第32話 一般条項(3)ー解除条項ほか
一般条項は自力で書けるでしょうか?
前回、前々回のように考えてみると、「一般条項」といえども、コピペすることなく、どんなものが自分たちの取引に必要なのかを、自分なりに積み上げていくのが正しいと言えなくもありません。
しかし自分で全部書くのは無理です。いくら日本の契約法に精通していても、「履行期の遵守に関する条項(’Time is of the Essence’)」、「完全契約条項(’Entire Agreement’)」などを、全く白紙から思いつくことは不可能です。
その理由は、英文契約書というのは、英国法(もっと広くいえば英米法)の伝統の上に立って書かれてきたものだから(この「基礎からわかる英文契約書」シリーズの第2回の「目次と予備知識」でも簡単に触れました)、大陸法(日本法はこれに属します)の知識だけでは思いつかないことがあっても当然だからです。
だからと言って諦めることはありません。ゼロからは書けないとしても、一般条項の見本を見て、自らの取引の性質、規模、期間、当事者の所在地などにてらして必要なものを選択して使えばよいのです。そのためには専門書の一般条項の例や、よく出来た実際の契約書(実際の契約書の検索方法についてはここをご覧下さい)を参考にするのがよいでしょう。
新時代の一般条項?
実際の契約書を参考にする理由は、専門家や実務に携わっている法務担当者によって作成された契約書から知恵を借りることが出来るということの他に、参考書には取り上げられていない、最新(流行?)で、役に立つ条項に行き当たる機会があるからです。
私が国際取引契約に携わりだした1970年代の契約書には、近頃の契約書によく見られる「賄賂、不正支払いの禁止」に関する条項は存在しませんでした。また、不可抗力事由の1つに「原材料価格、輸送コストの変動」が一般的に入るようになったのは、「石油危機」以降のことです。通知条項には「eメール」が登場してきましたが、逆に「電報」、「テレックス」や「ファックス」は退場しました。
一般条項にはどんなものがありますか?
では、現実にはどんな条項があるのでしょうか? 実例からひろってみました。ごく簡単に意味や目的を書き添えておきます。
Termination:契約解除
相手方当事者に契約違反、資産の差押えといった、何か好ましくないことが起こったら、契約を解除することが出来る、という条項です。
Force Majeure:不可抗力
やむを得ないことで契約が履行できなくなったり、その履行が遅れても、責任を問われないことが書かれます。
Time is of the Essence:履行期の遵守の意義
履行期に遅れると、遅れの期間の長短を問わず、相手方に契約の即時解除権が発生するというものです。ここで ‘time’ は「履行すべき時」、‘essence’ は「重要なこと」を表します。
Indemnification:迷惑をかけない、補償義務
何かについて相手方に迷惑をかけない、もし迷惑がかかったら金銭的に補償するという条項です。
Assignment / No Delegation / Change of Control / Subcontract:契約上の権利・義務の譲渡/移転の禁止/支配権の変更/下請
契約上の権利や義務を相手方の同意なく譲渡、移転、下請できるかどうかを定めるものです。そのようなことは出来ないとするものが多いようです。
支配権の変更とは、株主の交替などによる相手方の根本的な変質をさします。コカ・コーラの子会社と契約していたら、あるときその会社が売却されてペプシ・コーラの子会社になったというのでは、たとい法律的に相手は変わらなくても、契約ごと譲渡されたのと同じ影響がありえます。
Binding Effect / Succession:契約書の拘束力の及ぶ範囲/当事者の承継
契約は当事者をはじめ、その承継者も拘束するという趣旨です。’succession’ は自然人なら「相続」(「相続人」は ’successor’)なのですが、法人などの場合に何がそれにあたるかは、少し難しいところがなくもありません。伝統的にこの条項に「期待されるところ」では、広く株式や資産によって企業を譲り渡すこと、会社の吸収や合併などで法人が交替することなどを含むようですが、その意味ならもっと正確に書くべきだという指摘があります。Assignmentと組み合わせて書かれることもあります。
次回も、もう少し一般条項を見ていきます。