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短編小説「猫模様」

冬。猫のマロが縁側に鎮座している。
折り目正しい香箱座り。陽が当たる座布団の上。

消してあるコタツの中に居てもしようがない。
灰色の尻尾を薫らせながら、庭の松を眺めている。
風流を好む珍しい模様の猫は、縁側で四季を嗜む。

生まれて真っ直ぐこの家に来た彼は、甘やかされた割に手が掛からない。
ほとんどの時間は浅い眠りに費やされる。

抱えて外を歩けば欠伸をしてそのまま寝てしまうし、地面に降ろしてもその場で毛づくろいを始める。

茶の間に清々しい空気を入れようと縁側を開け放っても庭に出ることは無い。行方不明になることはまず無いだろう。縁側か仏間か。この時期なら掘り炬燵の中か。

雪一面の庭に、最近越してきた黒猫がまたやって来た。今日も緑の首飾りが良く似合っている。彼女はマロに関心があるようで、縁側に寄っては高い音でゴロゴロと話す。

「来ちゃった」

黒い猫は縁起が良いと聞く。

「あなたの模様って、本当にステキ」

猫にも個性がある。

「家の中にばかり居て、退屈はしない?」

猫は家に付く。

「外を知らないからよ」

猫に経。

「晴れの日って、凄く良い香りがするの」

有っても無くても、猫の尻尾。

「また来るね」

福猫は少し歩いてから振り返り、顔を撫でて見せた。
マロは毛づくろいを始め、高い音でゴロゴロと言う。

清々しい空気を入れようと隙間を開けた途端、マロがスルリと音を立てた。
雪に小さな足跡を付けながら風景を見渡す。

空は明るい青に白い雲が少し。
庭の奥には柏の木が縁起よく連なり、反対側には随分と遠くが広がっている。

「良い香りがするね」

ゆっくりと福猫に歩み寄って、頬を擦り付けた。
黒と灰色が随分と艶やかに見える。

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