拝領唱 "Tu, puer, propheta Altissimi vocaberis" (グレゴリオ聖歌逐語訳シリーズ85)

 GRADUALE ROMANUM (1974) / GRADUALE TRIPLEX p. 572; GRADUALE NOVUM II p. 262.
 gregorien.info内のこの聖歌のページ
 

【教会の典礼における使用機会】

 昔も今も,「洗礼者聖ヨハネの誕生」の祭日/1級祝日 (6月24日) に歌われる。
 

【テキスト,全体訳,元テキストとの比較】

Tu, puer, propheta Altissimi vocaberis: praeibis enim ante faciem Domini
parare vias eius.

おまえは,幼子よ,いと高き方の預言者と呼ばれることになる。というのも,おまえはしゅ顔に先立って行くことになるのだ,彼の道を準備するために。

 ルカによる福音書第1章第76節,ザカリアの讃歌 (ザカリアの預言) 中の言葉である (ザカリアは洗礼者ヨハネの父)。

 これをアンティフォナとして,詩篇唱としては,詩篇ではなくこのザカリアの讃歌の残りの部分 (ルカによる福音書第1章第68–75節,第77–79節) を歌うようにGRADUALE ROMANUM (1974) / TRIPLEXでは指示されている。
 さらに,「しかし昔の諸聖歌書に従い,ほかのどの節よりもまず第77,78,79節を歌うこと」とある。ザカリアの讃歌は第75節で一段落しており,第76節 (この拝領唱アンティフォナになっている節) から洗礼者ヨハネ個人についての話が始まるという構成になっているゆえの指示であろう。
  「昔の諸聖歌書に従い」というので,AMSにまとめられている8~9世紀の諸聖歌書を見てみると,このアンティフォナに続いて確かに "Ad dandam (scientiam)" (第77節の出だし) と書かれている。
 

【対訳】

Tu, puer, propheta Altissimi vocaberis:
おまえは,幼子よ,いと高き方 (至高者) の預言者と呼ばれることになる。

  •  未来時制だが,これは預言であり,未来時制の一般的な訳「~だろう」では確信の度合が低すぎるのでこう訳すことにする。

  •   「おまえ」は洗礼者ヨハネ。

  •   「いと高き方 (至高者)」は神のこと。次の文との関係上,またそもそもキリスト教における洗礼者ヨハネの役割からして,ここでは特にイエス・キリストを指すと考えるのがよいだろう。

praeibis enim ante faciem Domini
というのも,おまえはしゅ顔に先立って行くことになるのだ,
別訳:(……) 御姿に (……)

parare vias eius.
彼 (=主) の道を準備するために。
 

【逐語訳】

tu おまえは

  •  私の逐語訳では (あくまで逐語訳では。全体訳・対訳は別),主語として現れる主格の名詞は「~は」ではなく「~が」としているが,これは,主格の格助詞はあくまで「が」であって「は」ではないためである。「は」は話題を示す助詞だと認識している。
     ここで例外的に「は」を採ったのは,この語がまさに,主語を示す以上に話題を示していると思うためである。この拝領唱のテキストだけだとそのことは分かりづらいかもしれないが,もとの聖書の中ではザカリアの言葉はもっとスケールの大きな話 (神がアブラハムらとの契約を忘れずにその民を救ってくれること) で始まっており,それから洗礼者ヨハネ個人がその中で果たす役割のことに話題が移る。「全体の話はこうだが,その中でおまえは」と,後者への話題転換の役割を担っているように感じられるのがこの語なのである。

puer 幼子よ,子よ

  •  このラテン語単語自体には特に幼い子を指す意味はないようだが,原語であるギリシャ語は生まれたばかりの子を含む小さい子を指す語である。

propheta Altissimi いと高き方の預言者,至高者の預言者 (propheta:預言者 [主格],Altissimi:いと高き方の,至高者の)

vocaberis おまえが~と呼ばれるだろう,おまえが~と呼ばれることになる (動詞voco, vocareの直説法・受動態・未来時制・2人称・単数の形)

praeibis おまえが先立って行くだろう,おまえが先立って行くことになる (動詞praeeo, praeireの直説法・能動態・未来時制・2人称・単数の形)

enim というのも

ante ~の前に,~の前を

faciem Domini しゅの顔;主の姿 (faciem:姿,顔 [対格],Domini:主の)

parare 準備するために (動詞paro, parareの不定法・能動態・現在時制の形)

  •  英語でいうto不定詞のように働いている。

vias eius 彼の道を (vias:道を [複数形],eius:彼の)




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