうとしたら上に伸びるか積むしかない。
ちなみに私の身長は、小学校高学年の男女の平均身長くらいしかない。6年生なら大抵抜かれている。なのでそれくらいの子供でも全く問題がないということだ。(中1で130cmなかった私だと微妙だけれど。)もはや大学の書庫ではめんどいので脚立の上で論文探すのが、定位置だったし、そのまま座って読む脚立読書派だった。なんかもう、本屋とかもそういうところだと思っている節があるし、身長の高い人にとっえは、そうなの?くらいな話だとは思うけれど
…。
そして、それを図書数を最大にしつつ実現するためにこのすり鉢状の、階段とスロープだらけの場所になったのかなと思った(もちろんエスカレーターもエレベーターの数も多い)。建築とか全く詳しくないから誰かに聞いてみたいけど、これって、昔、子供がめちゃくちゃ多かった時代の小学校がその人数に対応すべく円形になっているのと同じ理屈なのだろうか??
もちろんバリアフリーはものすごく考えられている。しかし、とにかく移動が多い。横移動と微妙な縦移動と階段を引き換えに、なるべくたくさんの人に本に手が届くようになっているわけだ。 
そして、この構造って全体を俯瞰した時の印象とは違って、実際目に入ってくる本の情報量は視界に対して少ない。よく考えてみると一度に視界で処理できる知らない情報ってこれくらいが限界ではと思う。だから、平置きとか頭の上まで5段くらいある本棚に囲まれても、結局読み飛ばしならぬ、通り過ぎ率が上がってしまう。
 という感じで、実際に本を選んだり、読み始めたりして過ごしてみると、このすり鉢配置の本棚が意外に良い効能がある。そして、本の内容もかなりランダムに配置されている。もちろん専門書とかはまとまっているけれど、よく書店であるような何階は人文系で、その一角は全部ビジネス系とかの括りの範囲が、意外ときっちりしていなくて、突然万葉集特集とかがある隣に働き方2.0とかの本があったりする。新旧の本のバランスが偏ってないとも言えるのかな。だから、あのジメジメ感がない。そして元の本棚に返しに行くにも、その数段の階段やら、スロープやらを歩くわけで、トイレに行くにもなんか廊下みたいなところにも沢山本が置かれているわけでそこにも縦穴みたいに読むスペースがあって・・。この、ちょっとした登山は言い過ぎだけど、横縦移動的な運動が、なかなか良いのです。そこで、ちょっと思い出すと、本に直接関係していないスペースを外に置いているという設計なのですが…。これさ、むしろ、本を読みに来て(私の場合は鈴木大拙の本を探しに来た)、本以外で気分転換するという手を封じているんじゃないの?と思い直す。この広さと複雑な構造と微妙な運動量があると本を選ぶ、読む、見るという動作だけで(あと少しの窓の外)充分定期的に気分転換できてしまう。同じようなところで高く積み上がった手に取れもしない本棚を眺めているのとはやっぱり違う。始めはこの圧倒的な本の量に呆然とするんだけど、なんというか、中に入ったらむしろ自由に散策出来る。この運動量って山登りしながら食べ歩き的な開放感に近いのではと思ったりする。蜂になった感ともいえる。

この右下の奥が講義できる場所とかフリースペース

というわけで「ここ1日いられるな・・・」というのがど真ん中の感想です。

 なんかもう、鈴木大拙さんの本を諸々探して読んで、ちょっと違うの見てしてたらあっという間に2時間たってしまい・・でも建物も全部見たいってなったら全然時間足りない。専門書がどれくらい豊富なのかとかそういうところは自分の専門を検索したりしないと実感として分からないのでその辺まではいけなかった。あとは、どれくらい本が循環しているかも気になるところではある。

 しかしねえ・・。土曜なのに全く混んでなかった。これでもこの地域にしては混んでるのかなあ?隣が大学なのもあって若い人は結構いたと思う。
 これは、やっぱり、この金沢駅から5kmという立地だからできるのかな。東京の都心にこれがあってもすぐに人で埋め尽くされそうな予感しかない。そして、課金制度か時間制限になる未来しか見えない。。。

 そして、一つだけ唯一最大の欠点は、バスかな。。。。駅からは終点なので分かりやすいけど、図書館発は15時台からは1時間1本になり17時を逃すと次20時とかです。あとは地元のカード?か現金のみの260円という非常に微妙なお金を要求されます。しかもお釣り形式じゃなくてバスの中で両替して入れなくちゃいけない超旧式の・・・・。金沢駅徒歩5kmなので雪じゃなければ歩けるといえば歩けるし、美術館まで行けばいろんなバスが通っているとは思うけれど。頑張って歩くか小銭を持っていきましょうというのが注意点ですね。

しかし、ほんと行って良かった。図書館の構造について考えるとか今まで全くなかったので…。せいぜいリクエストしたらすぐ来るとか返却期間がどうとか、まあ、良くて駅から直結くらいの理想しか持ってない自分を反省しました・・。

というわけで、最後に

言葉は思想を反映するけれども、経験した感情そのものを伝えることはできない。禅の体験をしたことのないものに禅の理解をさせることは不可能である。「甘い」蜜を口にしたことのない者にその甘さを知らせることができないのと同じである。その人にとっては「甘い」蜜は永久に全く感覚を伴わない観念にとどまるであろう。彼らにとってその言葉は何も生命を持たないということである。 ー 鈴木大拙 ー

鈴木大拙「禅」


 その通りでした。この図書館が「キラキラ図書館」という観念上のもの(しかも自分が勝手につくりあげたもの)にならなくて良かった。

*注:文章中の私が学生時代にやってた脚立読書は、真似してはいけません(誰もいないと思うけど)。実は1m前後くらいの脚立からの落下が脊椎損傷率高いんです。。という意味でも素晴らしいですね、この図書館は・・・ということを付け加えさせてもらいます。







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