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BOOK REVIEW 『怪奇幻想映画ガイドブック』筋金入りの読書人が幻想小説好きの視点でまとめた、映画ファンの価値観をひっくり返す映画ガイド
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本書は今まで語られてきたジャンル映画としての「怪奇幻想映画」の常識を覆すガイド本だ。著者のKazuou氏はツイッターアカウント「奇妙な世界」@kimyounasekai とブログ「奇妙な世界の片隅で」で幻想小説を中心に膨大な数の本を紹介している博覧強記の読書家。これまでも自費出版で『謎の物語ブックガイド』『奇想小説ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』などを発表している。ツイッターでの自己紹介では翻訳もの、短編、怪奇・幻想小説、ファンタスティックなものが好きで、ブログにおいても本書においても、その姿勢は一貫している。
そんな筋金入りの読書家が小説を読むようにガイドする「怪奇幻想」映画群、一筋縄ではないセレクトだ。何しろこのテーマなら鉄板の『エクソシスト』もハマーの『吸血鬼ドラキュラ』も『リング』も触れられることはない。かわりに取り上げられるのはマリオ・バーヴァの『新エクソシスト/死肉のダンス』であり、ゲイリー・ショアの『ドラキュラZERO』であり、高橋洋の『霊的ボリシェヴィキ』なのだ。それぞれの映画に提示されるスペックは制作年度と監督と作られた国名のみ。突出した俳優の名は本文で触れられるが、出演者リストはない。ソフト情報もないが、これらは検索すれば一発でわかるので無問題。
著者は小説だけでなく奇妙な映画・映像にも知識が深く(以前出版した『謎の物語ブックガイド』では『新トワイライトゾーン』の1エピソード「恐怖のメッセージ」や、ブラッド・アンダーソン監督の『リセット』など謎を秘めた映像作品を複数紹介している)、その評価は徹底して映画の描く物語の不思議に向けられる。まえがきには次のように映画の選択基準が記されている。
狭義のホラー映画だけでなく、SF・ファンタジー寄りの作品、幻想味のある煽ラー・サスペンス作品、奇想あふれるアイディア映画など、広い意味での怪奇幻想作品を集めて紹介しています。正直なところ、これが怪奇幻想? という作品もいくつか無理に入れているのですが、とにかく「観ていて面白い」「お話が面白い」映画を多く紹介したつもりです。
例外はありますが、有名な作品よりも、マイナーだけれど面白い、もしくは味がある作品を選ぶようにしています。その結果、英米以外の作品も多くなったように思います。
この物語への目線の強さが本書をそれまでのファンタジー映画本、ホラー映画本の常識を圧倒し、覆していく。その読後感は不思議な感覚を伴うもので、読者は語り尽くされたジャンル映画史から解放された気持ちになる。数多くの怪奇小説、幻想小説を読み込んだ著者が選ぶセンス・オブ・ワンダーに満ちた映画たちが映画プロパーの書き手とは違った形で光を当てられるからだ。
本書は13章の構成になっている。迷宮の物語、血の惨劇、呪われた館、幻想の領域、闇の世界、時間を巡る物語、狂気の物語、異次元の物語、奇想の世界、死者たちの物語、悪夢の情景、怪物たちの物語、オムニバスの楽しみ。それぞれに吟味された映画のストーリーとレビューが入る。スチールは一切なし。しかし数々のブックガイドを書き連ねてきた筆力がストーリー紹介を優れたものにしている。丁寧でネタバレなしのその紹介文では、映画に登場するキャラクターの名前で語られる。未見の映画だと「どんな映画だろう?」と好奇心を刺激される。ブックレビューの達人ゆえの技である。
通して読むと、筆者の琴線に触れた映画を最も多く撮った監督はマリオ・バーヴァであることがわかる。その数9本。例えば「血の惨劇」の章ではバーヴァの『血塗られた墓標』と『血みどろの入江』がピックアップされる。章のくくりからスプラッター映画のジャンル紹介かと思っていると山本迪夫の「血を吸う」3部作が登場し意表を突かれる(スプラッター映画も選出されるが、「ファイナル・ガール」もののようなドラマのパターンが決まっている定番映画は出てこない)。また短編好きと自認しているように最終章のオムニバス紹介が充実しており、映画のみならずビデオ作品『ほんとにあった怖い話』やテレビドラマ・シリーズにも言及している(『フィリップ・K・ディックのエレクトリック・ドリームズ』も登場、脱帽だ)。
このガイドが流石なのは、原作があるものはその本の情報がしっかり紹介されているところにある。さすが主戦場を書評にしている著者の強みだ。本書は映画ファンだけでなく、読書家をも不思議な映画に導く力を持っている。小説を読むように映画を観る楽しみを編んだ一冊だ。
『怪奇幻想映画ガイドブック』は現在、以下の書店でネット購入できる。自費出版ゆえ部数に限りがあるので、興味のある方はお早めに注文することをお勧めする。(書店名をクリックすると該当ページに飛べます)
享楽堂
CAVA BOOKS
領布額は2300円(税込)
(編集部・田野辺)
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