Graduale Triplexに出てくる用語や指示の訳・解説 (2) pp. 38–61 (降誕節)
今回扱うのは降誕節のページである。現在12月24日であり,ちょうど本稿にあるような情報を探している方ももしかするといらっしゃるかもしれないので,まだ書いている途中であるが公開する。
第1回で訳したものは改めて訳さないので,必要に応じてそちらもご参照いただきたい。基本的な用語はだいたい第1回で扱われていると思う。
TEMPUS NATIVITATIS (p. 38)
「降誕節」。直訳すれば「誕生 (降誕) の季節」。
tempus 季節,時 (名詞,中性・単数・主格)
Nativitatis 誕生の,生誕の,降誕の (名詞,女性・単数・属格)
IN NATIVITATE DOMINI (p. 38)
「主の降誕にあたって」あるいは「主の降誕のために」。
主の降誕の祭日 (12月24日夕方~25日) の聖歌がここに記されている。
in ~にあたって,~のために (前置詞) …… ラテン語の "in" は英語などのそれに比べて意味が広い。
Nativitate 誕生,生誕,降誕 (名詞,女性・単数・奪格)
Domini 主の (名詞,男性・単数・属格)
AD MISSAM IN VIGILIA (p. 38)
「前晩ミサにおいて」「前晩ミサのために」。
主日 (日曜日) と特に大きな祝いの日 (祭日という) は前晩から祝い始めることになっており,前晩にミサを行う場合,たいていは当日のミサと同じ内容で行う。しかし,祭日の中には前晩ミサ用の式文を別個に持っているものがあり,そのようなときはこのような項目が設けられているわけである。類例はたとえばp. 248にある (聖霊降臨祭)。
ちなみに,このp. 38以降に載っているのは降誕祭の前晩ミサ用の聖歌であり,それゆえ降誕節の中に置かれているが,第2バチカン公会議後の典礼改革が行われるまでは,この式文はアドヴェントの最後に置かれていた。降誕祭のミサ4つ (前晩・夜半・早朝・日中) を番号で呼ぶことがあるのだが,その際この前晩ミサは数えず,夜半のミサを第1ミサと数えるのは,その伝統に従ったものだといえる。
なお,実際に12月24日の晩にカトリック教会に行くと,このミサではなく次の「夜半のミサ」を前倒しして祝っていることがほとんどである (「司牧的理由」によりこうすることも正式に許されている)。
ad ~において,~のために (前置詞)
missam ミサ (名詞,女性・単数・対格)
in ~における (前置詞)
vigilia 前晩 (名詞,女性・単数・奪格) ……もともとは「目覚めていること」などを意味する語。
AD MISSAM IN NOCTE (p. 41)
「夜半のミサにおいて」「夜半のミサのために」。
シャルパンティエが作曲したものは一般に「真夜中のミサ」と訳されているようだが,同じミサを指している。直訳すると単に「夜の (……)」。
伝統的な数え方ではクリスマス第1ミサ。
ad ~において,~のために (前置詞)
missam ミサ (名詞,女性・単数・対格)
in ~における (前置詞)
nocte 夜 (名詞,女性・単数・奪格)
AD MISSAM IN AURORA (p. 44)
「早朝の (明け方の) ミサにおいて」「早朝の (明け方の) ミサのために」。
伝統的な数え方ではクリスマス第2ミサ。
ad ~において,~のために (前置詞)
missam ミサ (名詞,女性・単数・対格)
in ~における (前置詞)
aurora 明け方,朝焼け (名詞,女性・単数・奪格)
AD MISSAM IN DIE (p. 47)
「日中のミサにおいて」「日中のミサのために」。
伝統的な数え方ではクリスマス第3ミサ。
ad ~において,~のために (前置詞)
missam ミサ (名詞,女性・単数・対格)
in ~における (前置詞)
die 日中 (名詞,男性または女性・単数・奪格)
Dominica infra octavam Nativitatis Domini vel, ea deficiente, die 30 decembris (p.51)
「主の降誕の八日間に属する主日に,あるいはそれがない場合は12月30日に」。「聖家族の祝日」の日取りを指示している。
「主の降誕の八日間」とは,12月25日から1月1日までの8日間である。「八日間 (octava)」というのは単なる日数ではなく一種の典礼用語であって,特に重要な祝いを当日だけでなく8日間にわたって祝うときに現れるものである。かつてはこのような「八日間」を持つものはいろいろあったが,現在では主の降誕と主の復活のみである。
「それ (主の降誕の八日間に属する主日) がない場合は」とあるが,ここで想定されているのは12月25日が (それに伴い1月1日も) 日曜にあたる場合である。「八日間」の両端は特に大切にされるので,八日間に「属する」(つまり,ある意味「八日間」に対して下位に置かれている) 日というときにはこの両日は含まれないのだ (そもそも「主の降誕の八日間」の源泉である12月25日が含まれないのは当然だが),と考えることができるだろう。なお1月1日には「神の母聖マリア」という祭日 (sollemnitas) が置かれており,こちらのほうが優先順位が高いので (「祭日 sollemnitas」は「祝日 festum」よりも優先される),いずれにせよそういうことになる。
dominica 主日 (日曜日) に (名詞,女性・単数・奪格)
infra ~に属する (前置詞)
octavam 八日間 (名詞,女性・単数・対格)
Nativitatis 誕生の,生誕の,降誕の (名詞,女性・単数・属格)
Domini 主の (名詞,男性・単数・属格)
vel あるいは (接続詞)
ea deficiente それが欠けているときには,それが消滅するときには (ea:指示代名詞,女性・単数・奪格,deficiente:動詞deficio, deficere「なくなる,消える,欠ける」をもとにした現在能動分詞,女性・単数・奪格) …… いわゆる独立奪格句 (絶対的奪格) 構文。英語でいう独立分詞構文のような働きをする。
die 日に (名詞,男性または女性・単数・奪格)
30 (trigesimo/trigesima ["die" が男性なのか女性なのかによる] 第30の (形容詞 [序数詞],男性または女性・単数・奪格) …… tricesimo/tricesimaともいうが,Graduale Triplexではcでなくgが用いられている (p. 357など)。
decembris 12月の (名詞,男性・単数・属格)
SANCTAE FAMILIAE IESU, MARIAE ET IOSEPH (p. 51)
「イエス,マリア,ヨゼフの聖家族の」,あるいは「聖家族すなわちイエス,マリア,ヨゼフの」。
属格をとっているので「~の」である。「祝日」が省略されているとも考えられるし,直前の "Dominica infra octavam Nativitatis Domini..." にかかっているとも考えられる。いずれにせよ,そもそもラテン語のミサ典礼書や聖歌書における聖人の祭日・祝日・記念日のタイトル (つまり聖人名) は基本的に属格で記されているので,あまり深く考える必要はないだろう。
「イエス,マリア,ヨゼフの」は「聖家族の」にかかっているともとれるし,「聖家族の」と同格 (言いかえ) ともとれる。
Sanctae 聖なる (形容詞,女性・単数・属格)
Familiae 家族の (名詞,女性・単数・属格)
Iesu イエスの (名詞,男性・単数・属格) ……特殊な格変化をする。
Mariae マリアの (名詞,女性・単数・属格)
et (英:and)
Ioseph ヨゼフの (名詞,男性・単数・属格) ……ヘブライ語由来の名前によくあることだが,格による語尾変化がない。
INFRA OCTAVAM NATIVITATIS DOMINI (p. 52)
「主の降誕の八日間に属する (日々において)」,直訳すると「主の降誕の八日間の下において」。
単に「主の降誕の八日間の間」すなわち12月25日~1月1日ということを言っているだけかもしれないが,実は文字通り「主の降誕の八日間の下 (下位) において」という意味にとるのが実用上はぴったりくる。どういうことかというと,主の降誕の八日間に含まれる日というのは,その源泉たる「主の降誕の祭日」(12月25日) を別にしても半分以上がより優先順位の高い記念内容をもっており (つまりそれぞれ固有のミサ式文をもっており),純粋に「主の降誕の八日間として」祝われうる日というのは12月29~31日の3日間しかないのである。なお,その「より優先順位の高い記念内容」というのは次の通り。
12月26日:最初の殉教者聖ステファノの祝日
12月27日:使徒・福音記者聖ヨハネの祝日
12月28日:聖なる無辜の者たち (幼子殉教者,聖嬰児) の祝日
1月1日:神の母聖マリアの祭日
これらの日々 (と,もちろん12月25日) はいわば,主の降誕の八日間より「上位」の日々だともいえる。"Infra octavam Nativitatis Domini" の固有唱が用いられうるのは前述の通り12月29~31日だけなので,このラテン語をまさしく「主の降誕の八日間の下位において」という意味にとり,この3日間だけを指していると考えても,少なくとも実用上全く問題ない,いやむしろ都合がよいくらいなのである。
infra ~の下に (前置詞)
octavam 八日間 (名詞,対格)
Nativitatis Domini 主の降誕の (Nativitatis:誕生の,降誕の,Domini:主の)
Ut in Nativitate Domini ad Missam in aurora (Lux fulgebit), 44, vel in die (Puer), 47, praeter: (p. 52)
「主の降誕・早朝のミサ (Lux fulgebit, p. 44) または日中のミサ (Puer, p. 52) と同様に。ただし次に示すものを除く」。
"Lux fulgebit" は主の降誕・早朝のミサの入祭唱の冒頭句,"Puer [natus est nobis]" は主の降誕・日中のミサのそれである。
「次に示すものを除く (praeter:)」として記されている聖歌は2つ,アレルヤ唱 "Multifarie olim" と拝領唱 "Responsum" (これは12月29日のみ) である。
ut ~のように,~と同様に (英:as)
in Nativitate Domini ad Missam in aurora 主の降誕・早朝のミサ ……より逐語的には上記参照。
(Lux fulgebit) (入祭唱冒頭句の表示)
44 44ページ
vel または
in die [主の降誕・] 日中の [ミサ]
(Puer) (入祭唱冒頭句の表示)
47 47ページ
praeter ~を除いて (前置詞)
: 次に示すもの
In octava Nativitatis Domini (p. 53)
「主の降誕の八日目に」。
"octava" はここまで示してきたように「八日間」の意味で用いられることもあるが,ここでは「八日目」すなわち1週間後の日の意味である。
in ~において (前置詞)
octava 八日目 (名詞,女性・単数・奪格)
Nativitatis Domini 主の降誕の
SOLLEMNITAS SANCTAE DEI GENETRICIS MARIAE (p. 53)
「神の母聖マリアの祭日」。
"matris" (<mater) ではなく "genetricis" (<genetrix) という語が用いられていることをしっかり反映させるなら, 「神の母」より「神をお産みになった方」がよい。日本の正教会では聖母は「生神女」と呼ばれているそうだが,これこそDei Genetrixの訳として本当は最もふさわしいものだといえる。
sollemnitas 祭日 (名詞,女性・単数・主格)
sanctae 聖,聖なる (形容詞,女性・単数・属格) ……Graduale Triplexではここはすべて大文字で書かれているため,書き分けるとしたらどこが大文字でどこが小文字なのか判別できず,つまり最初の文字sがどちらなのか分からない。ほかの典礼書 (2002年版Missale Romanum,1972年版Ordo Cantus Missae) を見ると,いずれも見られる。一般に聖人を指して「聖〇〇」というときはこれまで私が見てきた限りでは大文字なので,大文字なら "Mariae" にかけて「聖マリア」ととるほうが妥当そうであり,小文字なら "Genetricis" にかけて「聖なる母」ととるのがよさそうに思える。といってもいつも厳密に使い分けられているわけではないので,あまり深く考えないのがよいのだろう。
Dei 神の
Genetricis 産んだ女の,母の ……強勢は "tri" にある。
Mariae マリアの …… "Dei Genetricis" と同格 (言いかえ)。
DOMINICA SECUNDA POST NATIVITATEM (p. 53)
In feriis temporis Nativitatis
Ante sollemnitatem Epiphaniae, ut in dom. II post Nativitatem, vel ut in Nativitate Domini ad Missam in die. (p. 55)
IN EPIPHANIA DOMINI (p. 56)
「主の公現にあたって」あるいは「主の公現のために」。
in ~にあたって,~のために (前置詞)
Epiphania 公現,顕現,出現 (名詞,女性・単数・奪格)
……ギリシャ語ἐπιφάνειαをそのままラテン語化したもので,ラテン語としては専らキリスト教の文脈で用いられる語らしい。
……ラテン語では,強勢は "ni" にある。
Domini 主の (名詞,男性・単数・属格)
Ant. (p. 56)
In feriis post Epiphaniam
Ut in Epiphania, vel in Nativitate Domini ad Missam in aurora. (p. 59)
「公現祭後の週日に
公現祭と同様に,または主の降誕の早朝のミサと同様に」。
公現祭の翌日から主の洗礼の祝日の前日までの週日に用いるべき固有唱の指示。
in ~に (前置詞)
feriis 週日 (名詞,女性・複数・奪格)
post ~の後の (前置詞)
Epiphaniam 公現祭 (名詞,女性・単数・対格) ……強勢は "ni" にある。
ut ~のように (英:as)
in ~における (前置詞)
Epiphania 公現祭 (名詞,女性・単数・奪格)
vel または
in ~における (前置詞)
Nativitate Domini
ad Missam in aurora
Die 7 ianuarii
In regionibus ubi Epiphania celebratur dominica 8 ianuarii occurrente : (p. 59)
Die 8 ianuarii, vel feria tertia post Epiphaniam (p. 59)
Dominica post diem 6 ianuarii occurente
IN BAPTISMATE DOMINI (p. 59)
Quando sollemnitas Epiphaniae Domini ad dominicam die 7 vel 8 ianuarii occurrentem transfertur, festum Baptismatis Domini feria secunda sequenti celebratur. (p. 61)
quando
sollemnitas
Epiphaniae Domini
ad dominicam
die 7 vel 8 ianuarii
occurrentem
transfertur
festum Baptismatis Domini
feria secunda sequenti
celebratur
A feria 2 post hanc dominicam usque ad feriam 3 ante Quadragesimam, decurrit tempus per annum. In Missis, tum de dominica tum de feria, adhibentur cantus infra propositi, 257. (p. 61)
a ~から (前置詞) ……後の "usque ad" とセットで考えるとよい。
feria 2 (secunda) 第2週日 (月曜日)
post hanc dominicam この主日の後の (hanc:この,dominicam:主日 [対格]) ……直前の "feria 2" にかかる。
usque ad ~まで ……前の "a" とセットで考えるとよい。
feriam 3 (tertia) 第3週日 (火曜日)
ante Quadragesimam 四旬節の前の (Quadragesimam:四旬節 [対格]) ……直前の "feriam 3" にかかる。
decurrit 流れ下る,走って下る;目的に向かって進行する,終わりに向かって進行する (動詞decurro, decurrereの直説法・能動態・現在時制・3人称・単数の形)
tempus per annum 年間,一年を通じての時 (tempus:時,季節,per:~を通じて [英:through],annum:年 [単数・対格])
in Missis ミサにおいて (Missis:ミサ [複数・奪格])
tum … tum … ~でも~でも,~であれ~であれ
de dominica 主日の,主日についての (dominica:主日 [単数・奪格]) ……前の "Missis" にかかる。
de feria 週日の,週日についての (feria:週日 []
adhibentur
cantus
infra
propositi
257