人生を決定づけるもの?谷崎潤一郎『痴人の愛』
【ネタバレあり】の読書感想文です〜うえーい。
2文deあらすじ
舞台は大正時代の日本。コンプレックスだらけの真面目な青年・譲治が、13歳下の美少女ナオミに翻弄され堕落していく話。
つらつら感想
まず、譲治に好感を抱く女性読者、いるのか?
容姿にも女性経験にもコンプレックスだらけ、西洋人へのコンプレックスが特に過剰(これは譲治だけでなく当時の日本全体に蔓延していたのか?)。自信がないゆえ、女性を「自分の価値を高める装飾品」と捉えている。鼻持ちならない奴。
で、ロリータコンプレックス。見初めた15歳の少女を自分好みの女性に育て上げようと企む。モテ要素を削ぎ落とした光源氏のよう。
なんか全然、魅力的な主人公じゃな〜い。
でも、ナオミに翻弄されまくって貯金も無くなって会社の人望も失って。女手ひとつで育ててくれた田舎の母親に、嘘をついてお金を無心して。じわじわ転落していく様子から目が離せない。譲治のなかに愛嬌を不思議と見るようになる。
ナオミの不貞からの別居からの復縁も、修羅場も、近くで覗き見しているみたいな背徳を感じた。人物それぞれの剥き出しの感情が、こちらの五感を震わせるよう。
自分のみぞおち辺りに「タネ」が輪郭を持って存在しているのを、まざまざと見せつけられてしまった。芸能人の痴情のもつれに群がる類の、心理のタネが。譲治もナオミも赤の他人で、彼らの惚れた腫れたなんぞ私には一ミリの関係もないのに「で、この人たちどうなっちゃうの?」と展開を追わずにはいられない。赤の他人だからこそ、か。
ところで譲治もナオミも、良くも悪くも「自己評価どおり」の人生を送っているなと思った。
譲治はナオミのせいで“不幸な境遇”なのか?
そうではない気する。
容姿がどうとかどうでもいいさ、と毅然と日常を営んでいればもっと穏やかな愛の経験、結婚生活ができたのでは。それが「当人にとっての幸せ」かどうかはわからないけど。
ナオミも。譲治から搾り取れるだけ搾り取ろうと、終始鼻息を荒くしていたけれど。容姿に恵まれたナオミも、コンプレックスにラッピングされているんだよなきっと。
ちょっと話が変わりますが、私が10代20代で出会った「とびきりイケメンとか美人ってわけじゃないけどめっちゃモテる人」って「モテるのが当たり前」になっている感じだったよな、と。そんなことを思い出した。当人にとってはそれが、「意識するまでもない当たり前の感覚」なのだ。
出来事、出会い。毎日の膨大な「インプット」がある。そこからどんな「アウトプット」が編み上げられるかは、自分がどんな変換係数(前提、自己評価)を持っているかに左右されるんだろう。
そんなことを脈絡なく考えた読書時間だった。
魔性の女ナオミ、物語が終わる頃もまだ19歳。その後、どんな人生を送ったんだろう。気になる。