第6話 契約書特有の表現 'made and entered into'
第5話にお示した契約書を使って、話を進めましょう。
made and entered into というのは、それぞれ make と enter into という動詞(enter は前置詞 into と一緒になって、1つの動詞のように働いています)の過去分詞形です。その前にある This Sales Agreement を後ろから修飾し、いずれも「締結された」という意味です。
どうして同じような言葉を2つ(時にはそれ以上)並べるのでしょうか。いくつかの理由があります。
そんなわけで英文契約書には、このような2重、3重の表現がしょっちゅう出てきます。その内の1語だけで十分な場合がほとんどです。ここでは made だけで全く問題ありません。その後に続く by and between も同じことです。
between A, B and C ?
between という言葉が出てきました。学校では対象が2つなら between A and B、3つ以上だったら among A, B and C とする、と習いましたね。
では契約書で当事者が3人以上いたら by and among と言うのかというと、そうではなく、やはり between でよいということを覚えておいて下さい。
between という言葉は(法律文書に限りませんが)、「1対1」の関係を表すときの言葉です。契約では「A 対 B」、「B 対 C」、「C 対 A」の権利・義務関係が問われます。「1対1」が3組あるのです。
では among はというと、個別の関係ではなく全体で何かをするといったときに使います。「ケーキを3人で分ける」といった場合です。合弁契約書で「配当金を持ち株比率に応じて、株主に配当する」といったときには 、契約書でも among を使います。
とはいえ、英米人の法律家の間でもこのことはよく理解されておらず、契約書の出だしに Agreement by and among A, B and C と書かれていることは少なくありません。私はそういうときは<見てみないふり>をすることにしています。実害のないところでは、花より実です。