入祭唱 "Loquetur Dominus pacem" (グレゴリオ聖歌逐語訳シリーズ8)
GRADUALE ROMANUM (1974) / GRADUALE TRIPLEX p. 369; GRADUALE NOVUM I p. 359.
gregorien.info内のこの聖歌のページ
更新履歴
2023年12月8日
「教会の典礼における使用機会」の部中,「20世紀後半の大改革以前のローマ典礼 (現在も「特別形式」典礼として有効) において」の部分を書き改めた。
2023年11月25日
現在の方針に合わせ,全面的に改訂した (タイトルの変更,「教会の典礼における使用機会」および「テキスト,全体訳,元テキストとの比較」の各部の新設,対訳の部と逐語訳の部との統合など)。
訳も改めた。アンティフォナについては「聖なる者たち」の後に括弧書きで記していた「敬虔な者たち」というのを削除しただけだが,詩篇唱のほうは比較的大きく変えた。なおこの詩篇唱は年間第33週の入祭唱と共通であり,今回実際にしたことは,そちらの記事の改訂時に改めた訳文をこの記事にもそのまま写しただけである。
2018年11月16日 (日本時間17日)
投稿
【教会の典礼における使用機会】
【現行「通常形式」のローマ典礼 (1969年のアドヴェントから順次導入された) において】
1972年版ORDO CANTUS MISSAE (GRADUALE ROMANUM [1974] / TRIPLEXはだいたいこれに従っている) での使用機会は次の通りである。
年間第34週 (主日を除く)
聖エイレナイオス (イレネウス,イレネオ) の記念日 (6月28日)
「複数の殉教者」のCommune (復活節以外) (ほかの選択肢あり) ※Communeとは,ある属性を持つ聖人のミサで共通に用いられる式文・聖歌のこと。
「(使徒,殉教者,教会博士といった特別な属性を持たない?) 聖人」のCommune (ほかの選択肢あり)
「種々の機会のミサ」のうち,「キリスト者の一致のため」のミサ (ほかの選択肢あり)
年間第34週について,主日が除かれるのは,年間第34主日にあたる日には必ず「王であるキリスト」の祭日が祝われる (それ用に別の式文・聖歌がある) ためである。
2002年版ミサ典書では,この入祭唱は年間第34週 (主日を除く) のところにだけ載っている。上記ORDO CANTUS MISSAEにあるほかのさまざまな使用機会のところには,それぞれ別の入祭唱が記されている。
【20世紀後半の大改革以前のローマ典礼 (現在も「特別形式」典礼として有効) において】
1962年版ミサ典書では,聖ジェルヴァジウスGervasiusと聖プロタジウスProtasius (二人とも300年ごろ殉教したとされる) の記念 (6月19日) に割り当てられている。ただし同日に別の聖人の3級祝日 (祝日は「記念」よりランクが高い) が重なっているため,聖ジェルヴァジウスか聖プロタジウスを守護聖人としている教会でもなければ,実際にこの日に今回の入祭唱が歌われることはないのだろう。
AMSにまとめられている8~9世紀の諸聖歌書でも聖ジェルヴァジウスと聖プロタジウスの日に割り当てられており (AMS第116欄),こちらでは同日にほかの祝日が重なっているということはない。
【テキスト,全体訳,元テキストとの比較】
Loquetur Dominus pacem in plebem suam: et super sanctos suos, et in eos qui convertuntur ad ipsum. T. P. Alleluia, alleluia.
Ps. Benedixisti, Domine, terram tuam: avertisti captivitatem Iacob.
【アンティフォナ】主は御自分の民に向かって平和をお語りになるだろう,また御自分の聖なる者たちの上にも,また御自身のほうに向き直る者たちに向かっても。
【詩篇唱】主よ,あなたはあなたの地を祝福なさいました。あなたはヤコブの捕囚 [という災い] を転じてくださいました。
アンティフォナに用いられているのは詩篇第84篇 (ヘブライ語聖書では第85篇) 第9節の一部であり,テキストはだいたいローマ詩篇書に一致している (Vulgata=ガリア詩篇書では,最後が "ad cor")。ローマ詩篇書とこの入祭唱アンティフォナとの唯一の相違は,主語を示すための "Dominus" の一語が後者において加えられていることである。(「ローマ詩篇書」「Vulgata=ガリア詩篇書」とは何であるかについてはこちら。)
詩篇唱にとられているのも同じ詩篇第84 (85) 篇で,ここに掲げられているのはその第2節 (タイトルを除いた最初の節) である。テキストはローマ詩篇書にもVulgata=ガリア詩篇書にも一致している。
【対訳・逐語訳 (アンティフォナ)】
Loquetur Dominus pacem in plebem suam:
主は御自分の民に向かって平和をお語りになるだろう,
et super sanctos suos,
また御自分の聖なる者たちの上にも,
et in eos qui convertuntur ad ipsum.
また御自身のほうに向き直る者たちに向かっても。
【対訳・逐語訳 (詩篇唱)】
Benedixisti Domine terram tuam:
主よ,あなたはあなたの地を祝福なさいました。
avertisti captivitatem Iacob.
あなたはヤコブの捕囚 [という災い] を転じてくださいました。
イスラエルの民の「イスラエル」はもともと個人名であり,その人イスラエルのもとの名は「ヤコブ」である (創世記第32章第29節を参照)。このことから,「ヤコブ」の名でイスラエルの民を指すことがよくあり,ここでもそれが行われている。
七十人訳ギリシャ語聖書は「あなたはヤコブの捕囚民を連れ帰ってくださいました」とも訳せるのだが,このラテン語の動詞averto, avertere (>avertisti) をそのような意味に訳すのは無理そうである。