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第23話 売買契約書をどう書くか (1) ー売主は何をするか

いよいよ契約書の取引部分、基本的条項に入ります

第2話で国際契約書の中味をざっと紹介しました。日付や当事者の表示、前書きの後に続く本文の最初に出てくるのは、当事者がどんな取引をしようとしているのかです。

前書きに触れられていたとしても、契約事項として拘束力あるものとして書くためには、本文に書かなければいけません。

「契約書を書く」という見地から

契約の「具体的内容」は取引によって千差万別です。そこでこれからは典型的な契約の種類をあげて、その骨格を紹介することにしますが、お手本は書式集に任せて、ここでは「契約書を書く」という見地からお話ししてみます。

契約書は義務を書く

国際契約を書くときの基本的な方向性は、「債務者」(何かをしなければならない人)を主語にして「義務を中心に書く」ということです。(☚これがポイント)。

もちろん一方通行の事柄を書くときは、権利を持っている人を主語にすることもあります。たとえば「買主は希望船積日を指定してよい」といったことです。

売買契約の骨組み―売主は商品を売る

売買契約上の売主の義務は商品を売ることです。そこで契約文言にするとすれば、義務を負う「売主」を主語にして「売主は商品を売り渡さなければならない」と書くことになります。
 
「売主」は Seller、「商品」は the Products、「売渡す」は sell です。なお Seller や the Products という語句がこの契約中で何を意味するかは、別途きちんと定義しておくこととします(定義について第17話第19話第20話をご覧下さい)。
 
Seller sells the Products.
 
しかしこれでは義務であるということが分かりません。辞書で「義務」をひいてみましょう。obligationという語が出てきます。これは使えるでしょうか。つなぎ合わせるとこうなります。
 
Seller’s obligation is to sell the Products.
 
これは説明としてはよいかもしれませんが、契約書は説明書ではなく、相手に何かをさせるためのものですから、もっとそのことをはっきり表す必要があります。

義務を表す助動詞-shall

人の「義務」を表すために英文契約書で定型的に使われる言葉は、助動詞のshall です。(☚これがポイント)
 
Seller shall sell the Products.

では実例を見てみましょう

例1.
Seller shall sell the Goods to Buyer.

これはほとんど上の文章と変わりませんね。この契約書では Goods (商品)は、日本の電器会社のある品番の battery cells と定義されていました。それで商品の特定が出来ます。

例2.
During the term of this Agreement, Seller shall sell and supply the products as set out in Schedule 1 hereto (“Products”) to Buyer.
 
最初の部分は「本契約の契約期間(term)において」ということです。
 
付表1(Schedule I)に「商品」の詳細が書いてあることになっていますね。そしてそこに記載されている商品 products を Products と定義して、大文字で書き始めていることに注目してください。

Supply という言葉は何を意味していますか?

次に supply という言葉が付け加わっています。ここでは「供給する」「相手が必要としているものを渡す」という意味で使われています。この言葉に特に法律的な意味合いはありません。
 
sell というのは「商品を相手に売渡す」ということですから、「供給する」ということは含んでいるので、契約書を書くときには sell の1語で十分です。
 
とは言え、買主としては「ちゃんと自分が必要としているものを渡して欲しい」ということを言いたくて、この言葉を入れるように頼んだのかもしれません。あっても有害ではありません。

売ることにともなって出てくる、その他の言葉はありますか?

売主の義務 sell をもう少し細かく見ると、「商品を引き渡すこと」「船積みすること」「所有権を引き渡すこと」などがあります。これらのことを表す言葉に delivershiptransfer などがあるので、説明しておきましょう。

Deliver

商品を「引渡す」、もう少し法的に言うと商品の「占有を移転する」ということを取り出して言うときに、deliver the Products を使います。これは法律用法といってよいでしょう。sell the Products や supply the Products だけでは占有の移転というニュアンスは出てきません。「引渡す」ことは大事なことなので、文章や項目を改めてどのように引渡すかが定められます(☚これがポイント)

Deliver と Ship は意味が違うのですか?

商品を運送のために委ねることを ship the Products と言います。この動詞 ship は「船積みする」と訳せますが、船だけではなく、貨車、トラック、飛行機など、すべての運送手段に使えます。

その時点で「引渡し」、つまり delivery となることが多いかもしれませんが、常に同じではありません。「フランスで引渡す」という契約があったとしたら、船積地は日本引渡地はフランスということになります。 

Deliver したら所有権も移転するのでしょうか?

所有権を移転する」という面に焦点を当てると
 
Seller shall transfer the ownership of the Products to Buyer.
 
と言うことが出来ます。日本語の「……の所有権」に100%相当する英語はないのですが、ownership oftitle toproperty in のどれかを使っておけばよいでしょう。前置詞が違っているのに注目してください。
 
「引渡し(delivery)」と「所有権の移転」は、同時に起こるとしても構いませんが、異なった概念です。たとえば広く使われる貿易条件であるインコタームズの1つの、FOBとよばれる条件のもとでは、船に商品を積めば商品を「引渡した」ことになります。しかし売主はお金をもらうまで「所有権を渡さずに、自分に留めおいておく」ことも可能です。

次回の予告

次回は買主について考えてみます。

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