「しかしただ一つのことを知っておきたまえ、そしてしっかりとあなたの柔軟な心にきざみつけておきたまえ、人間が孤独にたいする恐怖をもっているということを。すべての孤独のなかでも、精神的孤独がもっとも恐しいものだ。神とともに住む最初の隠者は、精霊たちの世界にびっしりととりこまれて生活していた。癩病患者であれ、囚人であれ、罪人であれ、病人であれ、最初にうかぶ考えは、かれの運命に同伴してくれるものがほしいということである。この生命そのもののような衝動を生かすために、人間は全力をつくす。生活のすべてのエネルギーをついやす。サタンはこのおそろしい熱望をもたない人間を発見することがあったろうか。この問題については一大叙事詩を書くことができよう。それは失楽園のプロローグともなったであろう。なぜなら、失楽園とは叛逆の弁護状にほかならないからだ。」(バルザック『幻滅』)