1970年代テイスト満載の痛快な犯罪映画 『密輸 1970』
■あらすじ
1970年代半ばの、韓国西岸の小さな漁村クンチョン。かつては海女漁で栄えたが、今は近くにできた大きな工場の廃液で海が汚染され、豊かだった漁場は腐り果ててしまった。海女たちも商売あがったりだ。
そんな海女たちの窮状に目をつけ、密輸品のブローカーが声をかけてくる。密輸品の海底からの引き上げを、海女に手伝ってほしいというのだ。
背に腹はかえられぬとこの申し出を受けた海女たちは、巨額の報酬に大喜び。だが何度目かの仕事の最中に税関の検査に引っかかり、船長は事故死、海女たちも逮捕されてしまった。
海女たちのリーダーだったジンスクは、親友の海女チュンジャが逮捕されず消えたことから、彼女が仲間を裏切り密告したのだと考える。
それから2年。チュンジャが新たな密輸仕事の仲間を探すため、クンチョンに戻ってくる。出所していたジンスクは仕事もなく困窮を極める仲間たちを見捨てられず、この仕事を引き受けるのだが……。
■感想・レビュー
1970年代の香りがたっぷり詰め込まれた、涙あり、笑いあり、アクションありの、手に汗握る痛快な犯罪アクション映画。高度経済成長の韓国が抱えていた社会のひずみを背景に、男の暴力に支配されていた女たちが団結して反旗を翻す物語だ。
音楽がいい。劇中には当時の韓国の歌謡曲をちりばめて、時代色を出しているようだ。僕は韓国歌謡曲についてはまったく素人だが、それでも楽曲のサウンド設計はこの当時の日本の歌謡曲やディスコ音楽と似ているので、映画を観ながら時代色をたっぷりと味わうことができた。
どんな映画もその作品が作られた「今」を描くものだが、この映画については1970年代の半ばでないと物語が成立しない部分がある。
まず、女性たちが社会的に低い立場に置かれていたという現実がある。女たちが我慢に我慢を重ねた末に、愚かなくせに横暴で何かあれば暴力に頼る男たちに反抗するのだ。同じ話を現代に持ってこようとすると、この部分がうまく行かなくなると思う。
また物語の主要モチーフになっている「密輸」も、当時の韓国では貿易が自由化されていなかったという背景がある。日本製品のように輸入が禁じられているものもあったが、その他の製品も輸入時に高い関税をかけていた。だからこの映画に出てくる密輸品の多くは、今となってはすべて合法なものばかり。物語を現代に移して麻薬や違法な製品取引にしてしまうと、話はまったく違ってくると思う。
発展する都市部と、開発から取り残され貧しいままであるばかりか、逆に貧しくなっていく地方という対比については、ひょっとすると現在進行形の問題なのかもしれない。しかしこれは、国が大きく発展する時代に社会問題化したことだと思う。
シンプルな物語の器に映画の面白い要素をたっぷり詰め込んだ、2時間9分の具だくさん大盛り海鮮丼みたいな映画。今年観た映画の中でも、かなりの上位に入ること間違いなしの快作なのだ。
(原題:밀수)
KADOKAWAシネマ有楽町にて
配給:KADOKAWA、KADOKAWA Kプラス
2023年|2時間9分|韓国|カラー|シネマスコープ|5.1ch
公式HP:https://mitsuyu1970.jp/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt28106766/
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?