訴訟をしてもお金が回収できない?――財産開示手続の活用
1.はじめに
弁護士として法律相談を受けていると、「それで、この訴訟は勝てますか」という相談を受けることは日常茶飯事である。
しかし、訴訟に勝てるか勝てないかという見通し自体も重要ではあるが、本当に相談者が知りたいのは、要は、訴訟した際に相手から金がとれるのかという点であることがほとんどだろう。お金の回収可能性は、売掛金、貸金、養育費、不貞慰謝料、残業代請求、インターネットの誹謗中傷事件などなど、あらゆる場面で問題となる。
民事訴訟を提起して「被告は原告に対し、金●●万円を支払え。」という判決が出ても、それだけでは判決という名の紙切れを獲得しただけで、自動でお金が回収できるわけではない。判決後に自発的に支払ってくる被告もある程度はいるが、判決を出た後に無視する被告も一定程度存在するのが実態である。
この場合、判決をもとに強制執行を行う必要があるが、財産のありかを債権者=原告側で見つけ出さなければならない。
そして、財産のありかを見つける手段の一つに「財産開示手続」があるが、以前は実効性がなく無意味な手続で、ほとんど行われていなかった。
しかし、2019年に財産開示手続が改正された。この改正はそこそこ画期的であり、財産開示手続は、実効性皆無の手続から、使い勝手は悪いが実効性がないわけでもない手続にレベルアップした。本稿では、この財産開示手続について述べる。
2.財産開示手続の法的効果
①財産開示手続に、相手方個人又は法人の代表者を呼び出し、財産を聞き出すことができる(債務者は本人が来なければならず、弁護士を代理人として出頭させることはできない。)
②時効の完成が猶予され、かつ、時効の更新が行われる(民法148条1項4号、同条2項)
③下記のいずれかの場合、陳述等拒絶の罪として刑事告発ができる
A:正当な理由なく、出頭せず、又は宣誓を拒んだ(民執法213条1項5号)
B:期日において宣誓した開示義務者が、正当な理由なく陳述をせず、又は虚偽の陳述をした(同項6号)
④開示期日から3年間、不動産について第三者からの情報取得手続の実施が可能となる(民執法205条)。
※養育費等又は人の生命若しくは身体の侵害による損害賠償請求権の場合には、さらに勤務先についても情報取得が可能
財産開示手続にはおおむね上記のような意味合いがあるが、刑事告発が可能という点で、改正前より実効性が多少上がっている。
申立てに必要な実費は、必要書類の取得のための費用をあわせても1万円弱であり、申立てにあたって特段おおがかりな調査も不要である。
申立ての要件として、「知れている財産に対する強制執行(担保権の実行)を実施しても、申立人が当該金銭債権(被担保債権)の完全な弁済を得られないこと」というものがあるが、相手の居住不動産の登記を取得して、家を持っていないことさえ示せば十分であることが多い。500円程度で可能な調査である。
申立書式も裁判所ホームページに載っており、ほとんどチェックするだけで終わるので、作成は20分もあれば可能である。財産調査結果報告書では、財産が不明な場合はその理由を書く必要があるが、2~3行理由を書くだけでよい。たとえば、不法行為事案で顔見知りでない場合は、その事実自体が財産調査が不可能な理由となる(「本事案は、道端で突然暴行を受けた事案であり、債務者とは面識がないため、債務者の財産を調査する手段がない」等)。
本人訴訟で確定判決を得たり、離婚時に養育費や慰謝料について公正証書の取り決めを行ったりしたが、金銭が支払われないというとき、弁護士に委任せずとも起こせる手続としては、財産開示手続が最も手軽だろう。
なお、一度申立てを行うと、3年間は再度の申立てを行えないことには注意が必要である(例外は存する)が、この制限を理由として申立てを躊躇すべき場面というのは特段存在しないと思われる。
(参考・裁判所HP)https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minzi_section21/zaisankaizi/index.html
3.補足――第三者からの情報取得手続について
財産開示手続のデメリットとして、「正面から相手の財産を聞く」という手続なので、債務者の財産の隠匿を防げないというものがある。
相手が詐欺を行っている人物や悪徳業者などの場合には、財産開示手続を申し立てる前に、相手に知られずに進めることが可能な第三者からの情報取得手続(預貯金情報の取得)という制度を用いる方が望ましいかもしれない。
なお、預貯金情報の取得も、一応本人での申立ては可能である。ただし、預貯金情報の取得は、実は以下のような問題点が指摘できる。
・金融機関に登録されている住所は、旧姓のままになっていたり、住所変更がなされていない場合があるので、戸籍の附票を取り寄せた上で判明する旧住所を全て併記しておかないと、取りこぼしが生じるおそれがある
・金融機関によってはフリガナ検索しかできない場合があるので、債務者の氏名のフリガナがわからないと、取りこぼしが生じるおそれがある
・債務者の氏名・住所・性別・生年月日の4要素がないと不該当回答となる機関が存在する
金融機関に登録している住所が旧住所である場合、金融機関はその事実を教えてくれず、単に「不該当」という回答が返ってきてしまう。そのため、本当にとりこぼしなく預金が見つかるのかは、申立て前に十分な検討をする必要がある。
弁護士であれば、受任した事件の相手方について職務上請求を用いることで、旧住所の探索(改製原戸籍・戸籍の附票)やフリガナ・生年月日の探索(住民票の取得)を速やかに行える。
第三者からの情報取得手続(預貯金情報の取得)については、弁護士に委任した方が、望ましい結果が得られる確率は増えるだろう。
4.財産開示手続の増加について
財産開示手続の申立ては法改正後に激増しており、統計上は以下のとおりである。
令和元年 577件
令和2年 3930件
令和3年 8156件
令和4年 15354件
令和5年の統計はまだ出ていないが、東京地裁の事件番号の数字は昨年よりも微増しているので、少なくとも1万7000件くらいは申し立てられたのではないかと思っている。
数は激増しているものの、執行裁判所の手続が大幅に遅滞しているという状況でもないため(東京地裁の場合、体感では申立書を郵送してから2週間以内には何らかの連絡がくる印象である)、回収できていない債務名義を持っている人は、一度、財産開示手続の申立てをしてみてもよいのではないだろうか。
なお、財産開示手続を弁護士に頼む場合は、5万5000円~(+実費)くらいで対応してもらえると思うので、申立てが面倒な人は弁護士に依頼してしまおう。