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自らの足で立とうじゃないか

つらつら読書感想文です〜。ネタバレありなのでご注意くださいませ🙏

物語の枠組みが『流浪の月』(凪良ゆう過去作品)と似ている。本作も『流浪の月』も、

機能不全家族に育ち生きづらさを抱えた男女が惹かれ合うも、「社会」からの理不尽な「攻撃」により引き裂かれすれ違い、離れ離れでも互いを想い合って、あらゆる壁を乗り越えて最後は結ばれる。

というストーリーだ。

本作の場合、主人公の暁海(アキミ)と櫂(カイ)は二人とも「ヤングケアラー」だ。親子の役割が逆転しており、幼少期あるいは10代から親の精神的・金銭的ケアをしている。

親のことは憎いけれど、求められれば理不尽にも応じてしまう。心理的距離を取りたいけど取れない。振り子が半月型の分度器みたいな弧を描くように、180度向こう側にある感情と感情の間を振られ続ける苦しみがつぶさに描かれている。島社会の閉塞感や、染みついた「性へのステレオタイプ」が主人公たちをさらに息苦しくさせている。

読んでいて消耗する描写も多かったけれども、読み手が自身の経験との重複領域を探しに行ってしまう、気づけば共感点を探してしまう。音読したくなる美しい文章で読者をその世界に没入させる筆力。凪良ゆうさんは世界をどんなふうに知覚しているんだろう、などと読後ぼんやり思った。


この物語は恋愛小説のジャンルに分類されると思うけれど、裏テーマは「ヒロイン・暁海の成長と自立」だ。裏テーマというか、こちらが実はメインテーマなのでは、と思ってしまった。「女性たちよ、自らの足で立とうじゃないか」と静かに語りかけてくる。

著者がそのテーマを練り込むのに必要不可欠だった存在が、暁海の父の不倫相手、瞳子(トウコ)だ。
家庭崩壊の原因たる存在でありながら、それと同時に、暁海が自分の人生を生きるためのきっかけと方法を手渡した存在。

ありきたりな筋書きに倣うなら憎しみの対象でしかなかったはずの瞳子に、暁海は惹かれていく。誰にも遠慮せず、手に職を持ち自分で自分を養う、覚悟を持った女性。背筋を伸ばして堂々と前を見て自分の足で立つ女性に、暁海は初めて出会ったのだ。暁海の母親や櫂の母親、暁海自身とは対照的な人物として登場する。

一般的な倫理観としては不倫は許容されるものではない。しかし瞳子の在り方が、「男性に属する存在としての女性」という根深い刷り込みから暁海を少しずつ引き上げていく。

自分がどうありたいかの選択権は、いつでも自分の手の中にある。
自分を縛る鎖は自分で決める。

物語のクライマックスでは、セリフやモノローグで切実に言葉が紡がれる。

お金があるから自由でいられることもある。例えば、誰かに依存しなくていい。いやいや誰かに従わなくていい。それは、すごく大事なこと。

自分で自分を養える。それは、人が生きていく上での最低限の武器です。
結婚や出産という環境の変化に伴って一時的にしまってもいい。でも、いつでも取り出せるようメンテはしておくべきでしょうね。いざとなれば戦える、どこにでも飛び立てる。独身だろうが結婚していようが、その準備があるかないかで人生が違ってきます。

パートナーがいてもいなくても、子供がいてもいなくても、自分の足で立てること。それは、自分を守るためでもあり、自分の弱さを誰かに肩代わりさせないということでもある。人は、群れで生きていく動物だけど、助け合いと依存は違うから。

女性が仕事を続けること、自分を養うこと。匿名的な世間や身近な誰かに頭と心をジャックされることなく、一つひとつを自分で選び取ること。

言うは易しだけれど、令和のいまも、現実は一筋縄ではいかないことが多いと思う。結婚すべき、出産すべき、夫の転勤には妻がついていくべき。
姿の見えない世間からのさまざまな圧は女性の肩を重くしていく。

けれど、自分を守るために、守りたい存在に「自分の弱さを肩代わり」させないために、自らの足で立とうじゃないか。
そんな声が、行間から聞こえてくる気がした。

こんこんと諭された感覚はない。乾いた喉を潤すために腰を上げるような自然さで、やっぱり自分の航路は自分で舵取りしたいよなあ、と率直に思った。

それは私がまさに「自立」について心許なく感じているからだろう。物語から受け取るものに、無意識に独自のフィルターをかけている。受け取りたいものを受け取りにいっている気がする。

他の人は、この物語から全く別のものを受け取っているかもしれない。
同じものを差し出されても受け取るものが違う。それが手品を見ているみたいで面白いから、人の感想を聞きたくなるのかもしれない。

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