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第6話 契約書特有の表現 'made and entered into'

第5話にお示した契約書を使って、話を進めましょう。

               Sales Agreement
This Sales Agreement (this "Agreement") made and entered into this 1 April 2000 by and between ...

made and entered into というのは、それぞれ make と enter into という動詞(enter は前置詞 into と一緒になって、1つの動詞のように働いています)の過去分詞形です。その前にある This Sales Agreement を後ろから修飾し、いずれも「締結された」という意味です。

どうして同じような言葉を2つ(時にはそれ以上)並べるのでしょうか。いくつかの理由があります。

① 昔は英国の裁判所でも、フランス語が使われていました(書面はラテン語)。ところがそれでは普通の人には、ちんぷんかんぷん。そこでフランス語起源の法律用語ではこれ、地元英国の言葉ではこれ、という風に専門語彙と普通語彙の組み合わせとしたため、同じようなことを2通りにいったのです。上の make とenter into は英+仏。他に act and deed(仏+英。意味は「行為」)、lord and master(英+仏。意味は「主人」)など。漢文と大和言葉といった感じかもしれません。
② だいたい同じような意味ではあるが、全く同じではない言葉を重ねて、慎重を期したという面もあります。「合意事項」を表すのに contracts, agreements, covenants, specialties, undertakings, promises, engagements, stipulations …などと並べ立てた例さえあります。
③ それらしい「業界用語」をちりばめると、いかにも専門家のように見える、と思う法律家の浅はかさもあったでしょう。assign, transfer and set over は「譲渡する」という意味で使われますが、assign 一語で足ります。

☛ それに加えて、その昔、契約書を手書きした代書屋が、1語いくらで給金を受け取ったということがあります。言葉数が多ければ多いほど、収入が増えたのです!

そんなわけで英文契約書には、このような2重、3重の表現がしょっちゅう出てきます。その内の1語だけで十分な場合がほとんどです。ここでは made だけで全く問題ありません。その後に続く by and between も同じことです。

between A, B and C ?

between という言葉が出てきました。学校では対象が2つなら between A and B、3つ以上だったら among A, B and C とする、と習いましたね。 

では契約書で当事者が3人以上いたら by and among と言うのかというと、そうではなく、やはり between でよいということを覚えておいて下さい。
between という言葉は(法律文書に限りませんが)、「1対1」関係を表すときの言葉です。契約では「A 対 B」、「B 対 C」、「C 対 A」の権利・義務関係が問われます。「1対1」が3組あるのです。

では among はというと、個別の関係ではなく全体で何かをするといったときに使います。「ケーキを3人で分ける」といった場合です。合弁契約書で「配当金を持ち株比率に応じて、株主に配当する」といったときには 、契約書でも among を使います。

とはいえ、英米人の法律家の間でもこのことはよく理解されておらず、契約書の出だしに Agreement by and among A, B and C と書かれていることは少なくありません。私はそういうときは<見てみないふり>をすることにしています。実害のないところでは、花より実です。  



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