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■ 其の324 ■ 一冊の本11月号 ≪5≫

📘朝日新聞出版の「一冊の本」11月号からの抜粋、今日でラスト5回目です。

📕女性を話題にした話から3つ。 
❶「吉原面番所手控よしわらめんばんしょてびかえ」の著者 戸田義永さんの文章より

 ところで、近年「吉原は江戸文化の発信地だった」「花魁おいらんは江戸のファッションリーダー」等の肯定的な評価が散見されます。そうした面があったことも確かでしょうが、遊女たちにとってはやはり苦界以外の何物でもなかったはずで、過大評価は禁物ではないかと愚考します。

〔P7より〕


❷源氏物語について、文芸評論家の尾崎真理子さんの文章より

 実際、『源氏』には、五千百二十二回も「心」と付く語が頻出し、同時期の他の作品と比べて圧倒的な多さだという。物語の展開に沿って派生していくおびただしい内面の諸相を、三百種以上もの心の語を繊細に選び取り、その結果、〈筆で石を刻むが如く〉、人との別れ、人の死を印象深く描写し、〈あたかも物理学のように〉、人の心を対立させて物語を展開し、不朽の文学を完成させた紫式部。

〔P11より〕


❸グリーフケアについて、宗教学者の島薗進さんの文章より

  柳田國男は、近年になって日本人はあまり泣かなくなったと書いている。悲しみを表現するのがへたになったというのだ。
 こんな例が引かれている。「二十歳の夏、友人と二人で、渥美半島の和地わじの大山へ登ろうとして、麓の村の民家で草鞋わらじをはきかえて居たら、婆さんが一人、近くによって来て色々の事を尋ねる。何処の者だ、飯は食ったかだの、親は有るかだのとって居るうちに、わしの孫もおまへさんのやうな息子であった、東京へ行って死んでしまったといふかと思ふと、びっくりする様な声を揚げて、真正面で泣きだした。あの皺だらけの顔だけは、永遠に消え去らない」 柳田は1890年代に、若い自分たちを見て亡くなった自分の孫のことを思い出し、若者たちに自らの深い悲嘆を隠しもしなかったこのお婆さんに強い敬意を持ってこの文章を書いている。

〔P38より〕


┄┄女性が哀しんでいる姿を見るのは切ないです。それならむしろ逆に、文句を
  言ったり悪口を言っている元気そうな姿の方が安心します。

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