WISHING 10/27/23 不登校の増加に思う
田舎に帰って法事に参列した。空いた時間に人が集まるいくつかの場所を訪問する必要があったのだが、今だに例外なく全ての場所で全員がマスクをつけていた。周囲からの監視のきつい田舎でそうであることは予想の範囲内であったが、実際にその場に入っていくと自分を異邦人として確信せざるをえなかった。法事の場では、自分の家族以外のほぼ全員が25年から40年以上ご無沙汰している人達だった。近くに座っていた認知症混じりの老人がひとりだけ途中でマスクを外していたが、弔問客全員がマスクをしていた。誰が誰だかわからない人達に囲まれた空間の中で、場違いのところにいるような感覚が最後まで消えることはなかった。弔問客の女性の一人が通り一遍の挨拶の後に近づいて話しかけてきたが、こちらは相手が誰だかわからないまま、ただ聞いているだけだったのだが、途中で気づいたらしく、「私が誰かわかる?」「いや、わからない」「えっ、そうなの?」(そう言われても、わからないものはわからない。苦し紛れに)「ちょっとマスク外してみてよ」(目元だけで全く誰だか想像すらつかなかった相手を、それでわかる自信はなかったのだが。)彼女は名乗った。(中学生の時以来会ったことのない同級生であることをおぼろげながらに理解した。つもりになったと言った方が正確かもしれない。)
2021年に隣に越してきた人は、今はマスクを外しているのだが、初めましての時からずっとマスクをつけていたためか、お隣さんの顔を今だに想起することができない程度なので、街中で会ったとき挨拶できるか未だに自信がない。
診察には視診が不可欠なので診察室ではマスクを取るようにお願いしている。それでも口を開けてもらう時以外はマスクをしてしまう人も今だに多いため、毎日200人以上のマスク付きのヒトの顔をたくさん見たという記憶だけは残るが、まるで顔の下半分の輪郭や配置が覆い隠されて目元だけで推測を余儀なくされる顔当てクイズのカードを連続して目の前に繰り出されるような状況下では、そもそも一人一人の名前に対応した顔を想起できるほどの印象や記憶を残そうにも元から無理な話だ。顔全体が想起されるような出会いは一人分の人間と顔を合わせた確固とした記憶が残るが、顔当てクイズのカードを100枚見せられたところで、一人分の人間に会った記憶さえ残らない。
無味乾燥なヒトの目元を見せられても、それに対して親近感らしいものを感じるのは難しい。ましてや、マスクに加えて深々と帽子をかぶったりフードをかぶったままだと、本能的には診察室に侵入してくる危険人物として心が自動的に警戒し、まともにコミュニケーションを取ろうとするためには多大なエネルギーが必要となる。
表情を認識する能力は社会的相互作用の基本的な部分であり、全体的な社会的・認知的機能と関連している。顔がマスクされていると表情の認識に影響があり、全体の認識精度が24%低下する。またマスクは個人間の非言語的コミュニケーションを損なうということが示されている。特に感情の読み取りのためには、顔の下半分からの視覚情報が重要であることが示されている。
私たちは目や口、額の動きまで含めて顔全体を読んでいる。そのため、これらの動きの半分が覆われてしまうと、脳が再調整するのが難しくなる。さらに、顔を読むことは、社会的相互作用の中での文脈を理解するために必要だ。なぜなら、誰かが幸せだと言っていても、彼の顔はまったく違う感情を表しているかもしれないからだ (1193)。
文部科学省が公表した「問題行動・不登校調査」で、全国の小中学校で2022年度に学校を30日以上欠席した不登校の児童生徒は、2020年度から2021年度にかけて25%増、2021年度から2022年度にかけて22%増の29万9048人となり、過去最多を記録した。児童生徒100人中3.2人が不登校であった。
小学生は2020年度から2021年度にかけて28%増、2021年度から2022年度にかけて29%増、中学生は2020年度から2021年度にかけて23%増、2021年度から2022年度にかけて19%増であった。2022年度は、小学生の100人に1.7人が、中学生の100人に6人が不登校であった。
要因で最も多かったのは「無気力、不安」51.8%だった。交友関係が築けず、登校意欲が低下していることが不登校の急増につながっていると推測されている (1194)。
新しいクラスに入って知らない者同士の不安の中、少しでも自分が知っているという確信が得られる友達という拠り所を探そうと努力し続けても、マスクに邪魔されて周囲が何者かよくわからないままの状況が続いたとしたら、そこが自分の居場所・安心できる場所として認知されにくいだろうことは、想像に難くない。
不登校の増加は2020年からすでに明らかだった。2020年秋以降、不登校や心身症のために外来を訪れる親子が私のところも含めて顕著に増え続けていた (1195)。そして、どんなに遅くとも2022年春にはマスクは不要であり、すでにその弊害は多方面で明らかなものになっていた 【04/01/22】。先にあげたような、マスクとコミュニケーションや小児の社会心理発達との関係についての研究結果も発表され続けていた。
未来そのものである子供たちに、学校現場にこれほどまでに深い傷跡を残しておいて、無駄に長期間マスクマスクと脅かし続けておいて、果たして仕方がなかったで許される問題なのだろうか?
(1193)
(1194)
https://www.mext.go.jp/content/20231004-mxt_jidou01-100002753_1.pdf
(1195)
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