科学者の「見たい!」を実現させた、カルシウムインジケーターの開発
前回は私たちの身体の中で二次メッセンジャーとして働く「カルシウムイオン」について、基礎の「キ」をまとめました。今回はその「カルシウムイオン」を観察するための指示薬(カルシウムインジケーター)について勉強してみようと思います。
「カルシウムイオン」は大事なのはわかっているけど、それを見てみたい!という研究者の強い思いによって開発された、カルシウムインジケーター。どんなものがあるのか早速みてみましょう。
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◇ カルシウムインジケーターはノーベル賞受賞者によって開発が始められた
カルシウムインジケーターは、主に化学合成された蛍光物質で細胞内のカルシウムイオン濃度を測定するために用いられる試薬。カルシウムインジケーターは細胞内のカルシウムイオンと結合するとその蛍光特性(蛍光の強度や波長)が変化するので、蛍光測光することによって細胞内のカルシウム濃度を測定したり、イメージングによって可視化することができる。
カルシウムインジケーターは2008年にノーベル化学賞を受賞したアメリカの生化学者Roger Y. Tsienらによってカルシウムキレート剤であるEGTA及びその誘導体BAPTAをもとに開発された。(Tsienは「GFPの発見と開発」でノーベル賞を受賞)初期のインジケーターquin-2はEGTAをもとに、現在よく使われているfura-2、indo-1、fluo-3などはBAPTAをもとに開発され、それぞれ蛍光特性が異なる。アセトキシメチル(AM)エステル化することで細胞膜を透過して細胞内に入れることが可能になった。
◇ カルシウムインジケーターの種類分け
カルシウムインジケーターはカルシウムと結合するカルシウムキレート部分と、蛍光を発する部分からなっている。カルシウムがカルシウムキレート部分に結合することにより分子内の電子配置が変化する。蛍光を発する部分の励起光を吸収する効率(吸光係数)や蛍光を発する効率(量子効率)の影響を受けて、蛍光特性が変化する。
現在主流となっているカルシウムインジケーターは2つのタイプに分けられる。
①カルシウムイオンの結合により励起光または蛍光波長がシフトする(fura-2, indo-1など)
二波長で測定して蛍光の比を撮ることでカルシウム指示薬の濃度の違いや細胞の厚みによる影響をキャンセルできるので精度の高い測定が可能。
fura-2の場合
fura2はカルシウムイオンと結合すると励起波長のピークがブルーシフトする。(362 nm→335 nm)
335 nm付近で励起した場合、細胞内のカルシウムイオン濃度の上昇に伴い、蛍光強度が増大する。370〜380 nm付近で励起した時には蛍光強度が減少する
② カルシウムイオンの結合により励起光や蛍光波長がシフトしない(fluo-3, rhod-2など)
カルシウムの結合で波長が変化しないので、極大励起波長で励起して極大蛍光波長で測定し、蛍光強度の変化から相対的なカルシウム濃度の変化情報を得ます。
①の二波長測定に比べて測定が簡単ですが、カルシウム指示薬の濃度の違いや、細胞の厚みの違いによる影響を強く受けるため測定の精度は落ちてしまう。この影響を覗くために、他の基準となる色素を同時に細胞に導入して蛍光の比を取って補正する。
fura-2やfluo-3は緑の蛍光を発しますが、rhod-2は赤色の蛍光を発する。また、カルシウムの結合定数はfura-2は224 nM、fluo-3は400 nMとカルシウムイオンに強く結合するのに対して、rhod-2は700 nMとカルシウムイオンとの結合親和性が低い。1 μMを超える比較的高濃度のカルシウム濃度測定に向いています。(現在fluo-3を改良したfluo-4が主に使われている。488 nmの蛍光励起が増大したので共焦点顕微鏡やフローサイトメトリーでの解析も可能になった。)
◇ インジケーターを細胞内に入れるためのAMエステル化
カルシウムインジケーターそのものは普通細胞膜を透過しないので、細胞に投与しても細胞内に取り込まれません。アセトキシメチル(AM)エステル化することで細胞膜透過を可能にする手法が開発されました。
AMエステル化されたカルシウムインジケーターはキレート部分がエステル化されているので、カルシウムイオンと結合できません。細胞内に取り込まれると、細胞がもつエステラー是によってアセトキシメチル基が加水分解され、本来のカルシウムインジケーターとして細胞内で機能できるようになります。加水分解されたカルシウムインジケーターは細胞内に留まるので細胞内の濃度は100 μM以上にもなると考えられます。
AMエステル化したインジケーターは様々な細胞膜を透過できるので、小胞体やミトコンドリアなどの細胞小器官のイオン濃度も測定できるようになる。細胞質内のカルシウムインジケーターと区別するため、細胞膜に穴を開けて細胞質のカルシウムインジケーターを洗い流すなどの処理が必要となる。
現在はより、開発が進んでいて細胞小器官特異的に蛍光を発する仕組みをつけたカルシウムインジケーターも出てきているようです。科学者の「見たい!」という探究心は新しい技術開発をどんどん後押しするんですね。
それでは、また!
参考にしたページ
二次メッセンジャーとしてのカルシウムイオンについて
大学では