川上未映子【夏物語】|唯ならぬ読書体験
ふらりといつもの癖で京都の大垣書店に入った。
映画書籍の棚を目指して文庫本の書棚を通り過ぎようとしたとき、川上未映子の【夏物語】の分厚い背表紙が見えた。
川上未映子は、【乳と卵】が話題だった頃、大阪梅田の阪神近くにあるブックファーストで【先端で、さすわ さされるわ そらええわ】のサイン本を買ったことと、【みみずくは黄昏に飛びたつ】での村上春樹との対談がとても美味しかった記憶がある。
■【夏物語】の1ページ目
手にとった【夏物語】は、1ページ目から引き込まれた。
貧乏と窓の数の話。
あるいは窓がない。
光が差さない。
閉ざされている。
その時から、その窓の少ない部屋から、私の途方もない読書体験が始まってしまったのだ。
■紹介せずにおれない本
『映の会』は、映画の画面を愛でる会だ。
なので、そもそもは映画だけを取り扱うつもりだった。
しかし、小説も、漫画も、音楽も、ゲームも、途方もない体験をさせてくれる唯ならぬ作品は、垣根を越えて取り扱うべきだと思ったし、誰かに話したいという欲求もあいまったのだ。
■川上未映子 著【夏物語】は、心から、震える。
子どもが欲しくて、でも性交渉はいやで、精子提供での妊娠を考え、女としての肉体を使い切ろうとする30代女性・夏子が主役の物語で、普遍的な、生み、生まれる、生きる、死ぬ、日常、生活、なにもかもが、主人公の周囲の人物たちとの泣き笑いと共に語られる。
■読書は体験
とはいえ、こんな説明はなんの役にもたたない。
内容などではなく、読書はやはり体験なんだと、知った。
読み手も、読みながら、張り詰めたり、ホッとしたり、ずっしりしてたり、バカみたいだったりする。
最後の章に至りながら、私自身のこれまでの人生の記憶が次々に甦る経験をした。
そして、自分の軸のようなものが、炙り出された。
読む前と後では景色が違う。
ところで、一部の終盤と二部の始まりの安堵感のようなものは、まるで優れた映画の飛び感のようだ。
また、最後への流れの気持ちよさは格別だった。
どれくらいかというと、The Beatles【アビーロード】のB面くらい気持ちよかった。
■ナタリー・ポートマンも愛読
女優のナタリー・ポートマンも大好きらしく、作者との対談ダイジェストがあったので、参考まで貼っておきます。
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