細胞機能を制御する、カルシウムイオンの働きとは?
最近、細胞内の二次メッセンジャーとして「カルシウム(Ca)」について勉強することがありました。「カルシウム」といえば、原子番号20のアルカリ土類金属の一種。骨やはを形成することで知られています。「カルシウムイオン(Ca2+)」の形になると細胞内シグナル伝達を担う二次メッセンジャー(セカンドメッセンジャー)として働き、様々な細胞機能の制御に関与していることが知られています。
この「カルシウムイオン」の動きは蛍光でイメージング測定できるようになり、細胞内のカルシウム濃度の複雑な時間的・空間的な動きがわかるようになってきたようです。
今回はこの「カルシウムイオン」の生体内での働きについてかなり基礎的な内容を少しまとめておきます。大学の授業レベルなのですが、教授の専門によってやったりやらなかったり、深掘りしたり浅く済ませたりするんですよね。研究を進めていきながら勉強することも多いのです...
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◇ カルシウムイオンの働きは日本人が最初に提唱した
細胞内でのカルシウムイオンの働きの歴史を少し振り返ってみます。1950年後半から江橋節郎が細胞内のカルシウムイオンが骨格筋収縮を制御しているという機構を提唱しました。1965年にカルシウムに結合するタンパク質であるトロポニンを発見しました、カルシウム依存性のシグナル伝達の存在を証明。(江橋先生がカルシウムの働きを提唱するまでの物語はこちら)
1970年、垣内史郎とWai Yiu Cheungによって「カルモジュリン」が発見されて「カルシウムイオン」が筋収縮だけではなく様々な細胞機能(シナプス可塑性など)を制御することがわかってきました。
Roger Y Tsienによって「カルシウム指示薬」が開発され、細胞内のカルシウム濃度を生きたままの細胞を使って蛍光イメージングできるようになり、爆発的にカルシウムの細胞機能制御の研究が進みました。
◇ 細胞内のカルシウムイオンを調製する機構
静止期の細胞質カルシウム濃度は数十nMに保たれています。細胞外のカルシウムイオン濃度は数mMなので、細胞内のカルシウム濃度は非常に低い濃度(1万倍くらい違う)で保たれていることがわかります。このカルシウムの濃度を制御しているのは、細胞膜・小胞体膜の上に存在するカルシウムポンプ。
カルシウムイオンはカルシウムイオンチャネル介して細胞質にカルシウムイオンが供給されることにより、細胞質カルシウム濃度が上昇し、カルシウム結合タンパク質を介して様々な細胞内シグナルが活性化されます。
細胞質のカルシウム濃度が上昇するのは2種類の流入が考えられます。
1. 細胞外からの流入
2. 小胞体からの放出
1. 細胞外からの流入
カルシウムイオンに対して透過性をもつイオンチャネルを介して、大きな電気化学的勾配に従ってカルシウムイオンが細胞外から流入する。
脳神経の分野では下のチャネルが代表的です。
・ 電気依存性カルシウムイオンチャネル
膜電位に依存して開閉するカルシウムイオンチャネル。細胞膜が脱分極すると開口してカルシウムイオンが流入する。
・リガンド依存性カルシウムイオチャネル
神経細胞やグリア細胞においては、イオンチャネル型グルタミン酸受容体、特にNMDA型グルタミン酸受容体が有名。カルシウムイオンの流入を介してシナプス可塑性に関わっている。
・その他
感覚需要に関与するTRPチャネルもカルシウムイオンの透過性を示すことが知られています。
小胞体のカルシウムイオンが枯渇すると活性化するストア作動性カルシウムイオンチャネルも流入を担っている。(Orai1とSTIM1という分子が同定されている)
2. 小胞体からの放出
小胞体は細胞内のカルシウム貯蔵庫として機能しています。小胞体膜上のカルシウムイオンポンプにより小胞体内のカルシウムイオン濃度は高く保たれている。小胞体からのカルシウムイオンの放出は、細胞質へのカルシウムイオン供給経路であるとともに、細胞外からの流入と密接な相互作用を示すことが知られています。
リアノジン受容体
細胞質カルシウムイオンにより開口が促進されるカルシウムイオンチャネル。カルシウム誘発性カルシウム放出(ポジティブフィードバック機構)と言われる現象に関与しています。
イノシトール3リン酸受容体
活性化されるとセカンドメッセンジャーであるイノシトール3リン酸と細胞質カルシウムの両方を必要とする小胞体膜上に存在するカルシウムイオンチャネル。細胞質のカルシウム濃度が低いと開口し、ある濃度域以上になると開口が阻害される。
小胞体以外にもミトコンドリアが細胞内カルシウムを貯蔵する重要な役割を果たしています。小胞体とミトコンドリアは密接な接合構造があることが知られており、ここでカルシウムイオンのやりとりが行われていると考えられています。
カルシウムイオンという身近でめちゃくちゃ小さい分子が、細胞の様々な働きを担っているのは驚きですよね。しかもその働きを最初に提唱し始めたのは日本人だったなんて...
次回はノーベル賞をとったRoger Y. Tsienによって開発されたカルシウム指示薬についてもう少し深掘りしてみようと思います。
それでは、また!
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