拝領唱 "In splendoribus sanctorum" (グレゴリオ聖歌逐語訳シリーズ116)

 Graduale Romanum (1974) / Graduale Triplex, p. 44 (これら2冊の内容は四線譜の上下のネウマの有無を除けば基本的に同じだが,本文中で言及するときは,煩雑を避けるため後者のみ記す); Graduale Novum I, p. 23.
 gregorien.info内のこの聖歌のページ
 


【教会の典礼における使用機会】

【現行「通常形式」のローマ典礼 (1969年のアドヴェントから順次導入された) において】

 1972年版Ordo Cantus Missae (Graduale Triplex/Novumはだいたいこれに従っている) では,今回の拝領唱はしゅの降誕の祭日・夜半のミサ (12月25日,ただし実際には12月24日の晩に前倒しされることも多い) のみに割り当てられている。

 2002年版Missale Romanum (ローマ・ミサ典礼書) には,今回の拝領唱は載っていない (PDF内で "splendoribus" や "utero" をキーワードとする検索をかけた限りでは)。主の降誕の祭日・夜半のミサの拝領唱としては別のものが記されている。

【20世紀後半の大改革以前のローマ典礼 (現在も「特別形式」典礼として有効) において】

 1962年版Missale Romanum (ローマ・ミサ典礼書) では,PDF内で "splendoribus" や "luciferum" をキーワードとする検索をかけて見つけることができた限りでは,今回の拝領唱はしゅの降誕の祝日 (12月25日) の第1ミサ (夜半) のみに置かれている。

 AMSにまとめられている8~9世紀の6つの聖歌書写本のうち,拝領唱に関係あるのは5つ (M=Monzaモンツァ以外) であるが,そのすべてにおいて,今回の拝領唱はやはり主の降誕の祝日の第1ミサに置かれている。
 

【テキスト,全体訳,元テキストとの比較】

In splendoribus sanctorum, ex utero ante luciferum genui te.
聖者たちの輝きの中で,胎から明けの明星より前に私はあなたを産んだ。

 詩篇第109篇 (ヘブライ語聖書では第110篇) 第3節を構成する3つの部分のうち第2・第3の部分が用いられている。
 
テキストはローマ詩篇書にもVulgata=ガリア詩篇書 (ドイツ聖書協会2007年第5版) にも一致している (「ローマ詩篇書」「Vulgata=ガリア詩篇書」とは何であるかについてはこちら)。

 今回は全体が1文だけでできており,対訳を行わないので,いつもなら対訳とともに行なっている解説・考察をここで行う。

  •  キリスト教的に読めば,素直に考えるとこの「私」というのは父なる神, 「あなた」というのはイエス・キリストだということになりそうである。肉体を持たない神が「胎から [……] 産」むというのはもちろんたとえで,アウグスティヌスはこの「胎」は「隠れたところ」「見えないところ」を意味するものだと解説している (参考:『アウグスティヌス著作集』第20巻I [詩編注解5],東京 [教文館], 2011年,p. 314)。見えない神 (人間には隠されたもの) から生まれた存在であるということを言いたいのかもしれない。
     またこの解釈の線でゆくときの「明けの明星より前に」の意味するところについては,アウグスティヌスはこう述べている。ここで「明けの明星」というのはすべての星々の代表として挙げられているもので,つまり「明けの明星より前に」は「すべての星々より前に」と言っているに等しい。そしてすべての星々より前にとはいかなる時よりも前にということで,時よりも前というのはつまり永遠からということだ,と (参考:同書同頁)。

  •  アウグスティヌスが示しているもう一つの解釈は「胎」を文字通りの意味に取るもので,この場合聖母マリアの胎ということになる。では「あなたを産んだ」と言っている「私」は誰かというと,この詩篇の著者 (とみなされていた) ダビデである。聖母はダビデの子孫なので,言ってみればキリストはダビデに連なる胎から産まれたのでこのように言うことが可能なのだというわけである。
     この解釈の線でゆくときは, 「明けの明星より前に」も文字通りの意味に,つまり「夜に」という意味に取ることになる。イエス・キリストの誕生が夜に起こったことを指していることになる。(以上,参考:同書p. 315。)
     

【逐語訳】

in splendoribus sanctorum 聖者たちの輝きの中で (splendoribus:輝き [複数・奪格],sanctorum:聖者たちの,聖人たちの;諸々の聖なるものの) ……「諸々の聖なるものの」というのは "sanctorum" を中性と見る場合の訳。今回はおそらく違うだろうが,理論上は可能。
ex utero 胎から (utero:子宮,母胎;腹 [奪格])
ante luciferum 明けの明星より前に,明けの明星の前に (luciferum:明けの明星 [対格]) …… "ante" は時間的な「前」にも空間的な「前」にも用いられる語。
genui 私が産んだ (文字通り,つまり母親として);私が生んだ (父親になった) (動詞gigno, gignereの直説法・能動態・完了時制・1人称・単数の形)
te あなたを


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